インタビュー 久田雅嗣九州支社長

2025.02.17

 世界トップの半導体企業TSMCの熊本進出をはじめ、九州は今、産業や観光、離島振興など活気づいている。沖縄支社長を経て、就任から約2年を迎えた九州支社の久田雅嗣支社長は「九州郵政パーパス」を策定し、お客さまと地域社会、社員の方々とそのご家族を幸せにするため、広大な九州全土を駆ける。自治体や台湾・中華郵政等との連携を積極的に進めている久田支社長は「お客さまを満足させ、喜んでいただく新たな価値を提供したい。顧客を創り続ける郵便局ならではの『顧客の創造』を目指すべきだ」と意気込む。

九州郵政パーパス=地域・職場を笑顔に

 ――「九州郵政パーパス」の意義を教えていただけますか。
 久田支社長 「パーパス」には「目的・存在意義」との意味がある。局長・社員皆が同じ方向を見て、動くために、共通の目的を明確にすることは重要。会社の経営理念やJP行動宣言もあるが、九州に根差して身近に感じていただけるものとして、社員からの意見も取り入れて策定した。
 お客さまに対しては「九州で暮らす皆さまに寄り添い 笑顔あふれる九州にします」。郵便局で「想い」「安心」「安全」「元気」「持続」の五つの価値を提供することで、お客さまと地域社会を幸せにし、笑顔あふれる九州にしていくとの宣言だ。窓口ロビー等に掲示しており、「九州」の部分を地元の「〇〇市」として掲げている局もある。
 社員向けには「社員の幸せのために笑顔あふれる職場にします」とした。社員が幸せでなければ、お客さまを幸せにすることなどできない。CS(顧客満足度)にはES(従業員満足度)が必要だ。
 郵便局や支社で働く意義、本質を理解していただき、働きがいや幸せを感じ、安心して働けて笑顔あふれる職場にしていきたい。このパーパスを全ての事業の根幹としている。

 ――九州は離島や中山間地が多い中、郵便局の存在価値とは。
 久田支社長 全国約2万4000局のうち約3400局が九州管内にある。そのうち、約1800局が過疎地にある。自治体支所や金融機関、商店が撤退する中、地域の拠点として残っているのが郵便局。三事業のほか、行政サービスの提供や地元の野菜・卵等の無人販売、特産品のチラシ販売など、地域になくてはならない位置付けとなっている。
 九州は毎年のように大雨などの自然災害が起こり、南海トラフ地震のリスクも高い。防災・減災に取り組む拠点としての役割も郵便局にはある。いくらかの備蓄品があり、発災時の連絡拠点にもなり、NHKと協力して情報提供も行っている。
 離島については特有の課題があり、九州支社と沖縄支社で「郵便局離島サミット」を毎年開催して議論を重ねている。本社でも離島対策PTが立ち上がった。今後、離島や過疎地でどのように郵便局を活用いただけるか、そこで働く社員たちの働き方についての課題も解決していきたい。

 ――熊本県天草市の23局包括事務受託や、宮崎県都城市のマイナンバーカード関連事務受託など、全国に先駆けた自治体連携が進んでいますね。
 久田支社長 郵便局が地域に欠かせない存在であり続けるため、自治体との良好な関係を築くことは非常に重要。九州管内の市町村のうち、包括連携協定は熊本・長崎両県で全て締結するなど、全体で約80%と締結した(1月21日時点)。局長の皆さん方が、日頃から信頼関係の構築に汗を流していただいている証しだと思う。
 天草市の場合は、出張所を廃止して、行政事務を全て郵便局にお願いしたいとの要望をいただき、実現に至った。都城市からは、マイナ関連は全て郵便局でやってほしいと信頼いただき、新たな法令が施行されれば、すぐにお願いしたいと期待いただいている。身近な郵便局で行政事務を行うことによって利便性が向上し、利用数も増えていると聞く。

