続・続 郵便局ネットワークの将来像⑮ 

2022.08.07

 平均寿命の延伸に伴い高齢者数が増えたことで死亡者数も増え、日本では昨年、約145万人の方が亡くなっている。介護や相続に関する地域住民の悩みも広がり、70~80代で終活を準備する層が厚みを増す人生100年時代――。東京都江東区41局で「終活相談サービス」をスタートした2018(平成30)年10月から4年近くが経過する中、23区全域に広がり、20年9月には札幌市内全局、2カ月後には道全域で始まった。郵便局を基盤とする共創プラットフォームは広げられるのだろうか。ニーズなどを探ってみた。(写真は東京都東部地区連絡会の前野統括局長)

共創=トータル生活サポート

 江東区41局でのスタート時に立役者となった東京都東部地区連絡会の前野耕一統括局長(江東亀戸七/東京地方会副会長)は「都心ほど、ある意味で過疎。というのは、人は多いが、核家族化が進んで相談する人や場がない。長く地域を知る郵便局が生活に関する地域の企業や専門家、例えば司法書士等も含めて信頼できる方々に登録してもらい、窓口となって紹介できれば、地元企業にも喜ばれ、住民の皆さまを守れる。地域で安心して暮らせる体制を整えたかった。会社も同じ思いで、その取っ掛かりが終活」と話す。
 タワーマンション等も増え、人間関係が薄れる都心部。家屋の一部破損などでも付き合いのある業者がいないためにネットで探し、破格の料金を請求されて支払うなど、巧妙な手口の特殊詐欺にだまされる事例が絶えない。任せて安心の生活ホスピタルとして〝そばにいる〟エリマネ局の役割が重要になっている。

 終活で郵便局と連携する㈱鎌倉新書広報担当の古屋真音さんは「相続相談には、遺言書や最高の笑顔写真を残すなど自らの死に備える〝生前〟と、相続人が故人の資産分配やお墓等を相談する〝死後〟の2通りある。鎌倉新書への直接相談は死後が大半だが、郵便局を介す相談は生前と死後が半々。相談体制が整っている印象を受ける」と強調する。
 同社は6月28日、千葉県八千代市と同社初の「終活に係る包括連携に関する協定」を締結した。市が 1 月、鎌倉新書制作の「エンディングノート」を導入し、住民に配布したところ、大きな反響があったためだ。
 23区では自筆証書遺言書保管制度、デジタル遺品整理、お一人様向け生前遺品整理、自分史づくりなど幅広い終活相談ダイヤルも設け、北海道では終活紹介サービスの一環として「訪問美容」も受け付ける。
 札幌美容協同組合の松岡洋生事務局長は「2001(平成13)年に札幌市の公営事業として出張美容サービスを始めたが、地元局長の方から『地域住民サービスを向上させたい』と話をいただき、郵便局を介してもスタートした。雪も多いため、高齢の方や妊婦の方に喜ばれている」と語る。
 都内局の終活サービスにも女性を輝かす「シニア向け出張撮影サービス」等がある。さまざまな企業や団体の協力のもと、共創プラットフォームの骨格が創られようとしている。

相談窓口は〝そばにいる〟郵便局

 郵便局や地域金融と連携する㈱エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)信託の今中弘明社長は「郵便局は生活の総合窓口として、100件終活相談があると、ビジネスにつながる割合は5分の1くらい。地域金融は半分ほど。形式が異なるため比較すべきでないが、ある金融機関は『お一人様終活』で軒並み成約に結び付けている。近年、終活だけでははやらず、〝お一人様〟に焦点を定めると問い合わせが急増する。一工夫されて声掛けをルール化するなどでも収益に直結すると思う。都心の局は忙しいため、話す時間のある地方の方がニーズはあるかもしれない」と指摘する。
 長い人間関係に基づくたわいのない雑談から、局長が相談を受けることも多いという終活。「お一人お一人の『揺り籠から墓場まで』を支えるトータル生活サポート企業として、郵便局は地域で生き続けるべき」。前野局長らの切実なる思いだ。