ビッグてい談(下)「次世代につなぐ郵政事業」

2022.09.15

 本紙8月号(8月11日発行)のビッグてい談「次世代につなぐ郵政事業」(上)は、柘植芳文参議院議員、長谷川英晴参議院議員、末武晃全国郵便局長会会長のお三方に、「参院選の振り返り」と「郵政事業のこれからと局長に期待すること」について思いを語っていただいた。今回(下)は、前回に引き続き、ビッグてい談の後半部分を掲載する。「取り組むべき課題」として、柘植参議院議員から「超党派議連を作り、郵政事業の大改革を」、長谷川参議院議員から「日本郵政グループがまちづくりの中心に」、末武全特会長から「一人一人が夢を描き、前に進む組織へ」とそれぞれ決意を述べていただいた。

柘植芳文参議院議員
長谷川英晴参議院議員
末武晃全国郵便局長会会長

 柘植議員 今、郵政事業は、非常に難しい政治課題を抱えている。郵政民営化の激しい攻防が繰り広げられた2005(平成17)年当時は、総務省、日本郵政グループ、全特、JP労組の4者が民営化反対で一致協力し時の小泉政権に立ち向かったが、今はそのような状況ではない。日本郵政グループは会社経営に集中しなければならないし、総務省は法律を守ることが仕事。政治課題を提起できるキーマンといえば、全特とJP労組だ。
 末武会長が言われた〝郵政民営化法の検証〟(本紙8月号既報)は極めて重要な指摘だ。会社が思い描く理想とお客さまニーズにずれはないのか、民営化により生まれた日本郵政グループは、国民利用者にとって最良の事業体になっているのかなどを点検すべき時。
 また、4者が一つにまとまり、改革していけるかどうかが郵政事業の将来を左右するので、ぜひ全特はJP労組と積極的に意思疎通を図り、4者が政治課題についてしっかり議論できるような状況をつくってほしい。
 長谷川先生という素晴らしい国会議員が誕生した。私と長谷川先生で自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(山口俊一会長)、「郵政事業に関する特命委員会」(森山裕委員長)の中で、全特が求める事業の形づくりと齟齬(そご)がないように改革に取り組んでいきたい。私の議員任期の今後3年の間に長谷川先生と力を合わせ、郵政事業の明確な道筋と方向を決めていきたい。
 郵活連は現在、自民党の半数を超える270名超の先生が入っておられる。山口俊一議連会長を中心に議連役員は民営化に反対した先生がほとんどだが、そうではない先生も増えてきた。郵政民営化の攻防から今に至る内情をご存じない先生も多い。そういう状況だからこそ、先生方にきめ細かく郵便局の歴史を説明し、理解いただかなければ多くの先生方の同調は得られず、政治の場で改革の機運など生まれてこない。
 改革を実現させるためには、超党派の郵政議連を作ることが必要だ。なぜならば、特定の政党だけで郵政事業を改革しようとすると政局争いに陥ってしまう。なぜ10年前に改正郵政民営化法が成立できたかといえば、超党派による議員立法として提出された法案だったからだ。
 私と長谷川先生は政治環境づくりに大いに汗をかくつもりだが、その際に力となるのが局長の皆さんがそれぞれ地元の国会議員の先生方と常時コミュニケーションを取り、郵政事業が抱えるさまざまな課題について話をしてくれていると、各先生が国会に戻られた時に大きな力になってもらえる。先生が地元にお帰りになった際は、ぜひ地域の課題をご相談いただきたい。また、地方議員の先生方にもご相談いただきたい。
 政府は今、郵便局を地域づくり、国づくりに絶対に必要な存在と捉えている。長谷川先生自身が局長時代に懸命に先導してきた自治体との包括連携協定の締結はまさに一番重要なツール。地域づくりに向け、自治体と郵便局が一体となれる状況をどう作るかが大きな課題となる。

