続・続 郵便局ネットワークの将来像㊱

2024.09.05

 「郵便局スペースを活用するオンライン診療」が山口県周南市の高瀬局(写真上、福谷直美局長)での実装開始を起点に同県の離島、柳井市平郡島と岩国市柱島でも始まりそうだ。山口県立総合医療センターの原田昌範へき地医療支援センター長を中心に「医療の平等化」という共通目的に向けて郵便局ネットワークを活用しようと動いている。誰もが住み続けられる地域づくりはまさにユニバーサルサービス。郵便局の存在意義そのものだ。

郵便局のオンライン診療を全国へ

 
局内に設けられた和田巡回診療所で受診する患者第1号の方

 2021(令和3)年10月、コロナ禍の中で「高齢者の方が健康診断でも病院に来てもらえない」などを理由に、鹿児島県のT病院から「徳之島にある23局でオンライン診療をやらせてもらいたい」と、法人営業に回っていたゆうちょの担当者に相談があった。
 担当者が日本郵便本社に報告したところ、みまもりサービスを背景に前向きな姿勢がいったん示されたが、最終的に賃料の折り合いがつかず延期となった。
 その際、19年に「へき地等でのオンライン診療体制の構築」として、厚生労働省が山口県萩市相島等での実証実験を行っていたことから、将来的な可能性を探るために、全国郵便局長会の末武晃会長(萩越ヶ浜)と地元九州の宮下民也副会長(熊本西原)が徳之島を視察。「郵便局は役立てる」と認識したことを発端に、関係者間で実装に向けた活動が開始された。

福谷局長を励ます末武全特会長㊨

 ゆうち担当者は22年8月に山口県周西地区連絡会の福田信一郎統括局長(徳山櫛浜)に決済口座獲得を目的としたオンライン診療を説明した。
 福田統括局長は同年10月に徳山中央病院副院長、看護部長から原田へき地医療支援センター長を紹介され、「山口県柳井市平郡島(離島)と岩国市柱島(離島)の地域医療が大変」と聞き、山口市内の医師会や薬剤師会、市等々に相談したが2島はかなわずだった。
 山口市、周南市に当たったところ、看護師出身の藤井律子市長が和田地区は市内唯一の無医地区だったことから英断。中国支社(砂孝治支社長)と福田統括局長が県と市の健康福祉課・医師会・薬剤師会の調整を進めた。
 23年5月18日、厚労省から郵便局や公民館をオンライン診療のできる場と認める通達も追い風になった。

「地域医療の平準化」に貢献

 7月16日の「和田巡回診療開始セレモニー」で原田センター長は「対面診療とオンライン診療をいかに組み合わせ、患者の安心・安全に役立つようにできるのか。その答えは薬剤師や看護師と連携し、進めること」とも語っていた。
 周南市はオンライン診療の予算を年間90万円確保。主にシステム等に充てるものだが、その中から郵便局にも患者1人に対する場所代を支払う。診療所を新設すれば多額の費用がかかる。また、PC操作を行う看護師費用は郵便局では局長や社員が行うため必要ない。自治体側にとってお得な選択で、郵便局も場所代を受け取り、コミュニティ・ハブとして公的な役目を果たせる。
 高瀬局での全国初の実装は、周南市の英断により実現に至ったが、県が賛同したことも大きく影響した。市も県が反対すれば動けず、民間医療機関の場合に難しいコスト問題が、助成が受けられる県指定の医療機関となったことで前進した。
 県総合医療センターは、へき地の地域医療を支える総合医育成プログラムに取り組み、今回、巡回・オンライン診療を担う長沼恵滋医師はプログラムの卒業生。2年前から周南市鹿野診療所所長を務め、オンライン診療時には鹿野診療所からPCを通じて診察する。セレモニー終了後、巡回診療を受けた住民の方は「遠方の医者に行く回数が減るので助かる」と笑顔で話した。
 一方、薬剤師会との共創も欠かせない。山口県薬剤師会の調査では、患者宅に出向いて服薬指導を行える距離の平均値は、薬局を起点に7.2㍍。中山間地は薬局空白地が多いため、課題解決を模索していたことから、即、賛同した。
 処方薬配送に薬局はヤマト運輸の特約を使いがちだが、福田統括局長は「配送はゆうパックでも、郵便局でオンライン診療を受けることで患者さんの負担はトータルで減る。最終的に一番お得なのは郵便局とPRしたい」と強調する。
 開始セレモニーで主催側と来賓に共通した言葉は「全国に広がってほしい」だった。

記者会見 長沼恵滋医師
郵便局の協力、実装10年早まる


 ――郵便局での巡回・オンライン診療への思いを。

 長沼医師 診療所を新しく造ることも、巡回診療の新規開設もなかなか大変だ。郵便局の施設を活用させていただける巡回とオンライン診療の仕組みは非常に良く、ゆくゆくは広げたい。中山間地に安心感を届ける存在にしたい。和田モデルが成功し、巡回診療開設のハードルが下がれば、準過疎地の救いになる。
 ――どういった医師でありたいですか。
 長沼医師 医療は人が生まれてから死ぬまで関わる。安心して人生の最期を迎えられるよう、一人の人生に医療がどう関われるかを意識したい。郵便局と協力し合えたことでオンライン診療が予想より10年ほど早く実現できたと思う。
 ――公民館でなく、郵便局で行う意義とは。(郵湧新報)
 長沼医師 ITが苦手な方にも、ITを用いた医療を提供できることが大きい。公民館の場合は患者さんが自ら操作しなければならなくなるため、結局、スタッフを雇用し、設定しなければできない。郵便局は出張所から人員を出さなくても、オンライン診療ができるところが一番大きい。