JPビジョン2025+ 肝はグループ共通の「ゆうID」

2024.06.16

 「JPビジョン2025+」では、資源を物流と不動産に重点配分。郵便局窓口事業は26年度以降、早期の黒字基調への転換を目指し、柔軟な営業体制や店舗の最適配置などで地域ニーズを正視しつつ、生産性向上を図る。また、社員スキルの強化、営業専門人材育成、ニーズに応じた生活サポート商品・サービスの充実、窓口オペレーション改革を推進。「ゆうID」を基軸に日本郵政グループ各社の顧客情報を一元化するとともに、郵便・ゆうちょ・かんぽの基幹商品・サービスやがん保険等の提携金融、物販、郵便局の終活日和、地方公共団体事務受託等々、生活サポートを充実し、顧客一人一人の「人生100年時代」に寄り添う。

日本郵政・日本郵便 人生100年時代の多様な〝私〟に焦点


 グループで横串を通したDX推進により、一つのIDで郵便局のさまざまなサービスを利用でき、〝私〟を正確に理解できる形をつくる。便利でお得なサービスを通じて、グループ一体の価値を提供する。
 郵便局アプリの機能拡充や、ゆうゆうポイント等により顧客接点を増やし、 専門的な知識・スキルを持った社員が応対する機能センターの対象局も拡大。顧客体験価値と社員利便性向上を目指す。
 日本郵政の増田寬也社長は記者会見の冒頭、「これまでの3年間は、信頼回復を第一に、お客さま本位の業務運営、グループガバナンスの強化に取り組むとともに、お客さまと地域を支える共創プラットフォームを目指して他企業との協業を推進してきた。これらが一定程度進ちょくする一方で、ゆうちょ銀行株式の売却による影響もあって利益の減少傾向が続き、この状態が今後も続いた場合、安定的な経営に支障を来す厳しい状況になると認識している。グループが健全に事業運営を行い、共創プラットフォームを実現するために課題を克服し、『成長ステージ』への〝転換〟が必要」と強調した。
 資源を重点配分する物流分野は、ヤマトグループなどとの協業深化に加え、強じんな輸配送ネットワークの構築などにより、荷物収益の拡大を目指す。また、5月9日にはセイノーグループとの業務提携を発表し、今後、共同運行等を通じ、2024年問題解決やCO2排出削減等に取り組む。
 不動産事業は、郵便・物流拠点を駅前の郵便局から郊外に集約化し、駅前の好立地の空いたスペースで不動産開発を促進していくことで安定的な収益を確保し、グループ収益の柱の一つへと成長を図る。
 郵便局窓口事業では、「窓口オペレーション改革」として、リアルチャネルである郵便局が「郵便局らしい温かみのあるサービス」を提供できる環境の整備に向けて、リモート・デジタルチャネルを推進し、顧客利便性向上と業務効率化の両輪で要員不足に打ち勝つ業務システムに転換する。
 新規ビジネスは、社会的な課題の解決に向けた新規ビジネス等として、終活サービスや空き家のみまもりサービスの展開、ローカルベンチャーとの協業等に加え、現場社員のアイデアを形にするチャレンジ制度等も実施。
 「共創プラットフォーム」を通じた新規ビジネス等としては、アフラック、楽天グループ、コンビニ各社、JR東日本などとの多面的協業、物流網とデジタルを結合した情報ビジネスの創出、郵便局スペースの有効活用、グループ共通IDでユーザーの利便性を高めるコンテンツの充実、日本郵政キャピタルを通じたスタートアップ投資等に取り組んでいく。
 国際物流事業はアジアを中心としたロジスティクス事業(輸送・倉庫管理や資源・政府分野物流等のサービス)やフォワーディング事業(輸出入を中心としたフルラインでの国際貨物輸送サービス)の収益性の改善を通じ、日本郵政グループの企業価値向上への貢献を目指す。

