続・続 郵便局ネットワークの将来像⑧
総務省の「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」の初会合で自治体としては唯一、山本龍市長が構成員としてプレゼンテーションを行った前橋市。同市はデジタル化を進め、ゆとりを生み出すことで一人一人が人間らしく生きる「スーパーシティ×スローシティ」を掲げ、多くの規制を一元的・先行的に撤廃し、未来を実装する政府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に応募中だ。
構想の核は市内全46局が申請支援に深く関わってきたマイナンバーカードと、民間の電子証明書をひも付ける「まえばしID」。マイナカードにおける郵便局と自治体の〝共創〟はどのような可能性を秘めているのだろうか。大野誠司副市長にその可能性について伺った。
温かなまちづくりの肝は「まえばしID」
内閣府が主導する「スーパーシティ型国家戦略特別区域」は、さまざまなデータやデジタルを使い、2030(令和12)年頃の社会を一部地域で先行して実装するもの。これまでの特区と異なるのは、あらゆる規制を短冊状の個別検証でなく、まちづくりと規制改革を一気通貫し、未来像を作る点。
4月に応募した31自治体に8月、政府から①さらに大胆な規制改革②プラットフォーム志向――の2点が注文され、前橋市含む28自治体は締め切りの10月15日に再提案した。
大野副市長は「前橋の提案のコンセプトは『スーパーシティ×スローシティ』。デジタル化を進める意義とは、デジタル活用で時間と心にゆとりを生み、多様な暮らしや新たな価値の芽吹きを実現する。面倒な仕事はコンピューターに任せ、得た時間で〝質〟の高い仕事や、価値向上に振り向ける。デジタル10%でアナログが90%だったものを逆転できれば、市の職員はもっと地域に出て市民に寄り添える。地域のお一人お一人に濃い時間をデジタルで作る。地域回帰をどんどん進めていけば、拠点としての郵便局がさらに注目されるのではないか」と語る。
「スーパーシティ×スローシティ」の肝は、マイナンバーカードを軸とする「まえばしID」。行政手続中心のマイナカードと、商取引等で使われる民間の電子証明書をひも付けし、顔認証も含めて一体的に「まえばしID」として使えるようにしたい。
例えば、バス乗車時に顔認証で市民割引、安価な決済などはスマホで民間の電子証明書で、厳格な行政手続きはマイナカードで、と求められる認証強度に応じて一体として使用できるのが「まえばしID」。教育等も、交通も、医療や健康も分かりやすく自分の情報を自分で管理でき、スマホで完結する生活が生まれる。
ただし、「まえばしID」にはマイナカードが前提となるため、マイナカードの一層の普及促進も重要。現在、マイナカード申請は①事前に電子申請し、市役所に出向き、本人確認のもと受け取る「受取時来庁方式」②市職員が公民館や企業に出向き、本人確認して申請を受け付け、カードを本人限定郵便で自宅に郵送する「申請時来庁方式」「出張申請方式」――の二つ。
申請そのものが郵便局でできるわけではないが、前橋市内全46局は2017(平成29)年から全国に先駆けて電子申請に協力してきた。申請時に局長が写真を撮り、専用端末で申請をサポートする。申請支援はその後、栃木県小山市内局、埼玉県さいたま市内局、千葉県四街道市内局、山梨県甲府市内局、滋賀県甲賀市内局、奈良県生駒市内局、兵庫県神戸市内局、熊本県南関町内局、奈良県桜井市内局などに広がり、すでに約15自治体内の郵便局が取り組んでいる。
石井祐之局長(前橋平和)は「局には、休日に散歩がてらに申請支援の申し込みにご夫婦で立ち寄られる方も多い。奥さまは普段から来られていて、ご主人は申請のために初めて局に足を運ばれる方もいらっしゃる」と話す。
マイナンバーカード〝拠点〟を郵便局に!
山本前橋市長は「今、郵便局でやっているのは申請の支援だが、仮に郵便局で本人確認ができ、情報を国に送る仕組みができれば、市から本人限定郵便を郵送することで完結できる。郵便局で申請受付そのものができればマイナカードの取得率も高まる。郵便局職員を公務員とみなす『みなし作戦』ができないか」と言う。
大野副市長も「マイナカード申請そのものを郵便局でできるようになると、〝まえばしID〟のひも付けなどのスーパーシティに係る一体的な業務も郵便局に委託できる。スマホに組み込まれれば、カード取得者は飛躍的に便利になる。国も積極的に進めているが、基礎自治体としてもう一歩進めたい。例えば、マイナカードと交通系ICカードをひも付けた市民割引があるが、駅まで行かなくても近くの郵便局でひも付けができたり、血圧計を局に置いて、貯金を引き出すついでにピッとかざして健康ポイントを貯めることもできるかもしれない。マイナカードが郵便局のさまざまなデジタル活動や社会のデジタル化の入り口になる」と指摘する。
郵便局で申請そのものを
まだ一部の病院しか使えないが、10月20日からマイナカードの健康保険証活用も始まった。2024(令和6)年末までに運転免許証とも一体化される。カードではないが、金融庁とデジタル庁は預金口座にマイナンバーを登録して公的給付金の受け取りを円滑にする制度に向けて、金融機関向けガイドラインを策定すると報じられた。国のマイナカード普及率は10月1日時点で38・4%だが、社会は今、音を立てるように激しく変化している。
4年前、マイナカード申請支援の端末を一部局でなく、市内全局に置くべきと市に掛け合った群馬中部地区連絡会( 黒岩伸一統括局長 /草津)の竹越義浩局長(前橋田口)は「あちらの局に行けばできて、こちらの局ではできないというのでは広がらない。今後も、地域の方々が幸せになれるか否かを焦点に、市とウィンウィンになる取り組みを皆で進めたい。固定観念を排し、ゼロベースで考えてこそ新たなまちづくりに役立っていける」と強調する。