続・続 郵便局ネットワークの将来像⑳

2022.12.19

 愛媛県宇和島市で始まった「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス」と、郵便局として全国初の「タブレット事業を活用した遠隔医療支援」の合わせ技。慢性疾患のある高齢者の方にスマートスピーカー(アマゾンエコー)で健康状態を把握し、タブレットを活用したオンライン診療やオンライン服薬指導サポート・処方箋配達は、郵便局の「まちの保健室」ともつながりそうだが、そもそも市では何が起きていたのだろうか(写真は左から岩村課長、清家局長、太田課長)。

高齢化のスピード感 〝共創〟なくば追い付けない

 「以前から清家郵便局長はじめ局長さん方から『スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス』を紹介いただいていたが、それだけでは食らい付いていけなかった。今回、遠隔医療と合わせ技にすることで、みまもりもやっていただけることになった」と喜びを見せるのは、宇和島市保健福祉部高齢者福祉課の岩村正裕課長だ。
 市役所は地域包括支援センターも兼ねており、岩村課長はセンター所長を兼務するが、市民の遠方に住む家族の方から「親が電話の受け答えが少しおかしい」等々の電話やメールが来ても、対応するセンターは市内に1カ所。相談を受けても一人一人訪問するには限界が出始めていたという。

郵便局、〝困り事窓口〟の拠点に
 岩村課長は「市の高齢化率は40.3%。若者も戻らない中、郵便局や民間企業の方々と社会課題を解決するために一緒に対応しなければ高齢化のスピードに間に合わない。地方都市はそうした問題ばかり。郵便局は市内の各所にスポットとしてあるため、理想は小さな〝困り事窓口〟の拠点になっていただくこと。それが一番」と強調する。
 なぜ、市は遠隔医療の仕組みも作りたかったのだろう。市には九島、嘉島、日振島、竹ケ島、戸島の五つの有人島がある。医療体制は市内の病院や医院のほか、5島含めて6診療所を3人の医師でカバーしていたが、昨秋、戸島診療所の医師が退職したことを契機に戸島には医師が不在になったため、住民の方々が自治会を通し、市に医師派遣を要望した。

スマートスピーカーが設置される戸島診療所の先生と事務の方々
 市の保険健康課の太田康博課長補佐は「離島の医師確保、招へいは市にとって大変な作業。みとりや救急患者は医師がいなければならないが、初診を終えた慢性疾患等の患者さんや市民の健康維持のために、医師を補完する形でオンライン診療はできた方がよいとの案が浮上した」と明かす。
 そうした経緯もあって、郵便局はみまもりと遠隔医療の両方をサポートすることになった。オンライン診療やオンライン処方は市が独自に構築していた「みさいやネット」(セキュリティーを担保した情報共有システム)のもと活用するタブレットを局長や社員が持って、スマートスピーカーが設置された高齢者宅を訪問するパターンと、もう一つのパターンとして離島の戸島診療所にもスマートスピーカーが設置される。

戸島診療所
 岩村課長は「75歳ぐらいまではデジタル機器を一定程度理解されるが、それ以上の方はなかなか厳しい。局長や社員の方たちに、各家庭に出向いて高齢者の方と医師にタブレットでつないでいただく際に『スマートスピーカーの操作で分からないことがあったら聞いてくださいね』とフォローを願いたい」と期待を寄せる。
 愛媛県南予地区連絡会の清家裕二統括局長(宇和海)は「市が一般財源でスマートスピーカーを多数購入するのは厳しい中で、〝デジタル田園都市国家推進交付金〟という有利な補助財源があると知り、市にお願いに行ったところ、市が申請を出され、採択された。みまもりニーズは高まっているが、住民の方々は新しいサービスを知らないため、アピールにも力を入れたい」と意欲を示す。

    吉田局長
 戸島診療所から徒歩1分の場所にある戸島局の吉田昌央局長は「医師の方が戸島に不在だった時期は80代の親含めて夜中に島民のどなたかが具合が悪くなったら、と心配だった。市は今年11月から再び診療所に医師を派遣してくれたが、医師不在時に薬の処方程度で片道1640円、30~50分かけて宇和島まで行くのは大変だ。救急患者やみとりは医師にいてもらわないと絶対に困るが、補完する形で市民の方の健康維持の手伝いをオンライン診療でできるのはよいと思う」と話す。

 約200人超が暮らす戸島にはスーパーも地元商店もない。吉田局長は「金融機関は漁協がメインで郵便局と農協があるが、人口減少に伴って、ここ2~3年はお客さまが減った。農協は金融窓口を撤退し、食料品店舗のみ人員を配置し、車で買い物サービスも行っている。住民の方々はそこで購入したり、船で市内に買い出しに行ったり、週1回訪れる生協に紙で注文書を出している。
 金融も昔は郵便局が貯蓄、農協が年金というすみ分けがあったが、崩れてきた。郵便局と農協が連携し、金融窓口や買い物サービスをビジネスとして担うことができればありがたい」と切実な思いも語る。