 人的資本経営の推進として、柔軟で多様性のある組織に転換するため、社員の柔軟配置の実現や外国人労働者の採用拡大や採用手法、採用対象の多様化を進めるとともに、頑張った人が報われる公正な人事評価の仕組みと適正な処遇への反映を再構築。管理職の評価項目において人材育成のウエートを高め、処遇に反映させる。
 〝+〟には、ウェルビーイング(肉体的にも、精神的にも、社会的にも、全てが満たされた状態にあること:WHO憲章)の向上を初めて盛り込み、個人がお互いを認めて支え合う生きたコミュニティーづくりを支援する、とも明記。
 地域のハブとしての郵便局の役割発揮とサプライチェーン全体での対応を、イノベーションの社会実装とも連携させて推進する。
これにより、モノ・ひと・エネルギー等の地産地消、サーキュラーエコノミー(資源を循環 利用し続けながら、新たな付加価値を生み出し続けようとする経済社会システム)を推進し、ウェルビーイングの向上と低環境負荷社会の実現にも貢献する。
 〝+〟の数値目標は、25年度のグループ連結純利益5700億円、株主資本ベースのROE(自己資本利益率:投資家が投下した資本に対し、企業が上げた利益を表す財務指標)4%以上、郵便・物流事業は営業利益900億円、郵便局窓口事業は金融2社の手数料減等でマイナス490億円、銀行業は純利益4000億円、生命保険業は修正純利益970億円を掲げた。
 また、24年度から始まるアフラックの持分法投資損益480億円を見込む 。
 増田社長は「日本郵政の株主資本コストは、おおむね5%程度と認識している。早期に5%程度を上回るROEの達成を目指すとともに、資本効率向上を図り、市場から期待されるPBR(企業の株価と純資産の比率を示す指標)の改善を図りたい」と展望した。
 記者団の「25年3月期通期業績予想において、日本郵便が初の赤字見通しであることの評価と、26年度以降どのように立て直していくのか」との質問に対し、増田社長は 「郵便・物流事業について、郵便の値上げに頼るのではなく、利便性の高い新商品など工夫をしていく。また、好調な物流にリソースをシフトし、ヤマトグループなど他企業との協業による荷量の増加や、セイノーグループとの長距離共同輸送によるコスト効率化、三大都市圏にある物流専門局へ最新鋭の設備の導入による生産性の向上等を図っていきたい」と言及。
 また、「郵便局窓口事業については、全国に窓口を持つことが強みだが、赤字が深刻だ。金融コンタクトセンターを拡充し、投資信託など専門性の高い商品の販売を増やしたり、終活や空き家のみまもりサービスなどの生活サポートサービス、今後ニーズが高まるであろう地方公共団体事務受託など、魅力ある商品・サービスを提供することで、窓口自体の魅力を向上していきたい。これらの多様な取り組みにより、特に郵便局窓口事業について、26年度以降にできるだけ早期に黒字基調へと改善していきたい」と述べた。
 「郵政民営化法見直しの法改正では、経営立て直しの観点も踏まえているが、要望等は」には、「グループの関係がずいぶん変化してきている中で、グループ全体の企業価値が上がる方向に行けばと思う」と答えた。
 郵湧新報の 「①郵便局窓口事業の24年3月期は増収増益だが、2年後の490億円の赤字予測はなぜか、②3万人削減で人手不足に対するDXが追い付かないようですが」には「①24年3月期は、不動産収益の貢献により増収増益となったが、今後は不動産事業のセグメント化に伴い利益が剥落する中で、郵便局窓口事業の業績は金融からの手数料収入が減少していくことで、厳しい状況が続く。②セイノーグループを含め、物流企業と協力して全体の生産性を上げるとともに、物流専門局へのロボットの導入やドローン、自動運転等のテクノロジーを使って人手不足に対応する。また、窓口オペレーション改革なども進めて窓口の負担を減らすとともに、人材の柔軟な配置により、人手不足に対応することも大きな柱だ」と語った。