インタビュー 日本郵便 衣川和秀社長

2022.04.21

 日本郵政グループの新しい営業体制が4月から始まった。かんぽ生命保険商品の募集に係る問題が発覚して以降、信頼回復の努力を積み重ねた2年9カ月。コンサルタントだけでなく、郵便局窓口の営業力や郵便局の拠点としての重要性も増している。
 日本郵便の衣川和秀社長は「心底〝ありがとう〟と言ってもらえる仕事をしようと頑張る局長や社員の皆さんが、全国津々浦々にいることが日本郵便の強み」と強調。支社のリーダーシップを期待する分野の一つに防災を挙げた。また、「自然災害などの折には、現場の皆さんに大変な苦労をかけているが、復旧に向けた皆さんの努力に感謝するとともに、誇りに思う」と語る。

皆で引き出そう!
お客さまの〝ありがとう〟を

 ――3月には東北で最大震度6強の地震が起きましたが。
 衣川社長 福島県沖の地震の翌日は、ほとんど電車も止まっていたにもかかわらず、多くの社員が出勤してくれた。故障した機械の修理にも苦労されたと聞く。郵便や荷物のお届け、金融サービス提供という使命感の下、懸命に取り組んでくれたおかげで業務に大きな滞りなどもなかった。こうした自然災害などの折には、現場の皆さんに大変な苦労をかけているが、復旧に向けた皆さんの努力に感謝するとともに、誇りに思う。

 ――かんぽ生命の新しい営業体制への意気込みをお願いいたします。
 衣川社長 新年度から新しいかんぽの営業体制を立ち上げようと、一昨年度から準備を重ねてきた。今や生命保険業界そのものが非常に厳しい環境下にあり、他生保との競争も激しい。そうした中でグループの生保事業を安定的、持続的に提供するにはどうすればよいかをグループでさまざま話し合った結果、コンサルタントの①保険専担化②かんぽ生命保険への兼務出向③活動拠点の集約――を実行した。
 コンサルタントの皆さんは保障を提案する能力が向上するように、かんぽ生命保険の直接の指揮、指導の下で業務を進め、窓口社員の皆さんは保険を含めた金融商品全般のサービスを引き続き提供する新体制とした。
 グループ全体で「お客さま本位の営業活動」を実践するために、課題を一つ一つ解消してきた。実現のため、かんぽ生命保険はもちろん、ゆうちょ銀行とも連携し、日本郵便13支社と本社がしっかりと郵便局をサポートしなければいけない。予期せぬ事柄が生じてもグループ一体となって真摯に対応し、解消する思いで臨んでいる。

 ――地域特性を生かす観点で、本社から支社に権限を委譲できるとしたら、どのような部分ですか。
 衣川社長 日本郵便の特徴は約2万4000の郵便局を全国津々浦々に配置をしていること。拠点は多いが、一つの企業体のため、コンプライアンスやユニバーサルサービス維持は本社が方針を示し、一体的に運営すべき。一方で、地域の特性や実情を考えながら支社がリーダーシップを発揮してほしい取り組みもある。防災関係もその一つ。災害は局地的に発生し、影響はそれぞれの地域で異なるため、支社の判断で対策を早め早めに取ることが必要だ。
 地方創生のために、すでにかなりの部分を支社に委譲しているが、地方の声と、郵便局の皆さんの声もよく聞いて、何ができるかを支社が主体的に考える意識を持ってほしい。本社はやるべきことにしっかり取り組み、支社と意見交換をしながらいろいろな施策を前に進めたい。

