インタビュー 一木美穂 日本郵政常務執行役・日本郵便常務執行役員
日本郵便の女性活躍室(現・ダイバーシティ戦略室)室長を約2014(平成26)~17年の約2年半務めていた一木美穂常務執行役員(日本郵政常務執行役)は郵便局改革推進室(現・改革推進部)室長も歴任された眼から現在、「CX戦略」や「お客さまサービス向上」等に携わられている。社会環境が急速に変化する中、今後の郵便局ビジネスの在り方とはどうあるべきだろうか。一木常務執行役員は「昨年度実施した調査で『サステナビリティ意識の高い層と郵便局ファンの層に相関性がある』との非常に興味深い結果が得られた。郵便局ビジネスも収益面で成り立たなければ持続できないが、その中で社会貢献を軸としたサービス展開も期待できるのでは」と語る。
郵便局に求められる社会貢献ビジネス
――これまでのご経験から女性社員の方々をはじめ、全社員の活躍に向けて現時点の会社の想いと今後の展望をお聞かせください。
一木常務 女性社員が何かしら悩みにぶつかった時、男性の上司に相談できないわけではないが、同性である女性の上司がいてくれた方が、女性特有の悩み等は相談しやすい。
多様な人材が力を発揮できる職場にすることが会社の成長のためには非常に大切。相談できる上司の選択肢が幅広いことは職場の豊かさに直結する。
勤務時間に制約を持つ社員を含めた多様性を受け止め、女性も、男性も、皆が生き生きと働ける職場にすることで、「働き方改革による人手不足への対応」と「会社の成長の実現」いう二つの課題に取り組んでいきたい。
女性に限らず、社員全員が自信を持って管理者へのステップを歩めるようにしたい。
管理者になる手前の役職者を対象とした研修や動機付けのワン・オン・ワンの対話の機会も、会社は力を入れている。さらに進めてまいりたい。
――来局者の男女比や年代比率は都市部と過疎地は違いますか。郵便局の魅力を引き出すには女性の目線も大切に思えます。
一木常務 局窓口の来客状況の抽出調査によると、お客さまの男性と女性の比率は3対7。年齢層が高い方の利用率が高く、都市部と地方部で傾向に大差はなかった。
来局者数は2007(平成19)年の民営化時と比べて減少している。社会全体でデジタル化が進む中、日本郵政グループもデジタルサービスに力を入れている。
リアルが強みの郵便局だが、リアルか、デジタルか、の2項対立でなく、相乗効果でお客さまとの接点を増やすことが大事。
利便性の高い郵便局の姿とはデジタルがリアルを補完する形でなく、デジタルの使い勝手を良くすることでリアルの利用も増やす。双方とも真剣に取り組まなければならない。
――局窓口で販売される商品はかわいいものも多いですが、比較的価格帯が高く、コンビニ等あらゆる店舗がひしめく都市部では、売れにくいように思えます。
一木常務 コンビニ等の商品以上の魅力があれば、少し高くても郵便局で購入したくなる。そうした魅力が何かを探る時、女性社員の細やかな気づきをヒントに改良を積み重ねることは、郵便局ファンを増やす要素につながる。
価格帯を含めて、忌憚のない意見を言える場をつくることが大事と思っている。
――女性社員の意見をどのように吸い上げていらっしゃいますか。
一木常務 女性活躍室の新設当初は、意識的に女性社員のフォーラム等を開催し、女性社員からの意見を担当部署に伝えて実現に向けて検討していたが、女性に限らず男性社員も参加する方がよい、との意見が参加した女性社員から出て、若手社員等、さまざまな階層の声を引き出す場へと徐々に発展していった。
日本郵便は千田社長になられてから、目安箱や声を上げやすい場も創っていただいた。引き続き、力を入れていかなければいけないと思う。
100%声を実現するのは難しいが、声を上げれば会社が変わるという手応えを実感できるよう、さまざまな切り口で実行することが大事だと思う。
〝共創〟で全ての力を柔軟に生かす
――郵便局と地域金融機関との共創する事例をお教えください。また、地域金融以外で金融機関との共創はどのような状況ですか。
一木常務 地域金融機関のATMの郵便局内設置や共同窓口が徐々に広がり、地域金融機関さまからもお問い合わせをいただいている。どのような連携ができるかは各地域の置かれている状況次第。
実はATMを局に設置した地域金融機関第1号が宮崎銀行だが、同時期に当時の日本郵便女性活躍室で、宮崎銀行との女性異業種交流会を企画した。さまざまな信頼関係構築を経て新たな連携が実現できた。
宮崎銀行もエリアごとに見れば女性管理者は少なく、女性社員のネットワークで互いに刺激を受けられる交流会は非常に貴重とのお話もいただいた。郵便局側も状況は同じで、多くの気づきを得られ、互いに励まし合うネットワークづくりは意義深いものとなった。
アフラックさまとの間でも、女性社員交流会を一部支社管内でスタートさせ、今は全国規模に広げている。私が支社長だった時、南関東支社管内では、女性社員だけでなく、男性社員も参加する異業種交流会に発展させた。
交流前は「アフラックさまと郵便局とは置かれている環境が違う」と言っていた社員の皆さんが、交流会で話し合ってみると、「驚くほど共通する悩み等があった!」と「自分事」に捉え、理解し合える息吹が生まれるメリットがあった。
――外国人や障がい者など幅広い雇用を進めるダイバーシティ経営のために、何が今一番課題になっていますか。
一木常務 育成した社員が適材適所で活躍し、納得できる評価をしていくことが、持続的なダイバーシティを進める上では重要。ところが、評価側が自分の成功体験のみの偏った物差しで評価してしまうと多様性が認められない。
評価の納得感のために管理者層の意識を変え、マネジメントレベルを上げることが大切。若手社員の動機づけや育成は大事だが、セットで管理者層もマネジメント面で成長しなければいけない。皆が共々に成長して、初めて両輪を回せる。
――郵便局の社会貢献とビジネスの両立について。
一木常務 社会貢献とビジネスは、公共性と収益性という2項対立で語られがちだが、両立できる部分があると考える。
私は現在、CXを担当し、お客さま満足の推進に取り組んでいるが、昨年度実施した調査で「サステナビリティに意識の高い層と郵便局ファンの層に相関性がある」との非常に興味深い結果が得られた。社会貢献分野と郵便局ビジネスとの重なる部分を模索することが、これからの郵便局サービスを考える上で有効だ。
お客さま個々の社会貢献への想いを郵便局サービスに織り込むために、どのようなことができるか、お客さまの声もしっかりと伺いながらチャレンジしたい。
郵便局ビジネスも収益面で成り立たなければ持続できないが、その中で社会貢献を軸としたサービス展開も期待できるのではないか。
現行の中期経営計画にも共創プラットフォームが掲げられているが、他プレーヤーにメインサービスを委ね、郵便局が関わるやり方もあれば、主体的に郵便局がサービス提供できる形もある。
さまざまな目線で郵便局、日本郵政グループの強みを生かし、持続的かつ社会貢献に資するようなビジネスをさらに生み出していけるとよいと思う。