親のまごころ、こどもに保険 一橋大学 米山高生名誉教授 ⑧
2025.05.01
未成年者を被保険者とする、いわゆる「こども保険」は、民間の中小保険会社が、明治末頃に開拓した商品だった。各社は「教育保険」とか「出世保険」とかいったネーミングで「こども保険」を売り出していたが、その商品内容は生存保険である。
庶民に支持された小児保険は戦後の学資保険へ
生存保険とは、保険期間の終了時(満期時)に、生存保険金が支払われる保険である。したがって、保険期間中の被保険者の死亡に対しては保険金の支払いはない。蛇足であるが、戦前に普及していた「徴兵保険」も生存保険の一種である。
これに対して簡保は、養老保険をベースに「こども保険」を始めた。詳しくは、連載の第2回(昨年9月号掲載)に書いているので、ここでは省略する。
郵便局の小児保険については、さまざまな募集用パンフレットがあるが、ここで取り上げたのは、親の子供への愛情に訴えるものである。「親のまごころ、子供に保険」という言葉の下に、幸せそうな母子が描かれている。抱かれた子供とともに、保険証書を持っているという図柄だ。
描かれた絵は稚拙とまではいえないが、決して洗練されたものとはいえない。ほのぼのとした素朴さといっていいだろう。貧しくもなく、また裕福でもない庶民風の母子の姿は、当時の郵便局の持っていた大衆性と信頼を象徴しているように見える。
小児保険は、死亡保険金が出るだけではなく、養老保険であったことから貯蓄性のあるものであった。これは、戦前の簡保が小口であっても庶民の貯蓄に資する保険を提供しようという考えから発したものであろう。小児保険は庶民に大いに支持され、戦後の学資保険に展開することになるのである。