続・続 郵便局ネットワークの将来像㉖
デジタル社会が進む中で活用が難しいと思われていたものが生きてくることがある。再生可能エネルギーもその一つ。約2万4000の郵便局ネットワークを地域の企業や自治体等と〝共創〟のもと、電力需給を制御するデジタル技術と結び付ければ、思わぬ展開が広がる可能性が出てきた。(上の写真は神奈川県港南局)
進む共創プラットフォーム
福島県東部地区連絡会の髙橋圭二統括局長(鹿島)は「東日本大震災時に鹿島局は放射線情報の起点にもなった。住民の方々はどのくらいの放射線が出て、買い物はどこならできるのか、不安もひとしおだった。このため、市役所からもらった情報を局前に貼り出し、周知した。災害情報拠点としても郵便局は役立つ。今は周辺に医療機関がないため、年配の方は住みづらく、若い世代は子育てするのに放射線が気になるなど複合的な問題が重なり、帰還が進まないのが実態」と話す。(下の写真は11年ぶりに開局した福島県大熊局)
重厚なユニバーサルサービス
郵便局はユニバーサルサービスという尊く、重厚な使命を担っている。震災当時、放射線が不安な中でも局長の方たちは、がれきの片付けに黙々と精を出した。社員の方もマスクをしながら郵便や荷物を届けた。
髙橋局長は決して反原発派ではない。「原発がなくなると産業に大きな影響が出てしまう。自然エネルギーといっても、まだそこまでは行っていないと思う」とも語る。
住んでいなければ他人事で忘れ去られていくかもしれないが、昨年4月の大熊町での取材時に、町に人の気配が少なく寂しげな空気に、福島だけの問題でないことを肌で感じた。ウクライナとロシアの戦禍の中でも、原発が標的にされたことは記憶に新しい。
旧科学技術庁が日本原子力産業会議に調査を委託し、1960(昭和35)年に取りまとめた文書「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」には、当時の政府が、原発事故が起きた際の損害賠償を世界一の保険会社、英ロイズ社に依頼し、断られたために日本の保険会社が賠償額を支払えるかどうかの調査を委託し、その結果が示されている。
試算では、被害が中国や韓国、ロシアまで莫大なものに及び、損害額が当時の国家予算の約2倍と支払い不可能な数字が示されたため、文書は極秘扱いにされていた。16㌗の小型原発から2%の放射線が漏れた際の人的、物的災害合わせて損害額は3.7兆円(現在では約100兆円超)。被害者の試算は健康成人の急性障害のみで、晩発性のがんや白血病、子どもは含まれていない。文書にデータは過小評価と記されている。
郵便局ネットワーク エコして稼ぐ一手も
IEA(国際エネルギー機関)は、2050年カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー88%(水素含むと90%)、太陽光と風力で70%と世界の発電量の構成比として打ち出し、G7合意のもとで進んでいる。
太陽光や風力は不安定と考えられ、日本では基幹エネルギーに位置付けられてこなかったが、変動するのは需要も同じ。天気予測技術が進み、「変化するが予測可能」と再エネは海外では大きく拡大している。
ドイツは今年4月15日、再エネ100%に踏み切った。一方、日本では関西電力送配電が6月3日、再生可能エネルギー拡大に向けた「出力制御」の実施を発表。東京電力管内以外の全てで出力制御が行われている。
再エネではないが、日本郵便も昨年7~9月まで東京大学発のスタートアップ企業㈱Yanekaraと、集配用EV車充電を電力がひっ迫する夕刻から夜間時間帯にシフトする実証実験を東京・晴海局で行っている。
2025(令和7)年度までに二輪2万8000台(約40%)、四輪1万3500台(約50%)の目標を掲げ、EV化を先導する中、既設の充電コンセントに差し込むだけで電力需給を調整できる「YaneCube」を活用(写真下)。電力オフピークによる需給平準化に伴い、年間約57万円の電力料金を抑える一石二鳥策を広げ、社会貢献と持続可能な企業としての成長を目指している。
産業技術総合研究所の歌川学主任研究員は「前日の需給予測を活用し、明日は晴れで昼間に電力が余る予測が出た際に、夕方や夜の需要を大口需要家は事前にシフト対象設備を準備し、アグリゲータ(電力需給バランスを調整する司令塔)も活用し、計画的に昼間にシフト。小口需要家はEV充電・ヒートポンプ給湯器蓄熱時間など機器のプログラムで自動的に昼間にシフトすると、さらに再エネ割合を増やし、有効に使える」と指摘する。
病院やホテル、旅館など夜の電力需要が高い業種は、太陽光の自家消費分を賄える割合は低い可能性があるが、郵便局やオフィス、一般家庭など昼間の電力需要が高い場では、売電でなく自家消費の活用は電気料金が高騰した今、かなりお得になるようだ。
歌川氏は「事業者向け小売電力が㌗時約30円に高騰する一方、太陽光を事業所の屋根等に設置して自家消費すれば㌗時平均約15円、コストを吟味すればさらに下がる可能性があり、購入電力の半額未満。条件に合う事業所は緊急に検討すべきだ」と強調する。
日本郵便の「+エコ郵便局(環境配慮型郵便局)」も地域性に応じた形で徐々に増えている(写真は+エコ郵便局の福岡県宗像東郷局)。直近は今年2月に開局した北海道の当麻局(太田英樹局長)は積雪期も発電が可能な壁面設置型の太陽光発電設備を導入、3月の宮城県仙台生出局(阿部弘局長)含めて「+エコ郵便局」は8局となった。
蓄電池のコストは高いが、EVは動く蓄電池としても活用できる。EVや太陽光発電など蓄電と電力の需給をコントロールする技術やシステムに投資し、〝共創〟のもとで地域のエネルギーを制す仕組みを作れば、将来の自動運転車や買い物支援サービスやデリバリー、災害時の電力源等々さまざまな活用との連携が期待できる可能性が広がっている。(下の写真は配送ロボット「デリロ」)