インタビュー(下) 日本郵便 千田哲也社長

2024.04.18

 日本郵便の千田哲也社長は「社員一人一人を大事にし、モチベーションが上がれば、掛け算で会社総体として成長できる」と強調する。競争環境も直視する一方、人と人をつなぐ地域の核となって、全ての暮らしの中で〝選ばれる郵便局〟への転換を目指していく。「一番の肝は〝社員力〟の底上げだ。郵便局の魅力創出を主眼に置きたい。外に行ける時間づくりも大切」と語る。就任直後に立ち上げた「郵便局未来会議」や「日本郵便の将来像に向けたプロジェクト」は、より良き郵政事業実現に向けて、内側からの改革断行の思いも込められているようだ。

是が非なる改革断行!〝選ばれる〟郵便局に

 ――郵便局をどう改革されていくお考えですか。
 千田社長 中期経営計画見直しは2025(令和7)年のみならず、26年以降も見据えて、郵便局がいつ頃どう変わっていくのか、絵姿をフロントと共有している。共有の場は「郵便局未来会議」だ。会議は単に現場の意見を聞くだけでなく、こちらから打ち出す会。ポータルサイトへの動画配信を含め、どんどん発出していきたい。
改革の1点目は、「個別でなく、全体で収益を確保できる仕掛けを作る」こと。特に公的サービスは個々のビジネスだけで収益を上げるのは難しい。
 2点目は、「つなぎ役を脱し、お客さま相談に応じられる社員力の向上」だ。窓口も営業社員も格段に専門的なことは専門家の方につなげざるを得ないが、一定程度のご相談に応えられる自前の能力を付けていきたい。
 かんぽ生命時代には、終活サービス全般に対応するための内部資格を関係企業の協力を得て創設した。日本郵便でも多くの社員の皆さんがFP2級資格も持っており、それらを生かし、気軽に相談できてお金もかからない地域から愛される郵便局像を目指していく。
 3点目は、少子高齢化社会でも隣近所で助け合える「地域の人と人とをつなぐ核となる郵便局の構築」だ。窓口で待つのではなく、こちらから地域住民の中に入って行き、人間関係を外でもつくる。いわゆる回覧板のようなローカルなつながりを、郵便局が外に出ることで作ること。それこそが真の公的サービスだ。災害時の重要な情報も皆で共有しやすくなる。

 ――素晴らしいのですが、人員が減らされる中で外に行けるのでしょうか。
 千田社長 各局とも人員が不足しているが、やり方次第だと思う。みんなでやるという意識。例えば、エリマネ局では巡回要員が部会内を回ることでバックアップするシステムがあるが、それを広域化することができるかもしれない。また、例えば近隣局と協力して窓口営業時間を柔軟に運用することや、DXと組み合わせることで、お客さまサービスをもっと向上させられるはず。
 DXを活用すれば、営業力を引き上げることも可能。スキルを持った社員が現地ではなくリモートでバックアップできる機能があれば、現場に多く社員を配置することなく、現場社員の底力も付いてくる。
 窓口時間の弾力化についても、単に早く閉めるだけでなく、地域によっては土日に開けるといった柔軟な対応があっていい。被災地では開局できた局で、未開局の局長や社員が窓口対応協力を行っていた。このような窓口ネットワークの柔軟配置を日常に応用できれば、営業力を高めることもできる。

肝は「社員一人一人の底力」

 ――社員の方の質、サービスの質の二つを徹底的に底上げされるということですか。
 千田社長 一番の肝は「社員力」の底上げだ。社員一人一人の能力は異なり、約2万4000局もそれぞれの地域性があるので、同じようにできると考えているわけではないが、個性が異なることを前提に、それぞれの課題を「見える化」し、一人一人の能力を上げていきたい。
 本当に頑張っている社員は、結果が目に見えにくいものであったとしても、プラスの評価をしていく。ロボットは1+1=2という足し算の力しか出せないが、社員一人一人を大事にし、モチベーションを上げることができれば、掛け算で会社全体として成長できる。
 「ESなくしてCSなし」という言葉があるが、まさにその通りで、エンプロイー・サティスファクション(従業員満足度)の仕掛け、マネジメント力向上の道筋を早期につくり上げる。

