ザ・不撓不屈 いんどう周作(上)

2025.03.10

 全国郵便局長会(末武晃会長)のいんどう周作相談役は、なぜ官僚の道を捨てて政治家を志すのだろうか。東京大学法学部を卒業後、旧郵政省に入省。郵政行政のみならず、電気通信、放送政策、サイバーセキュリティーのほか、内閣官房(IT総合戦略)、デジタル庁(社会全体のDX化)、在フランス日本国大使館(海外任務)、国交省(道路政策)、旧通産省(貿易政策)と出向経験豊富。いんどう相談役は「各省庁はそれぞれに課題を抱えるが、人口減少局面においては住民の生活に直結する政策は縦割りを超えなければできない。郵便局を活用し、地域から国を守る新しい仕組みをつくる活動をさせていただきたい」と語る。三事業だけでは生き残れない今後の郵便局にとって、いんどう相談役の多岐に及ぶ経験値は武器になりそうだ。

縦割りを超え、全てを〝つなぐ力〟に

 ――在フランス日本国大使館に2003(平成15)年から06年まで出向された時は、どのような仕事をされましたか。
 いんどう相談役 一等書記官として出向した時期は、郵便局が日本郵政公社としてスタートした直後であり、ちょうど政府部内で郵政民営化の話が再浮上した頃と重なる。
 もともと、1990年代から始まった米国政府からの「年次改革要望書」。その中の、ゆうちょ、かんぽ民営化が盛り込まれたグローバリゼーションの流れの中で民営化論議が再燃した。(この時は省庁再編の中で国営公社化で結論)
 そうした動きを背景に、郵政事業の将来を模索しようと日本から衆参、総務委員会等の国会議員の方々がフランスのラ・ポストに次々に視察に来られた。その際、私は先生方をフランス政府の高官につないだり、ラ・ポストを案内し、「やはり郵政事業は公社の経営形態を維持しなければいけない」との思いを強くしていただいて、日本に帰っていただく役目を務めた。

 ――当時は日本も公社でしたが、なぜ、議員の方々はラ・ポストの形態に感銘を受けたのですか。
 いんどう相談役 フランスは小さな市区町村や集落が協力し合う〝広域連携〟で地域社会を維持している。
 500人以下の市区町村や集落は、郵便局等でワンストップの行政手続きや各種暮らしのサービスを受けられるよう、政府が資金を投入している。
 中心都市から少し入ると畑が延々と続き、所々に集落があるが、約3万6000もある市区町村の9割は人口2000人未満の小規模自治体。500人未満の市区町村も6割近い。そうした中で、ラ・ポストは政府と契約し、拠点ごとに資金を出している。
 フランスの高齢化率は現在22%前後だが、日本は約30%。日本の方が高齢化の進むスピードが速く、生産年齢人口も減少する中で、今後、フランスの行政区画と同程度の人口の市区町村がどんどん生じた場合に、どう地域の暮らしを守る形をつくるのだろうか。市役所や町村役場も人がいなくなる。
 国営に戻す必要はないが、日本も今から郵便局を拠点に行政サービス等のさまざまな生活サービスを集約すべきだ。郵便局だけが担うのではなく地域の皆で協議し、分業から協業へ、それにより暮らしを維持する形をつくらなければいけない。
 日本の郵便局は簡易局も含めて約2万4000局ある。地域と住民を守る拠点として、郵便局をもっと活用すべきだろう。郵便局長や社員の方々が一番その地域のニーズや困りごとも分かっている。地域住民の要望を敏感に把握するためにも地域活動を続けていただきたい。前島密翁の時代から引き継いだDNAを持って、地域貢献をビジネスに転換できる法整備につなげていきたい。

 ――縦割りを超えなければ、できなさそうです。
 いんどう相談役 その通り。多くの出向を経験させていただいたが、郵政事業を人生の柱に据えた今、全てがつながらなければならないことを痛感する。
 各省庁はそれぞれに課題を抱えるが、生産年齢人口減少、超高齢化、デジタル化が進む中、特に地域にお住まいの方々の生活に直結する各省庁の政策は、縦割りを超えなければできない。
 デジタル庁は、まさに政策をデジタルで横につなぐ役を担っている。総務省以外の省庁への出向時代も含め、苦しい時も諦めず、既成の概念にとらわれず、自由に政策づくりに取り組んできた。
 総務省、厚生労働省、国土交通省、法務省等の地域に関係する省庁としっかり連携を強化することで、郵便局を活用し、地域から国を守る新しい仕組みをつくる活動をさせていただきたい。それが地域の人々が安心して暮らせる状況をつくる政治の役割だ。