続・続 郵便局ネットワークの将来像㉜
厚生労働省の人口動態統計によると、2022(令和4)年の死亡者数は約157万人で前年、21年の約144万人に比べ約13万人増。2040年まで増え続けると予測される。相続などの金融「相談ニーズ」も高まる中、タブレット端末で住民の方々を自治体や企業などにつなぐ〝量〟も期待されるが、いかにお客さまに寄り添えるか、心を察する局窓口の人の力による〝質〟も見逃せない。今後は、グリーフケアの学びも大切になりそうだ。(写真は「みらいの郵便局」の「リモートブース」)
〝つなぐ力〟を質と量で
全国初の「郵便局の終活相談サービス」を17年に開始した東京都江東区の41局(東京都東部地区連絡会/前野耕一統括局長/江東亀戸七)と連携する㈱エスクロー・エージェント・ジャパン信託の今中弘明社長は「死亡者増だけでなく、〝お一人様〟も01年の約300万世帯から19年は737万世帯と倍増。『自分が亡くなった後は?』『病気になったらどうしよう』などの悩みの受け皿となる相談サービスニーズは高まる」と指摘する。
北海道支社(淨土英二支社長)も江東区に続き相続のほか、訪問美容や士業などの専門家につなぐ「終活紹介サービス」を試行含めて全域に広げた。東京支社(木下範子支社長)も全域まで拡大し、関東支社(茂木孝之支社長)も一部地域で提供している。
日本郵政グループ「みらいの郵便局」の「リモートブース」もキーワードは〝相談〟だ。専用ブースは、郵便局のオンライン診療ブースとも似ている。局窓口から自治体や企業などの専門家につなげるタブレット端末に関連する動きもスピード感を増してきた。直近では、総務省の「自治体フロントヤード改革」には「郵便局等でリモート相談」「オンライン申請サポート」が明確に位置付けられた。
「フロントヤード」とは「住民との接点」の意。行政相談も、金融相談もタブレット端末は「+デジタル」ならではの助け船として、量を増やす力になる。ただし、質も大切なようだ。
これぞお客さま本位!
仙台市北部地区連絡会の内ヶ崎慎統括局長(写真上、富谷日吉台)は「東日本大震災時に、我が地区では多くのお客さまも亡くなられた。東北全体の悲しみだが、身内を亡くした家族の悲嘆さはその人でなければ分からない。相続の手続きに来られたご遺族の方に窓口で『大変でしたね。でも、お客さまご自身が元気でいてくれて良かったです』と励ますつもりで言った言葉に「何言ってるの。私はもう家族も誰もいない。一人っきりなの』と激怒されたことがあった」と振り返る。
内ヶ崎局長は一般社団法人日本グリーフケアギフト協会の加藤美千代代表理事と連携し、社員向け研修で講話を依頼。「講話を聞いた社員の中には『この話を東日本大震災の前に知っていたら、私たちはもっときちんと接遇ができた』と言われ、グリーフケアの重要性に気付き、研修やマニュアル作成など、地区としてさまざま取り組んできた。小野木喜惠子支社長にも理解いただき、東北支社でグリーフケア動画を作成、東北管内全局で展開している」と語る。
グリーフケアで寄り添える局に
「相続の手続きは社員には面倒で難しく、焦ってしまい、心に寄り添う対応ができない実態があった。一方、手続きに来られる遺族の方の感情は、つらく感情も不安定。優しい真心に触れると感激してくださるが、事務的な冷たい応対は深く傷付き、しこりが残る。グリーフケアを学ぶことで寄り添い方を身に付けてこそ郵便局のあるべき姿だ。取り組んだ社員とご遺族の信頼が高まり、ロイヤルカスタマーになっていただければ大変ありがたい」と願いを込める。
加藤氏の講話は金融庁幹部に「これぞ、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)そのものだ」と評価されたという。郵便局が幅広な相談窓口拠点を目指すのであれば、グリーフケアの浸透も大切な登竜門といえるかもしれない。