インタビュー 日本郵政 加藤進康副社長
2025(令和7)年度は日本郵政グループ中期経営計画「JPビジョン2025+」の最終年度。グループは今、基幹である郵便局ネットワークの力をどう生かそうとされているのだろうか。日本郵政の加藤進康副社長は共創プラットフォームについて「最前線の郵便局の〝拠点〟〝人財〟〝信頼〟を生かし、パートナーと連携し、新たな収益を生み出したい」と思いを語る。また、「地域の安全のために何ができるのかも検討していきたい」と話す。
郵便局の〝共創〟多面的な拡大を
――能登半島地震等々、過去の大災害を経た上で日本郵政グループは防災に関し、どのような準備をされていらっしゃいますか。
加藤副社長 地震や災害に対する危機管理体制の高度化を目指し、「グループ危機管理委員会」を定期開催している。グループ各社の連携強化やお客さまおよび社員の安全確保、被災後のサービス回復の確保に向けてさまざまな訓練のシナリオを作り、どのような被害時にも各社が連携し、対応できるよう多くの訓練を実施している。
24年度も首都直下地震、南海トラフ地震、江東5区の洪水、富士山噴火等々を想定した訓練を行った。結果をBCPに反映すると、気付きや教訓が得られる。
シナリオは例えば、大手町本社の機能不全や、ビルは無事でもシステムなどが駄目になる、出社が厳しくなる等々いろいろと想定している。
広域に関東が駄目になった時は近畿支社の本社代替や、首都圏でも多摩地域が大丈夫な場合は国立市の郵政大学校で本社代替を行えるよう衛星電話施設を設置し、社員も常駐している。
備蓄品や自家発電等の物理的な対策も強化した。郵便局の災害時の拠点活用も政府から要請されている。地域の安全のために何ができるかを引き続き検討していきたい。
――最前線の郵便局から収益を生み出す方策について、経営陣の方々の議論の方向性をお教えください。
加藤副社長 2025(令和7)年3月期の中間決算を見ると、運用環境好転による金融2社の増益やアフラックの持分法適用が始まったことにより、増益となった。また、不動産も好調で予想より上振れた。
ただし、人口減少やデジタル化の進展を背景に、全国の郵便局で一体的なサービスを対面で提供できるという従来の強みが少なくなってきているという面があり、郵便局窓口事業の金融の手数料収入の減少が続いている。
今後は従来のコア事業だけではなく、他のパートナーと連携して郵便局の活動から収益を生み出す事業が必要となる。このため、郵便局を活用し、地域社会の発展に貢献する「共創プラットフォーム」の概念のもと、収益事業を生み出そうと中期経営計画「JPビジョン2025+」では打ち出している。
最前線の郵便局の〝拠点〟〝人財〟〝信頼〟を生かし、パートナーと連携して新たな収益を生み出したい。
コンビニ協業、JR等交通機関との連携、自治体受託業務、オンライン診療、「終活日和」「空き家みまもりサービス」等、各地域の特性に応じたサービスを郵便局で提供する試行を進めている。
例えば、JR東日本グループとは、無人駅に郵便局を構えて、駅の業務を受託しての地域コミュニティーづくりに貢献、新幹線を利用した地場産品の「ゆうパック」輸送、多機能ロッカーによる「ゆうパック」受け取りサービス等がある。
また、「おたがいマーケット」は、山間地等でNPOなどと連携し、郵便車両の空きスペースに荷物を載せる「ぽすちょこ便」でネット注文を受けた商品を拠点まで運ぶ買い物支援だ。
このほか、集約化で集配スペースが空いた局でのコワーキングスペースとしての貸し出し、九州ではトランクルームを郵便局スペースに設置し、収益を得ている。
郵便局のオンライン診療も地域医療維持の観点で実証実験に協力している。同様のニーズがある地域に面的に広げることで、収益を積み上げていけるかが今後の課題だ。
地域の安全のための存在価値も
――グループのリアル×デジタル戦略も注目されています。
加藤副社長 これまでフェイス・トゥ・フェイスで行ってきた郵便局の窓口サービスを代替するものとして「リアル×デジタル」の両輪で進めなければならない。
その代表的な取り組みが「郵便局アプリ」「ゆうゆうポイント」や「ゆうちょ通帳アプリ」。「ゆうちょ通帳アプリ」はダウンロードするだけでなく、日常でひんぱんに使われるアプリに成長してきた。
「ゆうゆうポイント」は始まったばかりだが、来局だけでポイントを付与している。商品やサービス購入での付与やポイント利用は今後となるが、より広くポイントを入手し、かつ郵便局、グループ全体のサービスでポイントが使えるロイヤリティープログラムの形で発展させたい。
もう一つ、グループ全体でのデータ活用も「JPビジョン2025+」のDX戦略の柱に掲げている。
顧客情報のデータは各社が持ち、郵便局では委託業務ごとの目的で縦割りで使うこととなっていたが、非公開金融情報を含め、郵便局のお客さまに総合的なコンサルティングサービスを提供するためには、委託業務の目的の範囲だけしか使えないようでは、お客さまの利便性も滞る。
グループでの共同利用のメリットをご説明し、いわゆるクロスセルに同意いただいたお客さまの情報を、システムで簡単に確認・検索できるシステムを構築し、郵便局のさまざまなサービスの提案や、住所変更等のサービスをワンストップ化できるように改善していきたい。
例えば、「e転居」を郵便局に届け出された情報をグループで共有すれば、各社の住所変更もワンストップでできる。
グループ顧客基盤データベースを、フロントラインが営業活動やサービスを提供しやすくなるように今、日本郵政が構築するプロジェクトで進めている。
――4月から最終年度に入る「JPビジョン2025+」の進捗状況は。
加藤副社長 もともとの中計を昨年5月に見直した「JPビジョン2025+」では、25年度のグループ連結利益目標を3600億円と上方修正した。今年度の中間、第3四半期決算も順調に進んでいる。
成長分野の一つに位置付けている物流は、競合企業との価格攻勢の中で計画に比べて芳しくない一方で、郵便料金値上げによる年賀はがき減もある中、収益は若干上向いた。
窓口事業は経費が計画より少なかったことと、一時払終身保険の手数料が増えたことにより、計画よりもプラス。ゆうちょ銀行、かんぽ生命を含めて財務は全体的に順調だ。
ゆうちょ銀行は「ゆうちょ通帳アプリ」が24年9月時点で1200万口座と勢いよく伸びている。リアル接点との結び付きは課題だが、「郵便局でこんなキャンペーンをやっています」といった広告配信を出すなど、リアルとのシナジーの確保も行われている。
かんぽ生命では、請求手続き等の契約者代理の新制度も導入し、お客さま利便性の向上を強めている。
不動産は5大物件のJPタワー大阪や麻布台の大規模案件が24年度で竣工し、オフィスの入居も順調で、計画以上に賃料収入が増えた。社宅跡地を分譲マンションとして建て替え、売却する地域も鹿児島県等で進み、収益が増えている。
人的経営では、従業員価値の向上を掲げ、離島や山間地等の人員確保が難しい地域では日本郵便からだけでなく、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の社員からの公募制度も初めてスタートし、グループで最適な人員配置を目指していく。