命守った!危機意識の共有

2022.10.14

 豪雨災害が各地で相次ぐ中、石川県小松市内の中海局(中山真一局長)と国府局(平戸登局長)も8月4日、被害に見舞われた。特に中海局は水位170㌢まで浸水。朝9時前にはうっすらと晴れ間も見えていたが、わずか3時間後に町は濁流に飲まれた。いったん開局したものの、梯川と滓上川の合流地点にあり、ハザードマップから中海局の危険性を察知した石田聡部会長(小松打越)らの「支社に相談し、局を閉めた方がよい。命の方が大事やから」との判断を受け、中山局長が安全策を決断したことで社員を守り、また局長自身も間一髪で助かった。(写真中央左の赤茶色の建物が中海郵便局。北國新聞8月5日付から転載)

気付いた時には遅い ハザードマップが重要

 8月4日、石川県小松市では通常の8月1カ月間を超える雨量が数時間に降り注ぎ、梯川の堤防を越水して滓上川などに流れ込み、滓上川の橋桁に流木が引っ掛かかったことで町内に水があふれだした。約39万人の県民に避難指示が発令され、床上170㌢まで浸水した中海局周辺の住民は住宅2階に避難し、自衛隊等のゴムボート救出を待った。豪雨や大地震に見舞われたことのなかった地域。石川県を地盤とする岡田直樹地方創生大臣は9月10日に現地を視察している。

北加賀地区、支社、グループ会社からも応援に駆け付けた

地域維持に郵便局再建は必須

 岡田大臣は9月16日の記者会見で、「石川県は私の地元。復旧・復興の道筋をつけるためにも実態を見極めたかった。甚大な被害が出た小松市中海町に行き、町内唯一の金融機関である中海局等の被害状況を拝見し、ATM搭載の災害用車両型移動郵便局を初めて見た。局長や社員の皆さんもボランティアで駆け付けていると伺ったが、郵便局が地域や住民の皆さんにとって心強い寄りどころ、ネットワークになっていた。地域コミュニティーを守るには再建は不可欠で、地方創生に果たす郵便局の役割は大きい」と励ました。
 
中山局長㊨と石田部会長

間一髪!

 中山真一局長(中海)
 当日朝は少し薄ら明るく雨も降ってなかった。川の水も越水するとは誰も思えない状況。ただし、土砂災害の避難指示は出ていた。石川県加賀南部地区連絡会(新谷真志統括局長/川北)の宮岸稔総務担当副統括局長(小松本江)や石田聡部会長(小松打越)から「いつでも局を閉められるように準備した方がいいよ」と開業前に連絡があったものの、会社の避難基準は満たしてなかった。
 8時37分、部会長から「開局諦めて閉めたらどうや。支社に相談してみたら」と言われ、支社に電話すると「現場の判断でよい」との指示だった。部会長から「それなら閉めてもいいのではないか」と言われた時には「晴れとるから大丈夫では」と答えると「いや、命の方が大事やから」と言われ、いったん局を開けたが、すぐに閉めて社員を帰宅させた。
 その後、しばらく一人で局の机で仕事していると、11時過ぎに雨が激しくなり、警戒レベル5の全市民避難指示が出されたため、外の様子を見ようとすると入り口から水がザーッと流れ込んだ。まずい、と慌てて車に飛び乗った。すでに水位は20~30㌢あり、車が動けるギリギリのタイミング。数分後には中海局周辺は水位170㌢となる濁流に飲まれた。間一髪。住民の方々の住宅は2階建てで垂直避難できるが、局は1階建のため、逃げ場がない。まして背の低い女性社員は170㌢の水位では耐えられなかったと思う。
   ◇
 翌朝、局内に入ると、水は引いたもののATM含めて壊滅状態。泥が散乱しまくっていた。町はがれきの山が点在。副統括も「これは大変」と地区連絡会内に連絡してくれ、局長はじめ社員が金沢からも総勢何十人応援に来てくれ、5日金曜と6・7日の土日の3日間できれいに片付いたが、全て使えず、運営できる状態ではなかった。
 8日月曜になるとお客さまもいらっしゃった。「しばらく営業できないです」と話をしていると、宮岸副統括が「災害用の車両型郵便局の手配を支社にお願いしよう」と提案され、9月12日からオープン。今はお客さまも安心して来てくださっている。
 〝ハザードマップ〟が大事と分かっていても「1000年に1度の予測なら大丈夫」と頭の片隅にあった。実際に危機一髪を体験して「気付いた時にはもう遅い」と、声を大にして言いたい。

車内で頑張る社員の皆さま

車両型郵便局へ入る地域の方

 石田聡部会長(小松打越)
 8月4日朝から小松市全域で土砂災害警報は出て、宮岸副統括はじめいろいろな方から「きょう警戒やぞ」と声と聞いていた。中海局がハザードマップでかなり危険な地点にあったため、万一冠水が起きた時を想像して、中海局だけは「早く避難を」と言えたのは良かった。
 小松市はこれまで台風の影響もほとんどなく、水害も地震もない災害に見舞われなかった平穏な土地。浅い穏やかな川から町中に水があふれ出す事態を誰も想像できず、市民の方々の危機意識もなかったと思う。

豪雨のない地域も備えを

 谷公一防災担当大臣は8月23日、石川県内豪雨のほか相次いだ大雨被害を「激甚災害」に指定。記者団に「被災された方々や自治体の声に耳を傾け、早期の復旧・復興と被災者支援に全力を尽くしたい」との方針を示した。10月3日の会見では、「今までは豪雨災害はもっぱら西日本が中心と言われてきたが、気候変動によってそれ以外の地域での豪雨被害が珍しくなくなってきた。日本中、どこでも豪雨が起こりえると想定した備えが必要」と強調した。
 日本郵政の増田寬也社長は9月30日の記者会見で、「包括連携協定項目にも防災は多く、自治体等の郵便局への期待は大きくなっている。専門部隊ではないため、限界はあるが、身の安全確保を大前提に局長が今この地域どうなっているか情報提供できることもある。生命、身体、財産の安全を確保する上で役に立てることならば協力したい」と語った。


橋が変形するほど流木が引っ掛かり、水が町にあふれだした

国府局前は水位50㌢