連載 郵便局の防災倉庫(中)
神奈川県相模原市の吉野局(東海林幸恵局長)の空きスペースを使った防災倉庫が市の「防災備蓄施策」として運用開始されたのは2021(令和3)年8月10日。日本郵便の防災備蓄倉庫として全国初の取り組みだった。
求められる災害備蓄品の管理役
神奈川県西北部地区連絡会の細谷勝利統括局長(写真㊨、相模原古淵)は「19年の東日本台風で相模原市緑区は死者7名を出す甚大な被害を受けた。道路も分断、物資も届かない。地域内に防災倉庫が完備されていれば、避難所に物資が運び込めると思った」と振り返る。
翌20年に緑区津久井部会から、旧集配特定局の吉野局の空きスペースを活用して、災害救援物資の保管倉庫として活用できないかと南関東支社(山田亮太郎支社長)に提案した。
当初は市に相談しても話が進まなかったが、20年夏に細谷統括局長が日頃から包括連携協定や地域貢献施策等で人間関係をつくっていた本村賢太郎市長に直接相談したところ、急展開。市危機管理局から「緑区内(旧藤野町)防災備蓄品を置く場所を探している」と連絡があり、交渉が進められた。
交渉過程では料金面(家賃)や配送スキームで難航したが、料金面では市と本社が歩み寄る形で折り合いがつき、配送スキームは包括連携協定項目の「災害協力や災害救助法の適用」でクリア。紆余曲折を経て、運用開始となった。現在、消防庁が同様の施策を全国に広げようと模索しながら動いている。
エフエムさがみの大木俊一取締役営業部長は「市内の郵便局とエフエムさがみは防災の協力体制を敷いている。地域に根差す郵便局から細やかで確かな災害情報をいただけることが速報性と正確性につながる。月に一度、局長の皆さんに放送に登場いただき、防災インタビューを約2年続けてきた。総務省でラジオ局を担当される関東総合通信局の方が市内郵便局とエフエムさがみの取り組みに関心を持ってくださり、昨夏から全国にネット配信されている」と話す。
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(一社)防災安全協会の斎藤実理事長は「災害時、通常の生活にいち早く戻れる体制を箇条書きでよいので、災害が起きたときの手順を書いて、それを見ながら備蓄品を備えるホームレジリエンスプランの管理が鉄則だ。さもなくば、実際に災害が起きたときに備蓄品をスムーズに回せない」と語る。
また、「水、食料、明かり、トイレ関係の四つが最低限必要で、拠点となすべきところが地域のために備蓄する環境をつくることが大事。そのためには備蓄品を管理する資格も必要で、郵便局長の方たちには災害備蓄管理士の資格をぜひ取得いただきたい。地域全体の備蓄品は多過ぎて難しいだろうが、周辺の方々のために備蓄できる小さな倉庫でも構わない。災害時に指揮を執って配分される役目を担っていただきたい」と切望する。