 ――昨年10月には、台湾の中華郵政と日本郵便が姉妹郵便局協定を結び、熊本県と台北市の郵便局の交流などがスタートしました。
 久田支社長 記念のフレーム切手は人気で記念押印も多くの方に喜ばれ、台湾からもご依頼いただいた。日本の赤いポストと台湾の緑のポストをそれぞれの郵便局に設置し、観光スポットとしても期待できる。今後は観光イベントや異文化交流の橋渡しなどを郵便局が担えればと思う。
 台湾のTSMCが熊本県に進出以来、台湾から多くの従業員やご家族も熊本に住んでおり、人的交流も盛ん。台湾と熊本はそれぞれ地震で被災し、支援物資や義援金を送り合ってきた友好関係もある。姉妹郵便局協定を機に、台湾の多くの方に郵便局をご利用いただき、ゆうちょ口座も持っていただければと願う。将来的には、相互の郵便局の視察も予定しており、中華郵政の方が日本の郵便局で働けるような関係も築いていきたい。

台湾の郵便局

 台湾との姉妹郵便局の締結がゴールではない。この施策の本丸は、今後も発展する半導体事業関連の物流である。TSMCの第2、第3工場の話もあり、関連企業もどんどん熊本に入ってきており、当然、大小さまざまな物流が発生している。
 多くの物流事業者がトラックを走らせているが、交通網が整備されていないことで問題となっている。渋滞緩和やCO2削減に向けて、工場周辺のエリア物流を日本郵便が引き受けられればと、関係企業や県、市町と検討している。
 工場に納品される部品や消耗品等の小荷物、それらを荷さばきする庫内作業、製造された製品の輸送など、荷物・貨物・ロジスティクスの総合的な物流について、日本郵便とグループ各社が、自治体や他の貨物事業者と協業してエリア物流を実現するために、あらゆるチャンネルから台湾との良好な関係づくりをしている。

 ――九州は多くの簡易郵便局も地域の隅々を支えています。
 久田支社長 九州管内に1000局近くの簡易局があるが、そのうち111局が受託者の高齢化などで一時閉鎖となっている。郵便局ネットワークの一翼を担い、ユニバーサルサービスを支えるために簡易局はなくてはならない地域の拠点。お客さまにとっては直営局も簡易局も同じ郵便局だ。一刻も早く一時閉鎖を解消できるよう取り組んでいきたい。

郵便局ならではの「顧客の創造」目指す

 ――局長や社員の方に伝えたい思いをお聞かせください。
 久田支社長 さまざまな判断基準として、①お客さまが喜ぶか②社員が喜ぶか③会社の利益になるか④コンプライアンスを順守しているか⑤地域に貢献できるか――の5本柱が重要だ。生きていくためにはお金を稼がなくてはいけないが、それは人生の目的そのものではない。ビジネスも同じ。お客さまを満足させ、喜んでいただく新たな価値を提供し、顧客を創り続けていく「顧客の創造」が企業の目的だと思う。
 かつてはスマートフォンなど存在しなかったが、電話機能だけではない新たな価値を提供することで、お客さまが飛びついた。これからの時代は、郵便局ならではの価値を提供して、顧客の創造を目指すべきだ。
沖縄支社時代から、お客さまに寄り添う「まごころ営業」を推進してきたが、それにあわせて「九州プレミアムクオリティー」を訴えている。商品だけでなく、業務・接遇の品質も上げることで、商品・サービス以上の価値をお客さまに感じていただける。
 窓口の方が優しく丁寧に接してくれれば〝あなたに相談して良かった。また郵便局に行こう〟と思っていただき、配達員の方が爽やかに配達してくれれば〝郵便局っていいね。今度出す時はゆうパックで出そう〟と思っていただける。お客さまが喜ぶ姿は自分たちの原動力にもなる。
 都市部でも、離島でも、中山間地でも、〝誰かのためになりたい〟との想いは、郵便局で働く皆さんに共通しているものだ。その気持ちを大切にし、守り続けていきたい。