続・続 郵便局ネットワークの将来像㉗

2023.08.15

 ウェルビーイング(健康、幸福、福祉など)指標とは何だろう? デジタル庁はデジタル田園都市国家構想実現に向けて、「地域の幸福度」を測る指標として自治体向けに推奨しているが、ランキングもなく、純粋に地域づくり改善のための指標だとすれば、郵便局こそ活用すべきものかもしれない。局長の方々の奮闘を伺ったり、見たりすると、そう思えてしまう。東京都多摩西部地区連絡会(田村明浩統括局長/多西)を訪ねた。(写真は立川富士見六局)

コミュニケーションの場が必要

 東京都立川市内の7局で、7月から「スマートフォンの操作支援」が始まった。スマホを扱うことが苦手な高齢者の方などの相談場所として、市が新たに設定したのが郵便局。
 来局時か電話で申し込めば、月曜~金曜の9時~16時まで一人30分間、社員の方が「市のLINE登録」や「オンラインによる行政手続きのデモ申請」など6項目のスマホの扱いをサポートしてくれる。全国的には北海道、静岡県藤枝市内局、愛媛県内局に次ぐといわれているが、都内の郵便局としては初めてだ。
 東京都多摩西部地区連絡会(田村明浩統括局長/多西)地公体担当局長の塩野龍也局長(立川富士見六)は「お年寄りの方が海外に荷物を送る際等に、通関電子データに登録できずに苦労されている姿も気になっていた。スマホを使えるようになっていただければ、社員もお年寄りも楽になる。さらに局を利用していただければ、なおうれしく、良い方法はないかと昨春に市議の方に『郵便局でスマホ教室を開催したい』と相談した。市とつないでいただいて打ち合わせをした結果、まずは包括連携協定を結ぼうと今年1月30日に市と東京支社(木下範子支社長)が協定を締結できた」と話す。
 2月6日には地域見守りネットワーク事業の協定も締結。トントン拍子に話が進んだ背景は何だったのだろう。

社協含めあらゆる連携を

 
 塩野局長(写真上)は「市の地方創生担当局長として、市高齢福祉課の方と地域の社会福祉協議会の小地域ケア会議に出席し続けてきたことで社協の方ともつながっていたため、話が通じやすかった。スマホ支援は7月に7局で約60人に利用いただいた。市内全局に案内を張り出したが、70~80代のお客さまは市の広報を握り締めながら、来客してくださっている」と笑う。

 沖縄支社(金城努支社長)は8月8日、「まちの保健室in糸満郵便局」を開設した。県や市、看護協会と連携し、地域住民の方々の生活習慣予防や介護などの相談を受け付ける郵便局の「まちの保健室」は鳥取県から始まり、中国地方から全国に広がっているが、沖縄支社は厚生労働省が2021(令和3)年度に実施した「国民健康保険における予防・健康づくりに関する調査分析事業」で羽地局の「まちの保健室」が好事例に選ばれている。
 郵便局の「スマホ支援」も「まちの保健室」も、いわばお困り事相談窓口の役目を担い、また、「市長との意見交換会」や「行政相談委員との意見交換会」もお困り事を〝公〟につなぐ役を郵便局が果たしている。郵便局がそばにあることで、地域の幸福度の指標、ウェルビーイングはまぎれもなく高まるはずだ。

市民の視点で地域の魅力に磨きかける


 デジタル庁国民向けサービスグループの村上敬亮統括官(写真上)は「人口減少時代の経済は、バスをバス停で待つのでなく、車が迎えに来るイメージ。需要と供給の関係が逆転する。結局、競争領域で各社のサービスの部分に〝公〟が入る」と指摘。
 また、「検討中のため、できるか分からないが、マイナンバーカードは世界でも最強クラスの本人確認手段だ。本人認証インフラを使う共通ベースを導入すれば、例えば、手間のかかるコンサートチケットの本人確認に活用することで、地域に落とせるお金の量が増える。人口減少下で生産性を上げるとは、そういうこと。事業と地域は同時に応援しなければいけない」と昨夏に(一社)スマートシティ・インスティテュートが主催したオンラインフォーラムで述べていた。
 さらに「デジタル田園都市国家構想で目指すのは、住む町に自分たちで投資し、次に進むエコシステム(互いに協力し、それぞれの業務やサービスを補う形)を作ること。まちづくりの共助インフラをつくってもらうには、住民の方々に間に入ってもらう価値を創るしかない。そのためには『コミュニケーションが起きるような場所を地域につくらなければならない』。ウェルビーイング指標は、そのサイクルを回すための共通言語。指標を使い、どう改善すればよいまちづくりにつながるかを見える化し、市民の地域幸福度にデジ田活動が貢献できるようチャレンジしたい」と意欲を示していた。


 対談者であるスマートシティ・インスティテュートの南雲岳彦専務理事(写真上)は「ウェルビーイング指標は、まちづくりにおける〝人間中心主義〟だ。地域幸福度は、行政評価でもなく、企業のパフォーマンスマネジメントでもない。市民の視点。指標によるランキングはない。各自治体や生活圏が、自らの地域の魅力に磨きをかけていただく指標として使ってほしいとの理念を掲げている」と強調した。
 そして、「自治体ごとに無料でオープン化する新しい試みを行い、日本の文化を自治体政策に取り込んでもらうことを考えている。反映したワールドハピネスリポートで、日本は47位。日本らしさがあまり反映できてないとの指摘もある。『コミュニティーの幸せとは何か』も問いに入れ、それに基づく行動も分析し、町の幸せの因子を導き出そうとしている。身体、社会、精神というウェルビーイングの構成要素を整理している。自治体とのワークショップもスタートした」と語っていた。

立川市内局はフードバンクにも取り組み、地域に喜ばれている