続・続 郵便局ネットワークの将来像⑩

2022.03.06

 自治体と市民の仲介役を、スマホを通じて郵便局が手伝う――。そんな日常が静岡県藤枝市内3局で「郵便局のデジタル活用支援」として始まった。コロナ禍でスマホの利便性は高まるばかりだが、教えてもらえる喜びと、教える喜びでほんのりと温かな空気も漂う。デジタル活用支援も専門的な携帯事業者だけのものにするのはもったいないような雰囲気だ。一方、デジタル化が進む中、総務省はマイナンバーカード普及のために約2万4000ある郵便局で使える局を増やすことが重要との観点で自治体事務受託に生かす実証事業を検討し始めた。

自治体と市民をつなぐお手伝い

 「デジタル活用のお手伝いします。無料ですよ!」。1月18日、藤枝市内にある高洲・瀬戸谷・岡部の3郵便局のウエルカムボードにこんな案内が記された。
 全国で初めて郵便局として市民のデジタル活用を支援する無料サービス。住民の方が希望すれば、局長や社員が予約制でスマホの操作や各種アプリの使い方などを伝授する。昨年12月9日に締結した市と東海支社(中井克紀支社長)の包括連携協定に基づく取り組みの一環だ。
 市はこれまで公民館(コミュニティセンター)を使って同様のデジタル支援を行ってきたが、週に1回のみでは市民からすると物足りなさ感もあったのかもしれない。
 郵便局が平日9時~16時まで受け付けることになった初日には60~70代が3局合わせて15人、スマホを学びに訪れた。その後も日々、スマホ相談の来客が5名以上。高齢化が進む中、口コミで徐々に増えていく可能性もある。電話での問い合わせも多いようだ。
 瀬戸谷局の山下睦信局長は「高齢の方がスマホのことを家族に聞くと『何だよ母さん、この間教えたじゃん』と言われるケースが多いらしく、郵便局で教えてもらえるのはうれしいと喜ばれる。社員もやりがいを感じている」と顔をほころばす。
 「お客さまに市のLINE公式アカウントの登録方法や健康や医療の相談アプリのダウンロードのやり方をお伝えすると、防災メールやコロナの感染者数も届く。自治体と市民の仲介役を、スマホを通じて郵便局が手伝っている」と。
 3局は今後、3回目のコロナワクチン接種がどの会場でいつ空いているか、ネット予約のサポートも行う。

受託事務にマイナカード活用

 昨年11月に政府が立ち上げた「デジタル田園都市国家構想実現会議」の事務局を務める内閣官房の飯嶋威夫内閣参事官は「デジタル化はインフラがなければできないため、自治体が使うようなサービスのクラウドを全国に実装することが、いわば構想の柱。構想は4本の柱から成り立つが、4本目は、デジタルになじめない方々もメリットを享受できる〝誰も取り残さない〟環境づくりだ」と強調する。
 交通やスマート農業などさまざまな分野のデジタル活用支援には、自治体のための予算も多く計上されている。デジタル技術を活用した地域課題解決等の既存取組事例集には、例えば、郵便局の「スマートスピーカーを活用したみまもりサービス」も紹介され、導入を望む自治体は、デジタル田園都市国家構想交付金(内閣府予算案)を申し込み、認められれば2分の1の補助金も受けられる。
 政府の「地方創生有識者懇談会」で座長を務めた日本郵政の増田寬也社長は「デジタル田園都市国家構想実現会議」の委員にも選ばれた。
 増田社長は昨年末の会議で「郵便局が地域の身近な公的拠点として地域の人々や国・自治体と連携し、地方創生を進める役割をしっかりと果たしたい」と強い意志を示している。飯嶋参事官は「日本郵政グループの取り組みには大変期待している。どのような貢献ができるかを検討されていると認識している」と思いを寄せる。
 一方、2022(令和4)年度の総務省新規予算案として、郵便局や自治体が連携し、デジタル技術を活用して地域課題を解決するモデルケースを全国展開する「デジタル時代における郵便局等の公的地域基盤連携の推進」には8000万円、21年度補正予算には「郵便局におけるマイナンバーカード利活用推進事業」に1億2000万円が計上された。

 総務省郵政行政部企画課の廣瀬謙課長補佐は「『公的地域基盤連携推進事業』は自治体に限らず、公共交通機関など公的なサービスを提供する団体も含め、郵便局と連携して地域課題を解決するモデル事業。何をやるかはまさに検討中だ。これまでのモデル事業の中には、郵便局の自治体受託事務で公的証明書の発行を局窓口が紙ベースで申請を受け付け、簡単なチェック後にOCR(光学文字認識)にかけて市に電子データで送り、効率的に処理できた事例もあった。そうしたことをもっとやっていきたい」と語る。
 同企画課の吉田幸司課長補佐は「マイナンバーカード(以下、「マイナカード」)普及に関し、単なる申請手続等を増やすだけでなく、実際に活用できる場を増やさなければ普及促進にはつながりにくい。全国に約2万4000ある郵便局でマイナカードを使える場がどんどん増えていくことが非常に大事だ。自治体の住民票発行や納税証明等の一部事務や包括事務を受託する郵便局があるが、それらにマイナカードを生かす方策も検討している。手書きで自治体に送付する各種証明書や施設予約の申請手続き、健康相談や行政相談もマイナカードを生かせる実証を実施したい」と話す。
 実証事業は目前に迫る22年度からスタートする見通し。実施可能な郵便局の選定は自治体事務の受託局であることが前提になってくるという。