新春インタビュー 柘植芳文総務副大臣
政府が今年度中にほぼ全国民の普及を目指すマイナンバーカードについて、昨年12月15日、松本剛明総務大臣が郵便局も交付に関われる法改正に言及したと報じられ、郵政関係者に激震が走った。背景にはどのような動きがあったのか。柘植芳文先生は「〝本人確認〟の権限がない法律の定めを何とかクリアできないかと考えてきた。官房長をキャップとする省内一体のプロジェクトで検討できたことで方向性が大きく変化した」と話す。また「キーワードは〝公共サービス〟だ。経営の柱に打ち立てていくべきだろう」と語る。
キーワードは〝公共サービス〟
経営の柱に打ち立て、新ビジネスを
――マイナカード普及に郵便局も頑張っています。
柘植先生 デジタル社会で基礎となるツールとしてマイナンバーは不可欠。政府は早期に国民にマイナカードを作ってもらいたい。総務副大臣として日本郵政の増田寬也社長と日本郵便の衣川和秀社長に郵便局の協力を得たいと直接、協力をお願いした。
普及に一層拍車を掛けるには、自宅近くの郵便局で申請から交付まで一気通貫でできる仕組みがあれば住民の方々は作りやすくなる。現状、郵便局でできるマイナカードに関する〝本人確認〟は間接的な補完業務のみで、局から申請書類を役所に送り、役所が承認して交付する形。郵便局で交付まで行うには郵便局で〝本人確認〟する法改正が必要である。
しかし、デジタル化とともに今、その仕組みを作らなければマイナカード申請・交付業務だけでなく、郵便局が自治体の受託業務でネックになってきた印鑑登録の申請の受け付けなど、公権力を持つ人でなければ証明できない課題も解消できない。〝本人確認〟の権限がない法律の定めを何とかクリアできないかと考えてきた。
――郵政政策部会で群馬県前橋市から提案された〝みなし公務員〟は難しいですか。
柘植先生 みなし公務員と類似したものに公務員に準ずる役目を承る郵便認証司がある。総務省が認証司を指定し、会社が受理・発行して証明する時の責任を持つ。国の行政を代わりに司るものだ。
総務省内では10月に今川拓郎官房長をキャップとする省内一体のプロジェクトとして「郵便局を活用して地方活性化方向検討PT」を立ち上げ、一定の方向性を情報通信審議会郵政政策部会(米山高生部会長)の「デジタル社会における郵便局の地域貢献の在り方」の答申に向けた中間報告に盛り込むことを決定した。
郵政事業は基本、郵政行政部で検討されてきたが、PTは局や部を飛び越え、省内横断で議論できる。自治部局も理解を示し、一緒にやりましょうか、郵便局もお願いします、と方向性が大きく変化した。
――人口減少や少子高齢化がことの外、進んでいます。
柘植先生 15年前の郵政民営化時には想像もできなかった時代の変化の中で、今、〝公共サービス〟維持の観点から郵便局の価値が見直されている。もうからなくてもユニバーサルサービスを維持しながら地域のために15年間誠実に仕事をしてきた実績を国も自治体も認識し、自治と郵便局を結び付けていかなければ地方を保てないことを実感している。
だから、日本郵政グループにとってのキーワードは〝公共サービス〟だ。そのことをもっと経営の柱に打ち立てていくべきだろう。
郵便局は自治体の受託業務やマイナカード申請支援、コロナワクチン接種予約等々、さまざまな分野で自治体と連携してきたが、〝公共サービス〟をビジネスの柱に定める方向性が明確ではなかったし、国もそのための仕組みや資金等の対応をしていなかった。
次年度は中期経営計画「JPビジョン2025」の後半戦に差し掛かる非常に重要な時期。郵政グループとは、公共サービスを提供する企業体なのだと、政府も思いを共有するビジネスモデルの確立が必要だ。
フランスの「ラ・ポスト」は四つの公共サービスを掲げ、政府と契約し、成果に基づいて国から補償金をもらうことで事業を保っている。株式会社化しているが、実質は半官半民のような形だ。公共サービスを担っていて、政府がラ・ポストに純費用を補償している。
三事業は重要だが、金融の手数料に頼る形態をもっと変えなければならない。一方でゆうちょ銀行とかんぽ生命はやはり〝郵便局〟のブランド力が必要なのではないか。それらを肝に銘じながらグループとして新たなビジネスモデルをもっと明確に追求すべきだ。
物流も、郵便配達を基本としたBtoCが主流だったが、BtoBビジネスにも力を入れるなど思い切った発想転換で、もともと持つ強みの活路を開いていただきたい。郵便局からお客さまが減らない抜本策を講じるべきだと思う。
――デジタル社会の根底には何があると思われますか。
柘植先生 「誰一人取り残さない社会」だ。例えば、高齢者や障がい者の方々が外へ出づらくても、自宅にいながら一定程度の診療を受けられ、スマートフォンをピッとかざせば最適な食事を届けてもらえるような社会を創らなければ、少子高齢化社会に対応できない。
インドネシアやルーマニアで閣僚会談に出席した折、「デジタル化に向けて地方を活性化させたい」と日本と同じような悩みを持ち、「そのためにはやはり郵便局を使いたい」との声を数カ国から聞いた。日本でもリアルな郵便局は人とのつながりを作るために絶対に必要で、デジタル社会に向かうためにも地方で拠点となる郵便局の活用が今求められている。そのニーズにどう応えていけるか。
郵便局は〝行政のコンビニ〟になるべきだろう。加えて、統合等が進められる農協の役割も担い、郵便局の資産と人的資産を生かして多目的ニーズに応えることで、社会に認知されるビジネス化ができるとよい。もうかっている都心の郵便局も三事業収益だけに固執するのでなく、地域ニーズをかぎ取った商品販売やサービスも本格展開いただきたい。
ビジネスとして〝公共サービス〟を担える形を作り、局長も社員も皆が社会に貢献する郵便局、日本郵政グループの誇りと立ち位置を取り戻すことが未来を開く道筋だと思っている。