続・続 郵便局ネットワークの将来像㉘

2023.10.07

 郵便局の拠点価値を高めるためにリアルな〝人〟にプラスするものとして今、地方で「冷凍自販機」の意外な可能性が発見されている。食も健康の大事な要素の一つだ。一方、総務省の「郵便局の公的地域基盤の連携推進」で今秋から実証が始まる「郵便局におけるオンライン診療」の仕組みや機器は、人生100年時代に誰もが願う健康維持のために足を運べる郵便局として重要な足掛かりになりそうだ。(写真はケンミン食品のリリースから<左から>高村社長、林東灘局長、熊野浩之神戸中央局長)

命の絆を支える拠点に

 信越支社(菊地元支社長)管内の新潟県長岡市にある中越南地区連絡会(棚橋宏倫統括局長/出雲崎)の深沢局(川崎道夫局長)が、㈱長岡食肉センター(林又一社長)と連携して局前に設置した冷凍生肉自販機は設置後約50日が経過。「その後はどうですか?」と問い合わせたところ、川崎局長は「一日平均約20個が売れ続けている」と、うれしそうだった。
 冷凍自販機の商品は、国産豚・牛それぞれの生肉350㌘が、豚肉であれば500円とスーパーより若干高いが、さほど変わらない価格設定。みそ味としょうゆ味のもつ煮や、フライパンで焼けば調味料なしに美味の焼き肉が食べられる冷凍パック等を含めて8種類ある。

 スーパーやコンビニまで2~3㌔㍍の距離がある地域で、調理ができる生肉も売れているが、やや加工品の方が好調で、ほほ肉チャーシューや生モツ等、スーパーでは販売されていないレアな商品も人気のようだ。食肉センターが自販機代や工事費を持ち、深沢局は貸スペース代として手数料を受け取る。月々の電気代が約1万円。防犯カメラ付きの局スペースは企業にとって安心だ。

 川崎局長は「お年寄りに大変喜ばれているが、世帯を持つ若い世代も同じくらい買いに来られ、地域貢献になっている。菊地支社長にも『それが一番だね』と言っていただいた。学生さんも時々、レンチンの加工品を購入される。車がないと買い物は難しい地域だが、大雪時は国道も高速も閉鎖され、私も昨年は4日間、局に寝泊まりした。そうした時も自販機は役立てると思う」と語る。
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 8月3日から近畿支社(西口彰人支社長)管内の単マネ局、兵庫県東灘局(林正浩局長)前に、ケンミン食品㈱(高村祐輝社長)の冷凍ビーフン自販機が設置された。同じ神戸市に所在する企業と郵便局が地域活性化のために連携し、看板商品を郵便局カタログで販売したことをきっかけに設置の運びとなった。その際、国道2号線沿いで人目を引きやすい東灘局が選ばれた。
 東灘局総務部の内田秀樹課長は「通勤や通学で局前を通過される際に、立ち止まって自販機を確認される方やスマホで撮影される方もいらっしゃる。地域のお客さまの関心は高い。郵便ポストを利用される方も自販機に関心を寄せている。設置以降の売れ行きは好調」と話す。

 冷凍ではないが、南関東支社(山田亮太郎支社長)管内の神奈川県麻生局(関伊佐央局長)も2022(令和4)年12月から局前のポスト横に「川崎イイモノ直売所」自販機を設置(写真上)。地元の〝隠れた名産品〟として、かつての防空壕で㈱熱源(船崎帆洸社長)が栽培する「防空壕きくらげ」などの農産物加工品を販売。市の「中小企業間連携新規事業化モデル創出事業」の一環として販路開拓を応援されている。

公的な形の担保を

 自販機はデジタルとはいえないかもしれないが、郵便局の〝人〟の力と掛け合わせる「リアル×デジタル」として期待されているのがオンライン診療。
 政府は6月16日、「成長戦略のフォローアップ」で、オンライン診療の受診が可能な場所や条件に関する方針を2023(令和5)年中に検討し、24年度末までに方針を踏まえ、郵便局等身近な場所でのオンライン診療の実証を行うことも閣議決定した。
 同時に石川県での郵便局を想定したモデル事業も決定し、6月19日には日本郵便、総務省、厚労省の3者で打ち合わせている。25年度までにエビデンス(客観的事実)収集・構築の進め方を調査、研究を行う。
 自見はなこ地方創生大臣は「郵便局が地域医療を支える場所の拠点に安心してなれる環境整備づくりがまさに求められている。まずは離島や過疎のへき地で、オンライン診療を使って公的な形を担保しなければならない。さまざまな医療制度の問題もあるが、実は、都会も独居老人の方が多くなり、要望は多い」と明かす。
 小泉龍司法務大臣は「地方に行けば行くほど、さらに医療の手や場が足りない問題は深刻だ。命に関係する仕事を郵便局が解決まではできなくても、看護師免許を持つ方に支えてもらえる仕組みができた暁には拠点価値がガラリと変わる。郵便局はお金や通信の生活インフラだったが、命の絆を支える拠点になる。自分の健康や生死を分けるかもしれないとなれば、本人や家族にとってはある意味、お金以上に大事だ。さらなる規制緩和が必要になるのかもしれない」と指摘する。