インタビュー 柘植芳文参議院議員(全特顧問・全簡連顧問・日本郵政退職者連盟顧問)

2021.10.22

 10月から民営化後15年目に突入した日本郵政グループ。過去20年間は激動の時代だったが、見直しや発展に尽力してきた柘植芳文参議院議員は、郵便局ネットワークの将来像を「三事業一体とグループ経営一体化の堅持」と、地域と生きる姿を改めて強調する。一方、収益性も重視し、「局窓口は三事業だけでなく、旅行会社や携帯会社等に開放し収益を得るべき。また、グループが持つ膨大な情報資産の有効活用を図るべきであり、郵便局が収益を上げられる拠点として生き残れるかの第四事業も生み出し、転換していけるかが勝負」と話す。

局窓口を開放し、ネットワーク価値高めよ

 ――柘植先生がご尽力され、長期間丁寧な議論の末、成立した改正郵便法が10月から施行されましたが、改めて意義をお教えください。
 柘植議員 郵政事業の一番遅れてきたのが郵便や物流の郵便事業だろう。貯金や保険の金融と異なり、民営化時に法律を見直されないまま、大枠である郵便法を基に郵便約款や多くの規則・法令が事業全体にかけられたまま走ってきた。また、郵便事業のデジタル化への投資もなく、人材に頼る形態からの脱皮が遅れたままである。
 国営時代の郵便サービスは、民営化される危機感の下で身の丈に合わないサービスを提供してきたが、いざ民間になって同じサービスを提供することが経営を圧迫した。今回の改正は主に配達部分で1日送達日数を延ばすことで、安定的にユニバーサルサービスである郵便を提供する改正だったが、あくまで郵便事業の経営課題解決の第一歩。
 今後も残された多くの課題を取り除かなければならない。すでに取り掛かられていると思うが、デジタル等の活用による配達の仕組みそのものも根本から見直さなければいけない時期かもしれない。料金体系も特に第三種郵便は学術文化や文科省の通信教育向けに格安で提供し、年間約59億円の赤字を生んでいる。配達に係る費用は同じだから、第一種や第二種を一体にし、また、三種、四種等を残すなら文科省や厚労省、農水省など関係省庁が補てんする仕組みを考えてもよいと思う。
 郵便局の窓口営業時間にあっては金融窓口の在り方について検討時期に来ていると考える。民営化前の公社化時に民間と同じ3時で閉める案が出たが、サービス低下になるとそのままにされた。時代も変わり、金融界もこれからどんどん変わっていく。サービス水準は利用者の皆さまの負担を検証しながら、将来の展望を示した中で全体のパッケージの一つのメニューとして段階的に見直さなければ、なかなかうまくいかないだろう。
 ――日本郵政グループ中期経営計画「JPグループビジョン」では「リアル×デジタル」が打ち出されましたが、過疎地などは70代以上の方々も多く「デジタル郵便局」と言われても分からないとの声も耳にしました。
 柘植議員 どのような人もデジタルの恩恵を享受できる社会を目指すデジタル庁もできた。その思いの一番近くに位置するのが郵便局だ。郵便局がどのような形でお客さまにデジタル社会の効用を与えていけるか、そのビジネスをグループとして考えていただきたい。もちろん郵便局の基本は「リアル郵便局」。デジタルを活用し、便利になり、時間を短縮できても、人と対面し、お客さまの心に寄り添う原点を失ってはいけない。
 先般、デジタル庁に、「デジタル庁と総務省と日本郵便の三者で、地域とタイアップする郵便局がデジタル化で何ができるか考えるプロジェクトを組んだらどうか」と提案すると「ぜひやりたい」と話していた。例えば、通販はAmazonで頼むとすごいスピードで手元に届くが、日本郵便の物販は注文後、一定程度時間がかかる。今、戦略資本提携を結んだ楽天とさまざま進めていると思うが、楽天はIT技術に優れた仕組みを持っているはずだから、うまく取り込んでほしい。
 また、日本郵政グループは膨大な情報量を持つ。個人情報をうまくビジネスで活用するには総務省所管の〝情報銀行〟を立ち上げることだ。各家庭の家族構成まで分かる情報を持っているのは日本郵政グループしかない。特に日本郵便だ。この情報網をビジネス化しないままでいるのはもったいない。
 金融2社の株式が処分されていく中で、手数料がなくなっていく日本郵便が情報銀行という子会社を作り、個人情報保護に留意した上で、情報データの有効活用を図って事業収益を上げるビジネスモデルを展開すべきだ。