 ――質というよりは、人なのですね。
 千田社長 「人=質」だ。

 ――金融営業について、かんぽ生命とアフラックとのバランスをどう考えていけばよいのですか。
 千田社長 アフラックと日本郵政が資本提携に合意した2018(平成30)年当時、私は日本郵政で直接担当をさせていただいたが、今年4月からいよいよ持分法適用により、アフラックの損益の一部などが日本郵政の連結財務諸表に反映される。アフラックの成長により配当も増え、取り込める損益額も増える。
 一方、かんぽ生命の再生は日本郵政グループ全体に影響する。一時払終身保険発売や高齢者の方へのご提案も1月からできるようになり、郵便局も元気が出てきたところ。商品のバリエーションを増やすことなど、自社でできることを引き続き検討していく。
 アフラックのがん保険は、かんぽ生命の生命保険とバッティングするものではなく、むしろ相互作用がある。がん保険ご加入の方にはかんぽ商品をお勧めでき、その逆もある。両社の関係は今後さらに強固になっていくはずだ。
 郵便局は取り扱う商品のバリエーションが多く、窓口で対応しきれないケースもあるが、例えば、投資信託販売などでは、紹介局と取扱局の役割分担を行っている。他商品においても、タブレットを活用しながら、お客さまへしっかりと説明できる体制を整えたい。

 ――荷物分野の展望をお教えください。
 千田社長 ヤマト運輸との協業で荷物も増え、さまざま変化が起きている。2月にスタートしたDM便の業務移管では、発送されるお客さまが直接郵便局に持ち込むケースも増えている。
 今後も、収支を含めた改善を行っていくが、目指しているのは、収支よりもサービスにおける質の向上。お客さまに〝選ばれる郵便局〟になるためには、数字をもって各種状況を把握する必要がある。
 そこに投資し、お客さまに戻ってきてもらう仕掛けとして、NPS(ネット・プロモーター・スコア=顧客ロイヤルティ<商品やサービスに対する信頼・愛着>を測る指標)の活用を始めている。
 NPSで、当社はヤマト運輸より24ポイント低いとの結果が出ている。当社は、他社と比較する文化が弱いところがあったが、他社動向を見ることで当社の強みを生かす方策を考える。数字という根拠があれば、自信を持って営業することも可能になる。このことは見直し中の中計にも盛り込む。

 ――過疎地でのコンビニとの連携構想はありますか。
 千田社長 ファミリーマートとの協業により、周辺に物販店が少ない地域の郵便局で同社取扱商品を販売する取り組みを行っているほか、ローソンとの間でも、移動販売の商品在庫の保管や車両の拠点として、郵便局を活用する試行も行っていると聞く。地方でコンビニと提携しながら、生活の下支えを郵便局も一緒にやらせていただきたい。

 ――伝統の踏襲に力点を置かれますか。新しい郵政事業へダイナミックに創り変えたいのですか。
 千田社長 伝統という意味では、地域に根差すリアルな郵便局ネットワークは我々の生命線だ。地域の方々の暮らしに密着して郵便局が手を携え、生活を守る存在意義をさらに充実させたい。
 ただし、やり方はどんどん変わる。金融サービスも、今やスマホやパソコンでできる。配達の仕組みも変わる。時代と共に変わっていくお客さまが欲するサービスにアンテナを高くしなければならない。古風なサービスのままでは、地域の皆さまに「郵便局は要らない」としか思われない。
 我々自身が変わり、社員の仕事をしやすくし、お客さまに喜んでいただくことで経営も良くなるサービス見直しを進めたい。将来のサクセッションストーリー(継承の物語)が分断されない礎を私の代で築きたい。