続・続 郵便局ネットワークの将来像㉒
日本郵政の増田寬也社長が昨年8月の記者会見で「商品のみならず、資産運用や相続相談も窓口でこなせるようにしたい。大手町局で実験中だが、専門家とシステム等々をつないで対応できるようにする。地域の拠点として困り事解決場所に局窓口を変え、窓口に多くの方々に来てもらえるようにしたい」と語られてから半年が経過した。終活や相続に関する郵便局サービスはこれからどうなるのだろう?と探ってみると、〝お宝〟に気付かされる思いになった。
終活・相続に本腰を
日本郵便と終活相談サービスで共創する㈱エスクロー・エージェント・ジャパン信託(EAJ信託)の小林泰宏マネージャーは「2015(平成27)年の相続税法の改正で基礎控除額が大きく引き下げられ、昔はお金持ちだけの問題だった印象が強い相続の話題が広く一般化した。
それ以降、終活・相続対策のニーズは右肩上がりに高まり、将来の相続(税)対策とともに、すでに相続が発生している場合は多忙な現役世代やご高齢の相続人の方々が手続きのために役所や銀行、法務局に行くことが難しいといったご事情から、専門家にお金を払ってでも任せたいという代行サービスの需要が拡大していった」と強調する。
加えて、「金融機関にとっても、顧客が高齢化していく中で投資信託等の運用系に加え、遺言信託や保険のほか、認知症対策といったセカンドライフのお金の保全・管理・承継のサービスに注目が集まっている。これからはお客さまの資産を守り、有機的に次世代につないでいくソリューションを備えた企業が求められているのではないか」と指摘する。
終活を新たな文化に
(一社)日本昇天音楽協会を地域の仲間と立ち上げようとしている横浜市東部地区連絡会(串田明彦統括局長/横浜池辺)の村野浩一副統括局長(青葉台駅前)。一般社団法人としての定款も出来上がった。命名の意味するところは臨終音楽では後ろ向きと見て、昇天にしたという。音は精神を安定させる効用があるため、音楽療法は福祉分野でもさまざま活用されている。また、世界共通の芸術だ。
村野局長は「残された家族などを困らせないように財産を整理する〝終活〟はとても大切なことだが、あくまで残された人のための終活。死んでしまう時のことなどは誰も考えたくもないため、自分のための終活はされてこなかった。しかし、もしもの時に大好きな音楽や家族との思い出になる音楽が流れたら、気持ち良く逝けると思う。何を聴きながら深い眠りにつきたいかを考えるのは嫌な話でなく実は楽しい。日本昇天音楽協会の意義はそこにある」と説明する。
「最後の晩餐と言われるが、死にそうな時には食べられない。目も見えないかもしれない。しかし、耳は最後まで残ると言われている。死にそうになった時、『好きな音楽流して』と急に言っても受け入れられないかもしれないし、お葬式の時に流してもらっても自分は聴けない。死ぬ時に好きな音楽が流れる形を新しい文化として広げたい」と話す。
村野局長は、日本昇天音楽協会の設立イベントを自らの生前葬の形で計画する。「生前葬はビジネスにもできる。一般的に人生で主役になれるのは結婚式と葬式だが、葬式時はもはや自分はいない。だとすれば、例えば、今時に還暦に赤いちゃんちゃんこ、はやや時代遅れ感があるため、還暦を祝した生前葬を開催し、『これが俺の昇天音楽だ!』と披露する形はいかが?」と笑う。
「何事もどういう切り口でやるかが重要だ。先鋭的、新たなことは育ちにくく、すでに誰かが成功したサービスでなければ広がりにくいのが残念」との思いも明かす。
全ては相談から
郵便局の終活相談サービスは東京支社(木下範子支社長)と北海道支社(及川裕之支社長)で展開されているが、立役者である東京都東部地区連絡会の前野耕一統括局長(東京地方会副会長/江東亀戸七)は「郵便局は終活含めて新ビジネスが難しい土壌。今までは駄目だったが、こういう風な形で許可してやってみようと考えてくださる勇気のある方がなかなかいないし、いてもつぶされてしまう。最初から利益がとれる商売はない。全社挙げてやろうと方向が定まった時に大きな企業ゆえに強いはずだが、もったいない」と語る。
「会社としては、保険がうまくいき、貯金も郵便と荷物もうまくいった後に終活を、と考えられているかもしれないが、三事業も人生相談から始まる。終活相談サービスに本腰を入れ、困っている方の生活相談のプラットフォームを創ってトータルサポートできる企業に郵便局はなるべきだ」と提案する。