三事業一体とグループ経営一体で

 ――柘植先生は製販一体にすべきと主張されていますが。
 柘植議員 当初の郵政民営化法は2007(平成19)年から10年後までにゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式を100%売却し、完全民営化する法律の立て付けだった。商品を販売する会社と企画する会社が異なる製販分離は、法的に間違ってはいなかった。
 しかし、5年後の12年に見直された改正民営化法で「三事業一体」「日本郵政グループ一体」が明記され、法律が根本的に変わった中で製販分離を続けると、先のかんぽの不適正営業問題で露見したように、かんぽ生命が作る商品やサービスの仕組みが日本郵便に本質的に浸透せずに、さまざまな問題を発生させてしまった。
 民営化以前の郵便局は、それぞれの地域の特色を出した施策を考えていたため、窓口で配布する周知品やサービス用品がお客さまに喜ばれていた。しかし、製販分離され、基本的に全国一律の施策が展開される中、明らかにニーズにマッチングしないものが倉庫に積まれる実態を目の当たりにしてきた。製販一体でなければ「売れる郵便局」になるのは難しい。
 改正民営化法では三事業一体がうたわれているのだから、せめて郵便局窓口の商品やサービスの営業は、日本郵便に任せる形にすべきである。お客さまとの対話の接点となる郵便局だからこそ、どういう商品が望まれているかが一番分かる。かんぽ生命としっかり連携し、お客さまの求められる商品開発しなければ、競合他社に勝てない。
 民営化当時、ゆうちょ銀行も直営店を233店舗作った。金融界の市場調査が目的だったが、あまり効果は出ていないようだ。最近、製販分離はおかしいのではないかと社内でも意見が出ていると聞く。かんぽもゆうちょも日本郵便で全体の8割の営業を担っている業態としては製販一体が望ましい。
 ――金融2社が完全別会社になってもグループ一体を堅持する形をどうお考えですか。
 柘植議員 会社も強く「グループ一体」と言い始めた。民営化委員会は「三事業一体」を強調しているが、その二つはイコール。改正民営化法には「三事業を郵便局の窓口において提供する」と明記されている。「一体」とは日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の一体を意味する。それに向けてグループはCXO(最高責任者を設置する制度)を取り入れ、最高統括経営責任者(CEO)に増田寬也社長が就任した。
 中計で注目すべきことは日本郵政と日本郵便の一体化。非常に大きな意味がある。役職者の兼務が定着すれば日本郵政と日本郵便が一体になる。何を意味するかといえば、金融2社の株式を売却した後、利益相反として、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の経営には日本郵政たりとも立ち入れなくなっている。そうしないためにも、日本郵政と日本郵便の下にゆうちょ銀行とかんぽ生命が位置するホールディングスにすれば、日本郵政は司令塔になれる。この形態により、名実共に日本郵政グループの一体化が進み、ガバナンスの取れた郵政グループとなる。
 日本郵便のかんぽ生命への約1万人出向もおそらくその一環だろう。もともとは日本郵便とかんぽ生命は同じ郵便局の屋根の下にいたのだから、どういう形でグループを変革しようとも、役員以上はそういう気持ちになっていただきたい。その上で外からの意見も重視し、直すべき部分を見直してほしい。
 増田社長には「各社バラバラの経営理念でなく、グループとしての方向性を定めた経営理念を作ってください」とお願いしている。基軸は収益事業でなく、公益事業体に置くべきだ。民営化時、民間から来た方々は収益第一に、もうけて株を売って、株主にどれだけ配分できるかを基軸とする「株式資本主義」に向かっていた。
 しかし、過去14年間を振り返れば、郵便局のビジネスにそぐわないことは時を経るごとに明白になった。得た収益の全てを株主に返すのではなく、一部を地域の住民や公益のために使う「公益資本主義」に基づくグループ一体を堅持することが目指すべき姿といえる。
 日本郵政グループ一体化に向けた増田社長の取り組みに期待するものである。

