続・続 郵便局ネットワークの将来像㊵
石川県輪島市や珠洲市に大きな被害を及ぼした「奥能登豪雨」から間もなく3カ月――。市内中心部は土砂や流木の撤去が進んでいるが、孤立集落は今尚、道路もまともに通れない状況だという。半島や離島の多い日本で道路の寸断は、復旧・復興の大きな障害になる。教訓の一つは道路を強くすること、また、災害後も行政サービスが滞りなく行える郵便局ネットワークづくりも求められているようだ。
2度の被災、地域創生の新たな形を
能登地区会の橋爪聰司防災担当理事(写真上、西保)は「能登は海に囲まれ、平地が少なく海の後ろはすぐに山。西保局へと続く県道38号線は今も復旧していない。震災とは別の被害が点在し、安全な場所が分からない状況。災害に強い道路が必要だと思う。地震後は『住んでいた地に戻りたい』と言われる方が多かったが、豪雨後は『もうあそこには住めない』と諦めの声が増えた。地震後に仮設住宅に移った方も多かったが、豪雨で浸水し、使えなくなった仮設住宅も多い。七尾市に2次避難された方もいる。輪島市内に残った方は体育館の避難所で生活しているが、トイレは体育館外にあり、高齢の方は大変だ」と訴える。
橋爪局長は住民や火災保険の調査員の方々と地区内を回った。「集落は被災がひどすぎて、1~2時間回っただけでは把握できない。今後は仮設住宅から公営住宅になっていくと思うが、人口分布状況も変わり、市も計画を立てづらいと思う。支所や公民館も土石流にやられ、再開できない地域もある。郵便局も社員数が減って大変だが、自治体と情報共有し、郵便局ができるだけ業務を受託できる形にしていけば、復旧のペースは上がると思う」とも語る。
能登地区会の坂口高雅会長(写真上、町野)も近隣の局長の協力を得て、構内に流れ込んだ土砂の除去作業を続けたそうだ。
坂口会長は「地震当初は災害車両の妨げになるため、『奥能登への立ち入りは極力控えてください』と発信していたが、今回は人的支援をお願いしている。全国郵便局長会(末武晃会長)の視察時に坂口茂輪島市長も『水害の泥出しは人手が要るため、ぜひとも支援をお願いしたい』と要請され、全特からも支援を呼びかけてくださった。各地から順々に多くの局長が支援に入ってくださり本当に感謝している。2度にわたる災害で、被災した多くの方の心が折れかかっていたが、皆さんの支援のおかげで頑張ることができている」と感謝の意を表す。
災害、求められる郵便局の〝地域力〟
さらに「能登の災害は半島災害のモデルになると思う。地震直後は道路が寸断され、物資の搬入も困難を極めた。災害に強い道路整備は必須。集落が孤立した時のために、郵便局が地域の物資備蓄と運搬ができる仕組みづくりや、マイナンバーカード関連等の自治体受託業務、オンライン診療で災害時に地域に貢献できる仕組みなども必要だと思う」と強調する。
豪雨災害により自宅と局舎が全壊した大谷局(下の写真2枚とも)の石田晃教局長(写真上)は「豪雨時に家族全員が自宅の2階にいた。妻が『ここは危ないから逃げよう』と言ってくれたおかげで、助かった。避難所に向かい始めてから約1時間後に自宅は土石流に埋まった。家の後ろに流れる川は氾濫せず、斜め向かいの山が山津波となって押し寄せてきた。間一髪の体験をし、緊急時の危機管理の判断が極めて重要だと分かった。窓口営業時間だとしたら、お客さまと社員の命を守らなければならない。危なくなる前に避難所への誘導が大事で、自分は大丈夫という安易な気持ちは危険」と話す。
石田局長は「局長仲間の方の励ましや支援、会社の支援に感謝し尽くせない。一人ではないと感じた。地元消防団が近隣の方を救出しようとした瞬間に土石流に遭い、『郵便局の屋根に上って命が守られた』と感謝されたり、避難所でご高齢のご夫人がゆうパックを出したいけれど局が開いてないから出せないわ、と嘆かれたりしたことも、郵便局は地域に欠かせないとつくづく思えた。これから怖いのは雪。道が所々隆起しているため、通常時の運転も慎重にしているが、雪が積もることで道路が見えなくなる。除雪がうまくいかなければ、再び集落は孤立する」と心配そうだ。
内閣府政策統括官(防災担当)の宮下浩平参事官補佐は「被災者の中には『一刻も早く戻りたい』方や『他地域で生活再建したい』方もいると聞いている。石川県の市町は早く道路等を整備したいが、復旧には2~3年程度かかると見込まれているため、被災者生活再建支援法に基づく長期避難世帯を県が指定し、最大300万円の支援金を支給している。本制度を、郵便局長の皆さんからも被災された住民の方に周知いただければありがたい。被災者の中には高齢者や遠方に避難しており、地元の役所で申請することができない方もいる。支援金の申請は郵送も受け付けているが、地震後は1~2カ月、郵便も途絶えた。早期に復旧いただいてありがたかったが、災害時も郵便局が必要な時が多いと改めて感じた」と期待を込める。