営農事務一部を郵便局で 全国初 営農の課題解決を 島根県雲南市
山間地域等の農業を永続させるために必須となる重要な事務作業の一部を郵便局が受託する全国初の実装事業が日本郵政グループの「ローカル共創イニシアティブ」をきっかけに島根県雲南市久野地区で始まった。3月21日に久野交流センターで行われた「営農広域組織事務局サポート事務委託契約締結式」に招かれた雲南市の石飛厚志市長は「地域課題に郵便局の方々の力を借りながら新しい体制ができた。非常に意義深く、全国のモデルケースになる」と期待を寄せた。
協業から〝総働〟で農業の守り手を
「営農広域組織事務局サポート事務委託契約」は、日本郵政グループでローカル共創イニシアティブが始まった2022(令和4)年、社内公募で選ばれた社員の三輪信介さんが2年間、雲南市の自主運営組織である久野地区振興会へ出向し、あらゆる関係者と解決策を探る中、事業化のための収益を中山間地域等直接支払制度本体の交付金でなく、営農を広域化組織にまとめることで支払われる集落協定広域化加算金を活用する方策を見いだした。
24年3月、久野地区振興会は営農広域組織を立ち上げ、24年度、事務局を久野地区振興会が担い、一部事務を大東久野局(勝部恵輔局長)が受託する実証を経て、25年度から実装事業を開始。〝協働〟から〝総働〟で農業維持と活性化が始まった。
ローカル共創イニシアティブが実装に
高齢化が進む中山間地域では農業をやめる人が増え、集落の広域営農化を図らなければ農地を保てない状況だ。営農を組織化して収益を生み出すには事務作業が発生するが、補助金を活用する際のネックが事務作業。パソコン作業に慣れていない方も多く、市役所のOBなど事務に精通している方の高齢化や農業の直払いが止められる不在地域の担い手不足が地域課題として浮上していた。
三輪さんはこれらの課題解決を図るため、事業化に向けて市や振興会と16回もの打ち合わせを行うことで、道筋を拓いていった。出雲西部地区連絡会(四方田伸也統括局長/出雲大津)や雲南第一部会(今岡真二部会長/出雲大東)も全面的に協力した。
郵便局の新たな業務として生み出された営農一部事務作業は農村や農業の維持に有効で、郵便局ネットワーク維持のためにも有用なウィンウィンの取り組みとなる。雲南市の場合、全国に先駆けて市と住民の中間的な組織として、住民による自主運営組織の仕組みをつくっていた。
市の財政が厳しい中、自らの地域を自分たちで守ろうとする活動には市から交付金が支払われるため、営農組織と郵便局が直接契約を結ぶのは難しいが、一度自主運営組織が受け、その一部事務を受けるのであれば、広域化加算に位置付けられるため郵便局は受託しやすくなる。
締結式で、日本郵便の竹中正博執行役員(地域共創事業部長)は「中山間地域の暮らしと営農を支える郵便局の新たな役割に感謝申し上げたい。人口減少が進む中、担い手不足の対応は組織や人が複数の役割を担うことが重要だ。郵便局も地域の方々や行政との連携のもと、幅広い分野や地域で役立ちたい」と意欲を示した。
四方田統括局長は「雲南市と2018(平成30)年に包括連携協定を結び、年1~2回まちづくり協議会で課題解決を協議してきた。久野地区振興会の尽力と三輪社員の立案からの努力のたまもの。郵便局の価値を高める先駆けだ。共々に前へ進めたい」と強調した。
久野地区振興会の落合孝司会長は「以前から農業団体を広域化する話はあったが、まとめる人材がいなかった。三輪さんが十数回も会合を持って一本化し、広域化を実現できた。農村RMOの中国四国農政局主催のフォーラムで報告させていただいた。共助のもとで農地保全に努めたい」と述べた。
石飛雲南市長は「人口減少の中で集落維持が難しい。営農事務を担う人が地域内では見つからない課題に郵便局の力をお借りし、新体制ができた。〝協働〟から皆の〝総働〟によるまちづくりが必要だ。それぞれの地域で生き生きと幸せに暮らせる社会変革を目指したい」と語った。
郵便局の受託事務内容は、議事録作成、収支報告書や活動報告書等の各種書類の取りまとめ、市とやり取りする事務の一部を局が集約し、発送する。
立ち会い会見で、久野地区振興会の福間正人事務局長は「営農事務の資金管理は現在、振興会が請け負っているが、そうしたことも郵便局に委託できたらありがたい」と願いを込めた。
大東久野局の勝部局長は「本来業務とは異なる業務は分からないこともあるが、市や振興会の方々にバックアップいただき、乗り切れている。12月や3月はやや大変だが、今後も継続できると思う」と意志を表明した。
今岡真二部会長(地公体担当)
雲南市からは久野地区だけではなく、他の地域からも要望があれば営農事務を委託したいとのありがたいとお話もいただいている。市には各地域に自主運営組織があるため、仲立ちいただくことで、他地域においても営農事務受託を横展開できる可能性が高い。
少子高齢化により中山間地域の局の事務量も減少する中、地域からも喜ばれ、郵便局も手数料をいただける。ネットワークを維持する上で有効だ。
これまでは市と住民の協働が主だったが、これからは事業所や企業も皆で持続可能なまちを創ろうとの市長の想いは、日本郵政グループの共創と合致する。市第3次総合計画のキャッチフレーズは「えすこな雲南市」。えすこな、とは〝ほどよい〟の意。
人口減少を止めることまではできないが、その中でも「暮らして良かった」と思える地域を創ろうとされている。郵便局もどんどん関わっていける。