続・続 郵便局ネットワークの将来像⑪

2022.04.10

 2月10日に日本郵政がリリースした「ローカル共創イニシアティブ」は、新しい人財をベンチャーや自治体に派遣する新たな取組み。地域創生とつながりが深そうだが、どのような可能性を秘めているのだろうか。

脱CSR! 地域創生はCSVで

 「新規ビジネスを起こすといっても、地方は都心部と異なり、マーケットが小さいためになかなか難しい。ローカルベンチャーの方々は社会課題解決型のビジネスをすでに起こしているため、そこに出向することが何よりも学びになる。ユニバーサルサービスを担う郵便局ネットワークを維持することを前提に、郵便局の〝拠点性〟を生かした新しい役割を見いだすときに社会課題解決型ベンチャーの力を借り、新たなビジネスを見つけることはまさに『共創プラットフォーム』の発想だ」。新規ビジネス室の小林さやか担当部長はこう語る。「ローカル共創イニシアティブ」の発案者だ。
 
 小林担当部長
 〝イニシアティブ〟は新規ビジネス室が立ち上げられた2020(令和2)年11月頃から具体的な企画に着手。増田寬也社長からゴーサインが出たのは昨年8月だった。書類選考や1次面接の後、実際に地域で一緒に活動するベンチャーや自治体とたくさんコミュニ―ケーションを取ってもらい、2年間仲間として働けるか判断を仰いだ上で、4社から8名が選ばれた。選出された人財は4月から地域と共に汗をかいていく。
 小林担当部長によれば、「公募により想定以上の応募をいただいた。事業を起こす意欲を備え、起業家精神を学んだ上で、“自分で”日本郵政グループの新規ビジネスにつなげる行動を取れる人物か否かを重視し、選出が進んでいった。派遣は2年間だが、2年待たずとも期間中に始められる事業もあるかもしれない。増田社長は『派遣される社員が糸の切れたたこのようにさせず、最初に行く8名が笑顔で派遣期間を過ごせるように』と期待を寄せ、派遣開始後も事務局は、月1回オンラインミーティングを行うなどのフォローを行い、具体的な施策につなげるため伴走を行う」と力を込める。
 派遣されるベンチャー企業や自治体は何を基準に誰が選定したのだろうか。小林担当部長は「派遣する組織に共通するのは『地域のお客さまの困り事をビジネスで解決する』ことにすでに取り組んでいること。今回、アドバイザーを務めるNPO法人ETIC.は、起業家育成に実績があり、全国各地域のベンチャーネットワークを持っているため、日本郵政グループと協業の可能性があるローカルベンチャーをリスト化していただいた。ETIC.と新規ビジネス室とで議論を重ね、決定した」と話す。

〝お困り事解決〟をビジネスに

 〝イニシアティブ〟は、組織横断的な体制で、日本郵便の地方創生推進部も事務局として一緒に進めている。「地方創生推進部を中心に、各支社や局長と派遣する組織などを共有している。局長の皆さんは地方創生に貢献したい強い思いを持っており、「地域活性化」という共通の目標のために、郵便局の皆さんと派遣される社員が連携して、「現場発」で一緒に新たな施策を検討させていただく可能性はあると思う」ととらえる。

 平野統括局長
 実際、派遣地域の一つ、三重県尾鷲市内を会内に持つ三重県南部地区連絡会の平野力統括局長(御浜神志山)は「3月1日にゼロカーボンシティ宣言も打ち出した尾鷲市が一番商品化したいのは森林と海洋資源。どちらも商品化が難しいが、今回の取り組みを通して、森林・海洋資源の保全を行いながら経済効果も上がる方策を見いだし、SDGS達成の取り組みを2025(令和7)年の大阪万博で発表したい意向も聞いている。
 
 三重県尾鷲市

 〝イニシアティブ〟が進むことで、地元産物を活用して資金が得られ、地域が発展するのならこの上なくうれしい。『リアル×デジタル』が進む中、地方の赤字局舎が閉められないために、郵便局は地域を潤わせなくてはならない。その手立てを会社が作ろうとされているのなら、何かできることがあれば一緒に手伝わせていただきたい思いだ」と喜びを見せる。
 「ローカル共創イニシアティブ」に近い、国の制度として、「地域活性化起業人」という自治体に特化した人材派遣制度もある。「地域おこし協力隊」企業版のような施策で派遣期間は最長で3年間。
 日本郵便は今年度から、千葉県のいすみ市に1名派遣中だ。〝イニシアティブ〟実施地域からは奈良市が、「共創」の主旨に賛同し、地域活性化企業人制度の活用を決定。自治体・ベンチャー企業・郵政グループがタッグを組んで、新たな施策を検討することになっている。
 
 小林担当部長は「郵便局の新たな役割を見つけられる事業として『ローカル共創イニシアティブ』を育てたい。地方創生は間口が広い。一つ一つの事業は大きくぶち上げるというより、小さく始め、広げられるものは広げ、地域も企業としても持続できるモデルを作ることが重要。CSR(企業の社会貢献)の時代は終わりを遂げ、社会課題に対してビジネスでどう解決していくか、CSV(共有価値の創造)へのチャレンジだ。リアルな郵便局ネットワークを持つ私たちができることを模索するきっかけにしていきたい」と思いを明かす。
 地域創生の取り組みをビジネスにするスクリューが郵政グループの中で大きく回転し始めた。現場のアイデアを吸い上げ、実現へ橋渡しする仕組みもできていけばリアルな郵便局ネットワークを生かすビジネスが各地からジワジワと湧き上がっていきそうだ。