新春インタビュー セゾン投信

2022.01.26

 顧客の6割強が40歳代以下、また約4割が女性というセゾン投信が、公正中立な「顧客本位の相談室」と日本の株式市場に問題提起する 「3本目のファンド運用」を開始する。創業時から「長期・積立・分散」に徹底し、家計の自立を促すビジネスモデルは人生100年時代の中、社会がそのモデルを追うように変化してきた。創業者の中野晴啓会長CEOは「(顧客本位は)諦めなければ種はいつか必ず実を結ぶ」と語り、園部鷹博社長COOは「既存の金融に限界を感じ、質の良い仕事をしたいと純粋な社員が集まってくる」と話す。

中野晴啓代表取締役会長CEO
園部鷹博代表取締役社長COO

 ――セゾン投信が創業時から種をまいてきた「長期・積立・分散」がますます主流になってきましたが、実績を教えてください。

 中野会長 今年3月で運用開始丸15年を迎える。ファンド2本の資産残高は昨年11月末時で4700億円を達成し、直販のお客さまは約15万4000人。4700億円のうち、ゆうちょ銀行の残高は2ファンド計220億円。一昨年11月末は107億円だったため、1年間で倍増した。以前は出入りが激しかったが、解約の比率が相当減り、昨年11月は約11億円入り、解約は約2億円。
 直販口座は過去1年で約7000口座新規の申し込みをいただき、買付金額は1年間で約900億円と順調に推移している。ゆうちょ銀行は積立を積極的に推進する販売に大きくかじを切り、販売額の3割弱は、つみたてNISAによるものだ。「積立ならセゾン投信」と各エリアの本部長からも認識していただけるようになった。
 販売額にこだわらず、お客さまの資産形成のため、積立を勧め、長期保有を推奨する姿勢に評価項目が転換したことで、ゆうちょセールスの方たちの顔が明るく変わった。窓販もネットも同じく評価されているようだ。一方、郵便局はこれからだが、4月から投信は窓口のみで販売し、積立を強化する方針と伺っている。

顧客本位で着実に成長

 ――2トップ体制になって約1年半が経過しましたが。

 園部社長 役割分担が明確になり、意思決定や実行のスピードは速まった。さらに高めるために、昨年は正社員、派遣社員を10名以上中途採用した。既存の金融機関にある種の限界を感じ、セゾン投信で質の良い仕事をしたいと入ってきた純粋な社員が多い。
 創業者の中野の理念や哲学を崩さないよう、中野が直接社員に勉強会を行う「王子(会長ニックネーム)塾」と、私の「べっち(社長ニックネーム)塾」を隔月で開催している。
 中野会長 営業的な部分は園部に任せている。私は投信協会副会長として運用会社の取りまとめや業界全体の橋渡しをする役割が増えた。一つ一つの金融機関が顧客本位に真摯に取り組む後押しをすることで、業界全体が押し上げられ、その流れに沿ってセゾン投信も一緒に伸びていければよい。
 園部社長 多くの方にセゾン投信の良さを知ってもらいたいと昨年から準備してきたのは、長期投資をお支えする「顧客本位の相談室」。高齢の方には資産の使い方、若い方にはライフプランの立て方など、長期的な計画を立てて資産を作ることで豊かな人生を送っていただくための相談を受け付ける。
 一般金融機関の相談サービスと異なるのは、公正中立的な立場でアドバイスのみ行い、セゾン投信のファンドも推奨せず、金融商品売買に結び付けない。
 もう一つは中野中心に手掛ける3本目のファンド。ガバナンスを大前提にして企業と対話するプロの新運用チームを立ち上げた。 国内の大手企業約20社と徹底エンゲージメントする、日本株ポートフォリオのアクティブ運用だ。
 元気を失いがちな日本の産業界も磨き上げればグローバルに戦える技術を持つ。技術とビジネスモデルをマッチングし、大きな成長と競争力を取り戻し、共に考えようという事業参画を意識した共感型ファンドだ。
 中野会長 生活者の意志が反映された資金が国内産業界を支え、厳選された価値ある企業から成長を通じてリターンが戻る。この新たなる金融メカニズムを体現させる。テーマはインベストメントチェーンの循環を通じた資産運用の高度化だ。
 日本の産業界をリードする企業の経営力を評価し、事業基盤の強化のみならず、足りない要素を指摘しながら共に企業価値の上昇を図る。これが本来の資産運用業の社会的使命だ。
 深く共感したお金が必要なため直販で実績を積み上げ、日本株のファンドを作る。規模ではかなわないが、日本を代表する質と理念を持つ運用会社になっていくことで、日本郵便から出資(40%)して良かったと改めて言っていただけるよう取り組んでいく。真の顧客本位の体現こそがセゾン投信の個性であり、差別化だ。「顧客本位の相談室」と「新たな3本目のファンド運用」は、セゾン投信の今年前半の新しい2大チャレンジになる。

種は必ず〝実〟を結ぶ

 ――昨今の金融を取り巻く状況はどう変化しましたか。
 園部社長 資産運用に関心がなかった方々から過去1年くらい長期投資について聞かれることが多くなった。10年前に60歳の方に話をしても「もう60歳だからこれからやってももう遅い」と言われていたのが、「60歳からでも大丈夫ですか」と聞かれる。
 コロナによる社会変化も気づくきっかけになったと思う。投資を通じて社会にお金を流し、経済を活性化して豊かになる仕組みは昔、国民からお金を預かって財政投融資で回していた郵便貯金と本質的に同じ。
 近年は米国の若者で一発千金を狙う投資もはやっているが、若い方たちもギャンブル的な投資で人生を壊すのでなく、長期にコツコツと積み立てる投信で将来豊かな人生を築いていただきたい。

 ――局窓口は投信を販売するに当たり、どう〝お声かけ〟すればよいですか。
 中野会長 お一人お一人が自ら納得できる人生づくりのために、投資信託で長期の資産形成が必要と伝えていただきたい。お客さまニーズに応えるとは、売りたいものを売るのでなく、お客さまに必要なものを販売していくこと。
 難しいことを聞かれたら取扱局につないでいただければよいと思う。豊かな人生に不可欠な行動規範を理解され、地域のお客さまに〝気づき〟を与えることで郵便局の存在意義はぐっと上がる。
 これまでも日本郵便の各支社等と連携し、将来に備えたお金の育て方の初心者向けセミナーやPR活動に懸命に無償で取り組んできた。国民の豊かな生活をサポートし、資本主義を支える使命を郵便局は持つ。
 どういうお金のプランを考えるとベストな人生になるかを一緒に考え、貯金に替わる生涯投資を行動規範として一気に普及させたい。潮流を大海原にするために郵便局は絶対必要不可欠な存在だ。諦めなければ種はいつか必ず実を結ぶ。