特別インタビュー 田原総一朗氏

2022.07.16

 「朝まで生テレビ!」などの討論番組をはじめ、激論を交わしながら本質を突いてきた田原総一朗氏。歴代首相等を取材し、郵政民営化の激流を体感してきた田原氏は、88歳となった今もマスメディアの最前線で精力的に活動する。特別インタビューでは、地方創生や防災のほか、ジェンダー問題、民営化の舞台裏にも迫った。田原氏は「僕はジャーナリストとして、できる限り『フェーストゥーフェース』でやる。つまり、〝殴り合える距離〟だ」と、真っ向勝負の生きざまを示した。

郵政と日本の未来を語る

 ――これまで、歴代首相や閣僚と激論を交わされてきましたね。
 田原氏 僕はジャーナリストとして、できる限り、「フェーストゥーフェース」でやろうと思っている。今はデジタルの時代だし、みんなオンラインで対話や取材をやるよね。しかし、オンラインでの対話は、やっぱり限界がある。
 フェーストゥーフェースで会うということは何かというと、つまり、お互いのつばが飛ぶ距離。もっと言えば、殴り合える距離だ。本当にね、殴るぞ!(ポーズを示して)と。

 僕は今でも、政治家でいえば首相をはじめ、官房長官、野党党首、全部1対1で会う。それ以外に、経営者、労働組合、先端技術の研究者なども、全部フェーストゥーフェースでの対話を求める。〝殴り合える距離〟で会うことにしている。

フェーストゥーフェース
対話は〝殴り合える距離〟で

 ――全国津々浦々の郵便局は現在、地域でなくてはならない〝拠点〟として地方創生に貢献しています。
 田原氏 今の日本の大問題の一つが地方創生。東京一極集中で、地方の人口が減っている。地方が活力を持つためにはどうしたらよいのか。その大きな活力の一つが、インバウンド(訪日外国人)だった。
 日本はどこも景色がいい。しかも、日本人はおもてなしが素晴らしいから、外国人旅行者は1度日本に行くと、2度、3度と行きたくなる。ところが、コロナで駄目になった。今後、コロナが一段落して、また戻ってくればいいのだが。
 地方創生でもう一つ重要なのは、まさに第3次産業革命の「IT革命」だ。今、コロナ禍でステイホームが企業で推奨され、出勤しなくてもいい会社が増えている。東京に会社があっても、オンライン化でどこに住んでもいいわけだ。これも、地方創生の一つの活力源となると思う。

 ――地方創生担当大臣を今、野田聖子衆議院議員が務められています。
 田原氏 彼女は郵政民営化に大反対して離党して、その当時は無所属で当選した。すごいよね。今いろいろと一緒にやっている。日本は男女格差、ジェンダー・ギャップ指数が世界で120位だ(7月13日の公表では146カ国中116位)。女性の国会議員も非常に少ない。特に衆議院は10%もいない。世界はこんなものじゃない。フランスなんて、40%近くに上るからね。
 実は昨年5月、全政党の女性国会議員の勉強会を作った。男の僕が「作るぞ!」と呼び掛けたんだ。僕みたいな年寄りじゃなくて、もっと若い人がやればいいのだが。この国は、批判だけするのが好きな人も多いが、具体的にやろうとはしない。
 野田さんや各政党の女性国会議員を集めた勉強会を月に1回やっている。問題は、ジェンダー・ギャップをどうするかだ。まず、女性の国会議員を増やしたい。この数年以内に、全政党が女性の国会議員候補者を3分の1以上にする「クオータ制」の実現に向けて取り組んでいる。その次は企業の管理職、役員。女性が少ない。これをどうやって増やしていくかだ。

 ――全女性国会議員による取り組みは、これまでになかったのではないでしょうか。
 田原氏 ない方がおかしいよね。みんな熱心だ。今年4月7日には「超党派女性議員の討論会」をやった。面白かった。国のトップに女性がなってこそ、国が変わる。サッチャーの英国、メルケルのドイツ、台湾など女性がトップになれば大きく変わる。日本も早く、女性をトップにしなくてはいけない。それを菅さん(前首相)にも、岸田さん(現首相)にも直接言っている。

 ――昨今、災害が頻発していますが、日本防災士会の浦野修会長(全特顧問)が先導し、全国の郵便局長1万2000人以上が防災士として地域で活動しています。防災の取り組みについての考えは。
 田原氏 防災の取り組みは大事だ。特にここのところ、年ごとに天候が良くないことが続いている。環境問題は非常に大問題だ。地球環境がどんどん悪くなるということは、どんどん災害が増えていくということ。その意味でも、地域での取り組みはとても大事だ。

 ――民営化から15年がたち、当時を経験した郵便局長たちは時代の流れに巻き込まれながらも、各地域で奮闘しています。
 田原氏 本当に大変な思いをされてきたと思う。民営化当時、小泉首相が一番信頼していたのは竹中平蔵さん。経済戦略は全部竹中さんがやった。その竹中さんから、「困ったことが起きた。小泉首相が『郵政を民営化したいから担当大臣になってくれ』と言われた」と。なぜ困っているかと聞くと、「郵政民営化なんかやる必要は全くない」って言う。
 だったら必要ないと言えばいいのに、「あの男は頑固だから、言い出したらどうしてもやる。自分が批判したら別の人を担当させるが、絶対うまくいかない。だからやるしかない」と困っていた。
 元首相の森喜朗さんは「参議院で継続審議にすれば、俺たちが何とか民営化を実現させるから」と説得したが、小泉さんは「いや、参議院で採決する。否決されたら衆議院を解散する」と頑固だった。
 それで森さんは「解散したら絶対に負けて政権を失う」と不安にかられ、「サンデープロジェクト」に出演して小泉さんを散々こき下ろした。結局、参議院では否決され、小泉さんは衆議院を解散。そして、勝っちゃった。
 だが、小泉さんのやり方は強引で無理があったから、さまざまな問題が出てきた。15年たって、民営化して本当に良かったのか悪かったのか。両方あると思うが、いろいろ無理があったと思う。

 ――郵政創業151年を迎え、未来の200年へと向かう今、郵便局に対して、期待の言葉をお願いします。
 田原氏 僕の出身は滋賀県の彦根で、もちろん郵便局には何度も行った。郵便局はどこにでもあるからね。郵便、速達、電報。遠くの人とのコミュニケーションは郵便だった。やっぱり、書いた手紙を読むのは楽しいよね。最近あんまり書かないけれど、ラブレターって「書く」からいいんだ。僕もたくさん書いたよ。
 デジタルの時代に郵便局がどう生き残るか。郵便の良さ、特長をどう伸ばすか。そこだと思う。書くことの楽しさをどんどん生かしてほしい。郵便はとても大事だから。