インタビュー 日本郵便 高橋文昭常務執行役員

2023.02.11

 日本郵便が今年度から「郵便局の地方創生の事業アイデア」を育てる取り組みをスタートしたことをご存じだろうか。背景には、栃木県日光市や岐阜県飛騨市、静岡県藤枝市などで自治体にもコストを負担してもらう受託事務が郵便局現場から生まれていることがある。この取り組みを進めている高橋文昭常務執行役員は「局長をはじめとする社員の皆さんが自治体と密な関係を築いてくれたおかげで、良い流れができてきた」と語る。「地域づくりや地域貢献の新ビジネスの種に光を当て、育てていきたい」と話す。

新ビジネス、粒粒の種に〝光〟を

 ――自治体との包括連携協定もかなり進んでいるようですが。事務受託含めて現状をお教えください。
 高橋常務 包括連携協定は全国47都道府県のうち今年度は東京都と京都府と締結でき、44都道府県に至った。また、1741区市町村のうち1372区市町村(79%〈昨年12月末〉)と締結し、今年に入って新たに72自治体と締結できた。地域協力協定を含めると1732区市町村(99%)。
 事務受託も昨年11月末時点で421自治体から7240局が事務を受託し、一昨年11月から1年間で36自治体増(前年同期比9%増)、1602局増(同28%増)と順調に増加している。最近はマイナンバーカードの申請支援サポート業務の受託が増え、今年度末に向けてさらに増えていく見通しだ。
 マイナカードやプレミアム付商品券に加え、自治体と郵便局の双方が工夫した新しい取り組み事例が増えている。日光市は来局されたお客さまがタブレット端末を通じて市に直接オンライン行政相談ができる業務を市から受託。飛騨市は郵便局にドラッグストア商品を陳列してお客さまがカタログ販売で商品を局で受け取れる仕組みを市の補助金を使って実現した。
 藤枝市は市の委託を受け、局窓口ロビーで希望する住民の方にスマートフォン操作の支援を実践している。局長はじめとする社員の皆さんが自治体と密な人間関係を築いてくれたおかげで、地域の方々をサポートさせていただく新たな良い流れができてきたことに感謝したい。

 ――駅と一体型の郵便局のような形は進んでいきますか。農協との連携は。
 高橋常務 千葉県江見駅と一体の江見駅局は全国でも有名になった。一体型は人が集まる〝にぎわいの創出〟、過疎地等で局舎と駅舎を〝効率的に運営〟する相乗効果が期待されている。新たな候補地の検討も随時行っているが、双方の施設建て替え時期等を見ながら互いにメリットのある形で進めていきたい。
 農協との連携は地域の利便性向上につながる。お話をいただけたらしっかりと考えていきたい。人員確保や施設規模等の課題はあるが、さまざまな形の連携が考えられると思う。

 ――人口の少ない地域は三事業だけでなく、地方創生的な新ビジネスも収益として評価される形がなければ総合力が生かし切れないと思うのですが。
 高橋常務 その通りだと思う。日本郵便株式会社法第一条には「郵便の業務、銀行窓口業務及び保険窓口業務並びに郵便局を活用して行う地域住民の利便の増進に資する業務を営むことを目的とする株式会社とする」と明記されている。地方創生は大切な業務で、地域が主役。その中核は郵便局だ。各地の郵便局の努力から生まれた取り組みを大切に育てていきたい。
 実は、今年度から「郵便局で行う地方創生の事業アイデアを育てる」取り組みもスタートしたが、まだあまり知られていない。局長や社員1人で悩まずに新事業に取り組みたい方々は、支社の地方創生担当に相談いただきたい。
 日光市や藤枝市、飛騨市等の形も元々は郵便局現場の発案だ。地方創生は大きなもうけを目指すものではないが、サステナブルな形にするにはコストに見合う収入は必要だ。流れを後押しするためにも地方創生ビジネスで収益を上げた郵便局を、また、頑張った人を評価する仕組みは大事。まずは今年度、支社の地方創生の優れた取り組みを推奨し、郵便局の好取り組み事例を周知するなどしたが、さらに充実していきたい。

 ――三重県玉城町から日本郵便が受託した「空き家の調査業務」は局長の方々が自治体にPRできそうですね。
 高橋常務 日本郵便としては全国初の自治体委託の空き家調査。現場の方からも、郵便局が元々持つリソースを生かすサービスと高評価をいただいた。今、空き家は大きな社会問題で、放置すると崩壊等の懸念があり市町村にとっても問題だし、持ち主にとっても固定資産税が何倍にも膨れ上がる恐れもある。
 自治体も空き家調査を本格化し始めた。日本郵便の社員は地域に精通しており、他企業よりも効率的にこうした調査を実施できる。自治体に自信を持ってPRしていきたい。

1月11日に玉城町で始まった自治体向け「空き家調査業務」開始式には辻村修一町長、田間宏紀副町長、高橋常務執行役員、中井克紀東海支社長らが出席した

 個人の方向けの「空き家のみまもりサービス」も2月から試行を始めるが、すでに応募数を大きく上回る募集をいただいた。全国どこの地域の方が他のどこの地域の空き家を申し込まれてもおおむね対応できる。同県内の人と空き家を結ぶことであれば他企業もできるが、東京の方と北海道の空き家を結ぶことは全国に拠点がなければ難しい。遠くにいても人と人、地域と地域を〝結ぶ〟ことができるのが郵便局ネットワークの強みだ。
 三事業の柱から見ると地方創生はまだ小さな芽かもしれないが、地域づくりや地域貢献の新ビジネスの粒粒の種に光を当て、育てていきたい。現場の皆さんにやるぞ! という気になっていただけるよう頑張っていきたい。