膨大な情報をビジネス武器に

 ――郵便局ネットワークの将来像と地方創生とどのように結び付けていくのですか。
 柘植議員 郵便局は「地方創生」より「地域創生」の方がしっくりくる。一番の強みは地方という大枠でなく、もっと細やかに地域を守り、元気にする力になれることだからだ。ネットワークの3分の2は赤字でも、過疎地や離島にある郵便局は1局たりとも廃止してはならない。地域から地方が崩れ、国が弱くなる。
 しかし都市部は、例えば、高度成長期にビルを建てるたびに多くの郵便物が出るようになって、ビルオーナーに郵便局を作ってもらって、地下に設置した局も多い。そうした局などは地上に出して数局合体させた方が良いかもしれない。最近、郵便局関係者の所有する局舎料のみが報じられているが、ビルオーナー所有局舎の局舎料のコストも検証すべきである。
 局舎は、昔は500㍍間隔で配置する法律に基づき配置されてきたが、地域の発展等、利用者ニーズにマッチングした局舎配置が求められる。これからは利用者増に伴う収益率に比重を置いた配置も考えてほしい。どこかに大きな商店などができれば人の流れが大きく変わる。
 局長が根差すことで信頼を築いてきた郵便局ネットワークを残すためにも弾力的に、全特としても、ネットワーク維持は国にとっても大事との認識を共有し、議論を重ねてほしい。郵便局ネットワークを維持できても郵政事業そのものが成り立たなくなるようでは元も子もない。事業を残すにはどのような形がベストか、道筋を模索することを今やるべきだ。
 2名局もあれば、大規模な局までさまざまだが、局舎配置は大胆に実施しなければ、過疎地や離島の局長や社員の成り手がいなくなる。いろいろなやり方も考え合わせながら発想を改めていく必要があるだろう。
 将来的に郵便局が収益を上げられる拠点として生き残れるのかは、三事業だけでなく、第四事業も生み出し、転換していけるかが勝負。日本郵便の経営に貢献するために他業種との提携も模索し、収益を上げる形を考えていただきたい。
 地域に密着し多くの情報を有する郵便局長の出番である。
 ドイツの郵便局舎を視察した際、窓口は3分の1以上を民間に貸していた。日本の都市部の単マネ局の窓口カウンター数が多いが、全部三事業。郵便窓口が多く、せわしなく人が動いている。デジタルを取り入れ、効率化を図り、今、10窓口があるとしたら6ぐらいにして、4窓口は民間に貸すことも提案したい。旅行会社や携帯会社に貸して家賃をもらえばよい。郵便局を介しての収益を図る方策をもっと検討したらよい。都市部には、比較的大きなエリマネ局もあり、窓口でいろいろ販売しているが、東京近県の埼玉や千葉から農産品を直送し、販売することも一案だ。
 ――郵便局長の存在意義はどのようなところにあるとお考えですか。
 柘植議員 150年前に前島密翁が郵政事業を作り上げる中、自宅を局舎として無償で提供してきた地域の有志の方々が今の郵便局長の先達だ。時代は変われど、局長は地域のために生きる使命がある。転勤をせずに地域で根を張り、三事業はもとより、さまざまな地域課題の受け皿として、国ができない地域づくりを補完してきた信頼は、そのまま郵政事業の信頼につながってきた。
 人口が少なく、収益が厳しい地域でも郵便局を配置する理由は、そこの郵便局長が地域再生や振興に貢献する存在になってきたことが背景にある。郵便局の存在だけでは地域からの信頼は得られない。そこに存在する郵便局長の昼夜を問わず地域貢献する姿が地域の信頼を得てきたのだ。
 昨今、局長職が会社のキャリアパスの一つみたいに捉えられるようになり、以前より地域への愛情や執着心が薄れてきたようにも感じるが、局長の存在意義を忘れてしまうと、これから先ずっと郵便局ネットワークを維持していくのは難しくなってしまう。非常に危険な兆候のように思う。
 ――局長の地域貢献が郵便局の価値を創造してきたということですね。
 柘植議員 「貢献」という言葉はやや上から目線も感じるが、やはり局長にとっては地域活動が一番大事な要素。局長時代には、夜10時くらいに地域の高齢者の方が突然、訪ねてこられ、家族が抱える悩みを延々と聞いたこともある。サラリーマン感覚で「非常識だから」と無視すれば、その方は誰にも相談できず、苦しかったに違いない。そんなことも日常茶飯事。365日24時間、地域の方がいざとなったら相談できる温かな存在感も、郵便局の信頼の〝礎〟を築いてきた。政治家にも、会社の幹部の方にも見えない話だと思うが、郵政事業150年の歴史の中でそうしたことも郵便局の原点のように思える。
 局長時代、新任局長には「地域に愛着を持て」と話してきた。自身が携わることで地域を作り上げていくのが局長の役目。現場が〝夢〟や〝誇り〟が湧くように、経営者の方々には三事業以外にも地域との結び付きを組み立てながら役割を担う新しいビジョンを強く打ち出してほしい。
 ――今後の課題等、お気付きの点がありましたら。
 柘植議員 最近の動きで局長の不転勤が犯罪につながりやすいといわれている。全面的には否定はしないが、局長転勤が全てを解決するとの発想は間違っている。郵政事業がどのような土壌の上に成り立ち、今につながってきたかに目を向けていただきたい。
 地方銀行や信用金庫など地域金融の支店長や店長も在任期間はそれなりに地域に関わってくれるが、2~3年で転勤される。地域の皆さまからの信頼は郵便局長と比にならない。何故ならば時には休日を返上し、地域の方々と共に汗を流す局長とでは、信頼関係において雲泥の差が出てくる。「縁の下の力持ち」として行動し続ける局長が支えているからこそ、郵政事業は地域にあって大きな信頼を勝ち得ているのである。
 犯罪はあってはならないことだが、その防止策を短絡的に局長の定期異動により解消できるとは思わない。郵政事業の信頼関係からすればそうした安易な転勤を考えることによる郵政事業の信頼を失うリスクは高いと考える。
 また、地区連絡会の統括局長ともなると、社員のマネジメントと営業戦略を立ててやっていかなければならず責任は重い。各地域で産業構造や住民の方の意識も異なる。エリアが核となって事業を動かすために、本社・支社の指示・命令系統をうまく伝わる仕組みも必要とともに、エリア内の特色ある営業戦略を描き出すことも強く求められる。エリア内の単マネ局とエリマネ局という二つの歴史的経緯形態が異なる組織の中でも、一体感を共有できる形とはどのようなものか、今回単  マネ局の見直しをされたが、かんぽの不適正事案が二度と起きない組織の一体的な仕組みの構築が急がれる。