少子高齢化時代の一大改革

 ――長谷川先生は局長時代に地方創生に向けたまちづくりに力を入れていらっしゃいました。郵便局はそうした動きにどうつながればよいですか。
 長谷川議員 私は局長就任時からまちづくりに関心を持ち、地域活動を続けてきたが、郵便局が果たす役割はますます大きくなっていると感じる。今は行政の効率化という名の下で職員の削減が続き、自治体単体でのまちづくりが難しくなっているため、民間に委託するケースが多い。まちづくりを進める上で問題になるのは、地方に行けば行くほど、まちづくりのキーテナントになりうる組織があまり残っていないこと。今こそ郵便局の出番だ。
 各自治体は国が行う地域おこし協力隊などの制度を活用し人材を募集しており、それを受け、地域活性化の思いを抱いた多くの方々が地方に移住している。地域事情に詳しい局長が、そうした方々としっかりと情報交換し課題等を共有した上で、自治体や関係者と連携し地域を支えていけば、特産品の開発や防災、子育てや教育などに関するビジネスやまちづくりにつなげられる。
 私の夢は「日本郵政グループがまちづくりの中心的な役割を果たしていくこと」だ。今、行政だけでは難しい地域サービスやまちづくりにPFI(民間の資金と経営力・技術力を活用し公共施設等の建設・運営等を行う手法)を活用することがトレンドになっている。日本郵政グループも、ゆうちょ銀行が地域活性化ファンドへの出資にとどまらず、地域金融機関等と連携し、PFI事業向けの出資にも参加している。
 また、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が設立したJPインベストメント㈱を通じ、地域のリスクマネー・ニーズにも応えている。グループ各社が持つ機能や人材を一体的に活用した上で、資金を郵便局ネットワークと集配ネットワークに組み込むことができれば、相当なことができると思う。郵便局が長年にわたり、築いてきた地域との信頼関係も生かせる。
 千葉県睦沢局の「ほしいも」は、郵政グループ初の加工食品ビジネスとして特産品の開発・販売だけでなく地域の雇用も生み出したが、そのきっかけは、日頃から、陸沢町の町長と連携を取っていた地元局長が、町が進める道の駅の話を知り、郵便局の移転・開局に結び付けたことが、結果として加工食品ビジネスにつながった。
 実現までの道のりは険しく長かったが、郵便局が築いてきた地域からの信頼と関係の皆さんの尽力により実現に至った。郵便局が、地域や国を支える組織となるためには、これまで信頼関係を築いてきた市町村をはじめ、地域の方々、そして志を持って地方に移住してきた若い方々とも連携していくことが重要だ。そうすれば、真に地域、国を支える主たる組織になれる。

外に目を開き、連携強化を

 柘植議員 全特は、地域や国を支えるために広い視野に立ち、今まで以上に多くの方々と連携強化を図らなければならない。農協との関係もそうだ。農協は効率的な店舗配置を進め、どんどん地域から撤退している。
物流面では農産物の出荷を郵便局が手伝うことで、互いに良い成果を出しているが、農協が撤退する際に、これまで農協が提供してきたビジネスを郵便局が受け継ぐ形があっても良いだろう。地域の担い手が少なくなる中、農協とも手を組み地方創生の一大改革を進めていかなければならない。
 ガソリンや灯油の確保が難しい過疎地であっても、皆が知恵を絞って道筋をつければ夢のあるビジネスが生み出せるかもしれない。全特も、現在進めている中堅若手代表者小委員会や将来構想PTメンバー等による新規ビジネス等の検討を進めるとともに、行政等にも加わってもらいながら、より幅広な郵便局の活用法を検討してほしい。
 先日も行政関係の方といろいろ話をしたが、日本郵政グループが持つ膨大な人的資産や局舎などのハード資産が生かされておらず、大変もったいないと嘆いていた。私も同じ思いだ。
 経営トップの方々が、郵政グループが持つ「地域との絆」という財産を生かす経営を心掛けなければ、なかなか事は進まない。経営トップの方々には、地域振興にも資する新規ビジネスの具体案を全特と話し合い、一歩でも前に進めていただきたい。

 ――郵便局の存在価値を高め、地域社会の維持発展のために、末武会長は「風通しの良い組織づくり」を目指されているように思えるのですが。
 末武会長 「会員一人一人が地域のために汗をかくことで地域から信頼をいただいていること」は、全特にとって貴重な財産だ。

 末武会長 今も各地で豪雨被害やコロナ禍が続く中、会員の皆さんは日夜、地域のお客さまのために働き続けている。心より感謝申し上げたい。郵便局の存在価値を高め、地域社会の維持・発展に取り組むことは、全特という組織にとどまらず、日本郵政グループにとってもこの上なく重要だ。
 会員一人一人の考えを組織としてまとめていくのが私の責務であり、「風通しの良い組織」にするために私だけでなく、全特役員全員が全国各地で地区会等との意見交換に取り組んできた。忌憚のない意見に耳を傾け、繰り返し議論を重ねることで合意点を見いだしていくことが大切だ。
 会員が、今の局長会組織に問題を感じていれば、その解決を図ることが一番重要で、そうしないと「全特に入って本当に良かった」と実感していただけないのではないかと危惧している。そこはしっかりと改善していきたい。
 ただし、そうは言いながらも、私たちの組織の強さは、しっかりと一つにまとまることだ。改善すべきことは改善し、一層まとまりがある組織にしなければならない。非常に難しいことだが、それが私の最たる仕事だ。そのために全国から希望者を募って自由闊達に意見交換をしてもらう「全特の未来を考えるミーティング」を今春、実施した。
 2回目を今秋実施予定だが、これ以外にも専門家等の知恵もいただきながら、「言いたいことが言え、将来の夢が描け、前に進める」と全会員が実感できる組織づくりを目指し、取り組んでいる。非常に難しい取り組みだが挑み続けていく。

