平田直東大名誉教授が郵便局長に期待 防災教育を地域に

2024.09.28

 防災月間の9月を迎えた。長年、地震災害を研究し、政府の中央防災会議WGメンバーなども歴任された平田直東京大学名誉教授(南海トラフ地震評価検討会会長/東京大学大学院、理学博士)が、郵便局長の「防災教育活動」によって全国津々浦々の「地域防災リテラシー」を高められると期待をかけている。(写真上は、気象庁で会見する平田名誉教授:NHKテレビから)

コミュニティーづくりのまとめ役に

 平田名誉教授は「局長の方々は、おおむねその地や近隣に住み、住民の皆さんと仕事上も密接に関わることで〝顔の見える関係〟を築いている。自主防災組織が機能すべき時に、局長の皆さんにぜひ〝地域のまとめ役〟になっていただけると非常にありがたい」とも語っている。
 能登半島地震から約8カ月。現地は今も復旧に向けて苦労されている。石川県能登地区会の坂口高雅会長(町野)は能登への支援の感謝とともに「想定以上の備蓄が必要だったことなど、能登で起きたさまざまな教訓を今後の防災に生かしていただければありがたい」と話す。橋爪聡司防災担当理事(西保)は「一番大切なことは『地域のコミュニティーづくり』と実感した」と強調する。

「何より支援への感謝伝えたい」
能登地区会 坂口高雅会長


坂口会長㊨と橋爪理事

 「全国からのさまざまな方々の応援があって、ここまで復旧できた。日本郵政グループ各社、もちろん全国郵便局長会(末武晃会長)をはじめ、全国の会員や社員からも本当にいろいろな支援をいただき、頑張ってくることができた。まずは感謝の思いを伝えたい」。石川県能登地区会の坂口高雅会長(町野)は、開口一番こう語った。
 発災から8カ月が過ぎたが、今も奥能登は人が気軽に立ち入れる状況にはない。タクシーも少なく、宿泊施設もないに等しい。半島という特殊な地形故に復旧が遅れ、さまざまな課題にぶつかる能登半島。自然災害が頻発する昨今、見えてきた防災への指南、教訓を探ってみた。

 坂口会長は「発災が元日だったため、帰省していた方々と観光客を含め、奥能登には普段の倍以上の人がいて被災した。そのことで助けてもらえたご高齢の方も多くいたが、逆に備蓄は全く足りなくなった。特に水。避難所は人であふれかえり、私も10日間は車中泊。雪を溶かして米を炊き、体を拭いた。あらゆる通信が止まる中、唯一、公衆電話だけがつながっていたため、皆並んで知人との連絡を取っていた。発災当初、会社にも局長会や関係者の方々にも『奥能登には当面入らないでください』とお願いをした。心配されたと思うが、道路の復旧作業に支障が出るためだ。多くの道路が寸断され、道路の復旧が進まないと支援物資も搬入できず、当初は中間地点にストックし、少しずつ搬入した」と壮絶な日々を振り返った。

 能登の主要道路となる、のと里山街道が全線双方向で開通したのは7月半ば。いまだ行けない地域や水道が通っていない地域もある。
 坂口会長は「建物の損傷が激しく、私の局周では実際に住む方は震災前の1割以下となり、あちこちで多くのコミュニティーが破壊された。お年寄りは新たに住宅を建てるのは難しい。能登の再生をどうするかという難題に向けて、石川県と奥能登2市2町(珠洲市・輪島市・能登町・穴水町)は災害公営住宅の環境整備を進めている。78局ある地区会は今も13局休止しているが、大規模な修繕を終え、10月に1局、来年4月以降にもう1局の開局が予定されているが、今後は、さまざまな地域の再生に伴い、新たなコミュニティーがどう構築されるかを見据えた上でなければ、郵便局の移転先等もなかなか決められないと思う。多くの崩壊した住宅を壊して撤去しなければ再生もかなわず、作業には2年ほどかかるともいわれている。損傷建物が非常に多く、復旧にはまだまだ時間がかかりそうだ」と話した。

 能登空港に最も近い郵便局で、穴水駅と輪島駅の中間地点に位置する三井局に、ATM機能を搭載した災害用移動郵便車(写真上)が局の横に設置されたのは6月半ばだった。

 窪田政子局長(写真上)は「局付近に仮設住宅が100棟設けられた。移動郵便車が来たことで休止局に出勤するようになり、地域の方には『時間かかっても開局待っているね』とよく言われる。町として今後、この地域をどうしていくか検討段階。『郵便局はあってほしい』と言ってくださる地域の方々と一緒に頑張ろうと思う」とほほ笑んだ。

一番は「地域のコミュニティーづくり」

 発災直後、道が寸断されて避難できない住民のために、自衛隊がヘリコプターで5人ずつ乗せて避難させる中、ヘリ発着所に待機し、約160人を30~40回避難所まで車で案内した能登地区会理事の橋爪聰司防災担当理事(西保)は「災害の備えとして一番大切なことは『地域のコミュニティーをつくること』と痛感した。私の局周地域も帰省中に被災した40代~50代の方たちが、誰がどこに住んでいるか分かる〝顔の見える人間関係〟を築いていたため、安否確認や人を捜すこともスムーズにできていた。地域のコミュニティーづくりによって備えることが極めて大事だ」と強調する。

 北陸地方会の宇野憲二会長(三方)は「私は福井県で被災はしていなかったが、さまざまやりとりしながら現地の苦労が身につまされる思いだった。2~3万棟が公費解体の対象になってもなかなか進んでいないと聞く。解体作業は重機を使わなければできず非常に危険を伴うため、ボランティアではできない。郵便局舎も耐震基準を満たさない局舎の建て替えを進めなければ、災害時に人命を脅かす。会社も2027(令和9)年度をめどに建て替えを完了する方針と聞く。一人一人の局長が防災の観点から、地域に何ができるかを改めて考える時だろう」としみじみ語る。