主要国における郵政事業の現況 国立国会図書館 砂田篤子氏

2024.04.30

〇米国 事業形態と経営状況
 郵便事業庁(USPS)は1971年に誕生した連邦政府の独立機関。取り扱うのは郵便・小包サービスであり、郵便為替などを除き、預貯金などの金融サービスは、現在は行っていない。経営状態は悪く、07~21年度まで15年連続赤字で合計損失額は約921億㌦(約12兆6200億円)。USPSの経営状態の悪化は①郵便物数減少②非郵便事業への参入制限③不採算施設の閉鎖が容易にできない④退職者医療給付基金の積立義務の負担――などによるとされている(写真はUSPSの車両)。

米「2022年郵便サービス改革法」でコスト削減

 行き詰まりを改善するため、郵政改革に関する法案が繰り返し提出され、22年3月に「2022年郵便サービス改革法」が議会で可決された。
06年の「郵便改革法」以来の郵政に関する抜本的な法改正で、①USPSの退職者のメディケアへの移行と、退職者医療給付基金の積立義務の廃止②州政府や自治体などと契約する形での非郵便サービス実施の許可③週6日配達の義務付けなどを主な内容としている。
 同法の①の措置により、10年間で約500億㌦(約5兆7500億円)のコスト削減を図ることが目標として掲げられた。

国からの支援
 USPSは国からの直接的な財政支援を受けていないが、国からの借り入れと債券発行が可能。負債増加額は1年で合わせて30億㌦(約4200億円)まで、負債総額は150億㌦(約2兆1200億円)まで可能となっている。
 米国会計検査院の報告書は、議会がUSPSが財政的に自立することが期待できないと判断した場合などには、USPSに財政支援を行いうるとしている。

〇英国
事業形態と経営状況
 2012年4月に郵便関連会社の組織再編があり、政府が株式の100%を保有するロイヤルメール・ホールディングスの下に、ロイヤルメール・グループ・リミテッドとポストオフィス社が置かれた。
 配達業務を行うロイヤルメール・グループ・リミテッドは宅配・物流市場で成長する潜在力があるため、民営化してグローバル化する物流市場で国際競争力を付けることが意図された13年10月の上場と株式売却、15年6月の株式売却を経て、15年10月、政府はロイヤルメールplcの全ての株式を売却し、同社を完全民営化した。
 一方で、窓口業務を担うポストオフィス社には、投資家を引き付けるだけの魅力が少ないという理由から国営状態が維持され、現在はロイヤルメールplcの後継組織であるインターナショナル・ディストリビューションズ・サービス公開有限責任会社(IDS)と、ポストオフィス社の間に資本的なつながりはない。
 現在、IDSの下でロイヤルメール・グループ・リミテッドが主に国内で手紙・小包配達事業を行い、ゼネラル・ロジスティックス・システムズが主に国際物流を扱っている。また、政府が株式の100%を保有しているポストオフィス社が、郵便局の窓口業務を行っている。

国からの支援
 ポストオフィス社は国から金銭的支援を受ける見返りに1万1500局の郵便局ネットワークを維持することを約束。郵便局ネットワーク維持のため、ポストオフィス社は12年度から21年度までの総額で10億6000万ポンド(約1620億円)、19年度以降は毎年5000万ポンド(約71億円)のネットワーク補助金を受け取っている。
 この補助金はユニバーサルサービスのための補助金ではなく、郵便局を維持するためのコストという位置付けとなっている。
 ポストオフィス社はネットワーク補助金とは別に国からネットワーク転換のための投資支援を受けており、12年度から21年度までの投資支援の総額は11億5500万ポンド(約1640億円)である。

〇フランス
事業形態と経営状況
 株式会社ラ・ポストを中心とするラ・ポスト・グループが郵便や金融事業を担っている。ラ・ポストの株式は20年3月4日以降、預金供託金庫が66%、政府が34%を保有し、事実上の国有企業。
 ラ・ポスト・グループは主に①郵便と小包配達などを担う郵便・小包サービス②フランスと海外への急送便配送を担うジオポスト③小口金融や保険販売などを担うラ・バンク・ポスタル④小売・デジタルサービスの四つの事業部門から組織されている。
 郵便局では、ほぼ全ての窓口において金融商品を提供し、ラ・ポストの完全子会社であるラ・バンク・ポスタルは、ラ・ポストに委託手数料を支払う契約を締結している。
 ラ・ポスト・グループの収入はここ10年で約1・6倍となっており(12年度:約216億5800万ユーロ<約2兆2200億円>、22年度:約353億9200万ユーロ<約5兆1100億円>)、営業利益と純利益ともに黒字が続いている。

国からの支援
 ラ・ポストは「ラ・ポスト等組織法」により、①郵便のユニバーサルサービス提供②地域発展への貢献③新聞・雑誌等の地域への配布④金融サービスへのアクセス確保――の四つの公共サービスに関する責務を負っている。
 具体的な内容や範囲は01年以来3~5年ごとに見直しが行われ、フランス政府とラ・ポスト・グループとの間で締結される計画契約の中に規定されている。
 24年1月現在、23年から27年までの5年間の計画契約が最新のものである。国は四つの公共サービスについて、補助金の交付又は予算化を行っている。