ゆうちょ「Σビジネス」 共創企業掘り起こす

2023.07.18

 地域創生に向けた資金好循環を促す仕組みを構築することで、地域から日本経済を底上げするゆうちょ銀行の「Σ(総和)ビジネス」が勢いをもって進み始めた。同行がGP(ファンド運営に無限責任を持つ主体者)となって地域金融と連携し、社会貢献性の高い優良なスタートアップ企業等への出資や支援を通じ、多様な事業者との共創プラットフォームを構築。郵便局ネットワークの力を活用するために、13エリア本部と13支社の連携も強化することで、全国各地域の眠れる企業を掘り起こす。

地方創生資金の好循環を 支社とも連携

 ゆうちょ銀行が2026(令和8)年度からの次期中期経営計画で収益基盤の柱の一つに位置付ける「Σビジネス」は、24年9月末までに、①GP業務の本格化②投資先のマーケティング支援③投資先のソーシング・発掘――の3本柱で基盤を整備する。
 すでにGP業務の実績として、今年1~2月に福岡銀行、横浜銀行と共に地域企業のコンサル・事業再生・M&Aを手掛ける「フロンティア・キャピタル」に出資。今後、共同でGP会社を立ち上げる。また、子会社「JPインベストメント」で組成した地域・インパクトファンドを、介護リハビリ支援ソフトを提供する「Rehab for JAPAN」、タクシー配車システム等のソリューションを業務とする「電脳交通」に投資した。
 観光産業を軸とした「まちおこし」に強みを持つPROSPER社とPlan・Do・See社が組成するファンドに出資。積極的なハンズオン支援を通じて、地域活性化への貢献を目指す。
 事業再生投資会社やベンチャー投資会社も共同で創設するほか、販路開拓や商品開発、販促マーケティング、ESG関連投資などパートナーと多様な創設を検討する。
 ゆうちょ銀行はマーケティング支援の人財育成に向けて、4月にエリア社員10名を本社に異動し、OJT研修を実施。地域密着性を高めるためにエリア本部約800名、50拠点に1500名の社員を配置している。
 Σビジネスの教科書も、エリア本部長や店長、法人営業社員用150㌻版、全社員向け30数㌻版、10㌻ほどの対外配布版の3種を作成。法人営業データプラットフォームの構築は、ソリューションを提供する複数企業と導入を検討。音声AIアプリを使用したスマホでの音声データ入力も試行している。

池田社長
 5月31日開催の「ゆうちょシンポジウム」で池田憲人社長は「国内向けGP業務関連の投資額は、今中計末の26年3月までに1000億円を目指す。将来はプライベートエクイティ(会社の将来性等の評価のもとで新株式を発行し、出資)拡大に貢献を果たすため、1兆円まで積み上げる」と意欲を示した。
 
大西社長(左)と松岡代表取締役
 フロンティア・キャピタルの大西正一郎代表取締役社長CEO兼COOと松岡真宏代表取締役は「地方創生のファンドは3~5年では十分ではない。最大10年ほどで地域の企業育成を考えている」と強調。
 
立花社長(左)とPlan・Do・See社の三原直取締役
 PROSPER社の立花陽三社長は「楽天イーグルス社長として約10年間、東北中心に生活し、地方課題を実感した。Plan・Do・See社と共に日本を元気にしたい」と語った。

 (以下、記者団の質問)

 ――現状の投資環境と国内のエクイティな資金需要について。
 池田社長 当行の強みは全国ネットワークと、多額の貯金と口座数。3月末のバランスシートは68兆円の資金が眠る。日本にプラスになるよう努力しなければいけない。

 ――地域金融機関との関わりは。

 池田社長 地銀約100、信金約250、信組約150の計約500の地域金融と連携する地ならしとして、これまで45件の地域活性化ファンドに対して総額100億円強の与信を実施。地銀の方々が即チャレンジングな資金を出すのはちゅうちょされるため、「ご一緒に」と地域金融と情報交換を進めている。

 ――ゆうちょ13エリア本部と日本郵便13支社との連携は。Σビジネス教科書は郵便局にも配布されますか。(郵湧新報)
 池田社長 単体で動いても地方創生はかなわない。地域金融のお力も借り、眠れる企業の掘り起こしが重要。13支社とエリア本部はほぼ同じ場所にある。
 3月以前に熊本に行って、前豊田康光九州支社長(現ゆうちょ銀行執行役)に「いかに新事業を掘り起こすかを考えてほしい」と言った。支社の方々とも融合し、郵便局の意向を聞いて進めたい。教科書は配布したい。