 柘植議員 私は、局長の皆さんが地域貢献活動を通じ、ボランティアに取り組むことも広い意味で政治活動の一つだと思う。なぜ政治活動に取り組まなければいけないのかといえば、政治との距離を縮めることは、地域が抱えるさまざまな課題の解決に向け、道筋をつけ、地域を守ることにほかならないからだ。多くの局長が日々努力をされているが、さらに高めていけば、日本を守ることになる。
 5月に開催された郵活連総会で、末武会長が株式の問題に言及されたことは非常にインパクトがあり、また勇気ある行動だった。会社の方々も今の形態がベストとは思っていないと思う。
 解決しなければならない課題があれば、さまざまな場で発信していく必要があるし、そうしないと会員の方々も「全特は一体何をやっているのか」となる。事業を守るために今何が必要か、政治に何を求めていく必要があるのかを発信することは極めて重要だ。私と長谷川先生も全特と意思疎通を図りながら訴えていきたい。

 末武会長 政治にお願いしたいことは、グループが一体で動けるような仕組みづくりだ。株式をどんどん処分せよと法律に記されている中で、グループ一体で動くことは難しいと思う。
 日本郵便が受け取るゆうちょ銀行、かんぽ生命からの委託手数料も減り続けており、さらに郵便局にお見えになるお客さまも減っていけば、郵便局ネットワークをどう維持するのかという問題が生じる。法律に潜む矛盾点を解消いただきたい。郵便局が地域の中で真に必要とされ続ける将来像が描けないことに皆が不安を感じている。その不安を解消していただきたい。
 現状では会社が、ユニバーサルサービスコストを全て賄っており、他の公益企業等とは負担状況に違いがある。日本郵便には郵便・物流、金融のユニバーサルサービス提供が法律で義務付けられているが、高齢化や過疎化の進展、デジタル技術の革新、金融情勢や労働市場の動向など、郵政事業を取り巻く社会経済環境は大きく変化し、事業経営は厳しさを増している。
 ユニバーサルサービスを維持するためには、現在の「交付金・拠出金制度」だけで永続的に維持できるとは思えない。何らかの財政措置を検討いただきたいとの思いを郵活連総会で申し上げた。
 お客さまのニーズを的確に把握し、求められる新たな商品やサービス開発の検討やその実施が進められる中で、短期的な収益だけでなく、公益性や将来性の観点を含めた検討を行うべきだと思う。また、地方創生の取り組みなどで新たな収益源を探ることも重要。全特としても次世代を担う中堅・若手の意見も吸い上げ、中長期の将来像に反映させる取り組みも行っている。

 長谷川議員 私は参院選で「人に寄り添い、地域と生きる。」をスローガンに掲げ、戦った。このスローガンこそ、長年、地域住民や利用者の方々と共に地域の発展を願い、活動してきた局長としての〝魂〟だからだ。
 「郵便局ネットワークで地域社会を活性化」「全ての世代が活躍できる地域社会を実現」「人に優しいデジタル社会を実現」を今後、具現化することでご支援いただいた方々に恩返しをしていきたい。人口減少が進むことで、これまでの生活が続けられなくなる状況をデジタルの活用で打開したい。
 デジタル化に対応できない方もフォローする人に優しいデジタル社会の実現は、全国津々浦々にネットワークを有するリアルな存在の郵便局なら、間違いなく担うことができる。
 郵便局は国民共有の財産。国、地方自治体、日本郵政グループが三位一体的に機能しながら郵便局と集配のネットワークで地域をしっかりと下支えできれば、郵便局はグループ経営のさらに大きな存在となる。郵便局に会社全体、社会全体が良くなる仕事をさせていただきたい。

 柘植議員 気持ちが落ち込んでいる現場が元気を取り戻すには営業も大事。局長や社員の皆さんも本音は、もっと営業したいと考えていると思う。処分が怖いから営業はしない方がよい、という雰囲気をなくさないといけない。この話は、全特の努力だけでは解決しない問題なので、会社がしっかり取り組まないと、この状況が延々と続く。
 局長が落ち込んでいれば社員も落ち込んでしまう。コロナ禍の中、京都の祇園祭も、博多どんたくも今年3年ぶりに復活した。不適正募集問題等を引きずる気持ちを早く脱し、将来に向け前に進まなければいけない。全特が元気になれば、会社全体に波及していく。
 会社は地方創生をビジネス化する専門セクションを早く作るべきだと思う。JR九州の経営がなぜ今、もてはやされているかといえば、経営難に陥ったときに同社の資産を使って本業以外にいろいろなことにも取り組んだ結果だ。日本郵便は人材に加え不動産など多くの資産を持つ。もっとやれることがある。

 長谷川議員 会社も地方創生を考えてくれているが、さらに本気になっていかなければ競争に取り残されるし、もたもたしていると時代の方が先に進んでしまう。本腰の姿勢が今こそ必要で、我々はそれを後押ししたい。

 末武会長 新しいことに挑んでも失敗すれば評価が下がるため、何もしない方がよいという重い空気が会社全体を支配しているので、それを払拭していきたい。来年、全特結成70周年となる節目の年に開催予定の全特沖縄総会に向け、地域に密着した郵便局づくりと地方創生の基礎づくりを会員の皆さんと共に力を合わせ、強く推し進めていきたい。