 ――「ローカル共創イニシアティブ」など含め、日本郵便として地方創生にどう取り組まれていきたいですか。
 衣川社長 「ローカル共創イニシアティブ」は日本郵政が打ち出したものだが、日本郵便も本社間での協力、郵便局を通じた地域での連携など、全面的に協力していきたい。地方創生は、地域の皆さまの利便性を高めるために、大きく分けると自治体との連携と自治体以外との連携の二つがある。
 自治体との包括連携協定は都道府県で42道県、市町村は1277市町村(21年度末)と締結した。包括連携協定をきっかけに、自治体との関係性を深化させ、地域経済活性化や安心・安全な暮らしの実現に取り組みたい。
 今後、支所や出張所等を廃止する自治体も増えていくと考えられ、地域の皆さまの身近にある郵便局が、利便性の維持・向上に貢献していくことができると考えている。例えば、住民票の写しなどの公的証明書の交付に加え、国民年金関係の申請書の受付などの行政事務やプレミアム付商品券の販売等の地方公共団体事務を313団体、4798局(22年2月末)で受託している。
 また、近年では、郵便局の窓口に有償で設置したタブレットを利用して、地域の皆さまが自治体へテレビ電話での行政相談ができる取り組みや、新型コロナウイルスワクチン接種予約を郵便局の社員がパソコンで代行入力するといった取り組みを一部地域で実施している。
 自治体以外で顕著なのは、金融機関の支店統廃合に際して、郵便局への金融機関のATMコーナーの設置や、郵便局窓口で金融機関の手続事務を受け付け・取り次ぎを行うサービスの提供。その他、郵便局窓口と駅窓口の一体運営なども進めている。共創プラットフォームの観点で採算性を考えながら、できる限り地域のお役に立っていきたい。

 ――成長分野の荷物では楽天などとの提携施策を進めていらっしゃいますね。
 衣川社長 昨年7月に楽天との合弁会社「JP楽天ロジスティクス」(諫山親社長)を立ち上げ、昨年11月には、ゆうパックで配送する荷物を対象に、楽天市場の複数店舗の商品をまとめて配達できる〝おまとめアプリ〟や、JP楽天ロジスティクスが扱う荷物を、地域区分局を介さず直接配達担当局へ持ち込む実証実験も実施した。
 これは、注文してからお届けまでの時間を短縮できることもあり、今後、安定的、継続的な拡大を検討中だ。昨年12月には、ドローンを活用した超高層マンションへの配送実験も実施した。サービス充実と業務の効率化を進めていきたい。
 佐川急便とも、昨年の11月からEMSやゆうパケットを佐川急便のお客さまもご利用いただけるようにした。3月からは幹線輸送の共同運行便を開始し、大規模局間の輸送について、1台のトラックに両社の荷物を載せる取り組みを始めた。ほかにも、佐川急便が持ち戻られた荷物を郵便局でお預かりし、お客さまにお渡しするなど、サービス向上と業務効率化につなげる取り組みを実施している。
  
 ――EV車両導入計画なども改めてお教えください。
 衣川社長 日本郵便が保有する多くの二輪車、軽四輪車のEV化を進めたい。中期経営計画「JPビジョン2025」の最終年度の2025(令和7)年度末に集配用二輪車の約40%、軽四輪車の約50%のEV化を目指し、前倒しで進めていく。
 栃木県小山局と静岡県沼津局では、東京電力と三菱自動車工業と共同でカーボンニュートラルに向けた実証実験を開始した。この取り組みでは、郵便局の電力をCO2排出係数の少ない電力に切り替えたほか、EV車両用の急速充電器を郵便局に設置し、地域の皆さまにもご利用いただいている。
 今後も充電インフラの整備や寒冷地対策などのEV車両の走行性能向上も共同で取り組むと共に他企業との間でも、地域のカーボンニュートラル化を後押しする取り組みを進めることにより、社会全体の脱炭素に貢献していきたい。

 ――現場の局長や社員の方々に激励の一言をお願いします。
 衣川社長 前回のJP改革実行委員会で、郵便局の現場で意見交換された委員の方々から「お客さまと直接接する社員には、〝ありがとう〟と言ってもらえることに喜びを感じ、『郵便局がなくなったら困る』と言ってもらえる仕事をしようと頑張る社員がいる」と励ましの言葉もいただいた。
 そうした気持ちで仕事をしている局長や社員の皆さんが全国津々浦々にいることが日本郵便の強みだ。日々の苦労はあると思うが、地域の皆さまから慕われ、信頼され、感謝される仕事に一緒に取り組んでいきましょう。