インタビュー 豊田康光九州支社長(執行役員)

2022.02.13

 コロナを発端に時代が大きく変わろうとする中、あらゆる場所にビジネスチャンスは潜む。豊田康光九州支社長(執行役員)は「自治財政を潤わせる貢献が一番喜ばれるはず。地域産業を盛り上げることを郵便局がビジネスとして手伝う方が早く広がると思う」と語る。ゆうちょ銀行出身の豊田支社長は「三事業のお客さまが一人も来なくなってしまえば、健全経営が維持できず、社会貢献もできなくなる。本業を頑張った上で強固な〝共創プラットフォーム〟を共に築き上げていきたい」と改めて本業の重要性を指摘する。

自治体財政を潤す産業支援も

 ――就任後のご感想や、改めてご抱負もお教えください。
 豊田支社長 局長も社員も皆さん本当に善良で真面目だなあと、それが一番の印象。九州は台風の通り道でもあり、災害も多いが、インフラは脆弱な印象。支社管内では昨年、コロナクラスターが発生し、佐賀県が大雨被害に見舞われた。九州に住むのが初めてだった私は焦ったが、社員は「昨年もありました」と平気な顔で、支社として5人1班の応援チームを15班まで準備し、スムーズにどんどん出動していった。その姿を目の当たりにし、危機に対する九州の人の耐性と誠意に感銘を受け、サポート体制の手厚さを頼もしく感じた。
 離島含めて九州は実に広大。全般的には温かみのある人柄が特徴の中、郵便局も皆、懸命にそれぞれの地域で頑張っている。

 ――自治体との連携等はどのような状況ですか。
 豊田支社長 昨年5月に熊本県の県南18市町村と広域包括連携協定を締結し、ふるさと小包をメニューに追加するところからスタートした。自治体のふるさと小包に特産品を入れて販売に貢献すれば、ゆうパック拡大にもつながる。コロナで延期を重ねてきたが、まもなく3月には「郵便局マルシェ」を開催する予定だ。自治体にとっては地元産品を生かし、自治財政を潤わせてくれる貢献が一番喜ばれると思う。
 地域経済活性化に貢献し、資金を好循環させるには、その地の産業、例えば、農業が盛んならば、特産品等と絡めて郵便局が農業を盛り上げることをビジネスとして手伝う。その上で行政事務も勧めた方が、むしろ早く広がっていくのではないだろうか。
 また、昨年8月には、福岡県嘉麻市と包括事務受託契約を締結し、証明書交付事務だけでなく、飼い犬登録や後期高齢者等業務も新たなメニューに加わったことで、郵便局の自治体事務利用者も増えている。
 昨年11月には、福岡県の筑豊地方を走る「平成筑豊鉄道」と協力協定を結んだ。どこのローカル線も人口減少で経営も大変だが、大切な地域に親しまれる足を応援しようと列車型ポストや記念のフレーム切手を地元局長の皆さん中心に作り上げた。

 福岡県内には食パンを販売して好評を博す郵便局や、奄美大島には手作り品で地域を喜ばせる局などそれぞれが個性を輝かせている。もちろん局での農作物販売も多い。それ自体が大きな収益にならなくても〝三事業の集客〟に役立つことが肝心だ。

改めて三事業を柱に据えた〝共創〟を

 ――新しい営業体制に向けて局窓口の準備はどのようにされていますか。
 豊田支社長 窓口社員にコンサルタントと同じ業務を同じレベルでやってほしいとは思っていない。九州支社では、そのことを比較的早い時点で明確に伝え、窓口現場の不安を解消するよう努めてきた。
 「新しい営業体制」とは、いろいろなデメリットを認識した上で、日本郵政グループが一体となって、かんぽ生命の立て直しを図るための経営判断。郵便局の金融営業は、窓口で売れる商品を窓口でも売れるやり方に方向転換するものだ。
 2000年代初頭に金融庁が「市場型間接金融」(投資家から集めた資金を金融仲介機関が流動化し、リスク・利益をリテールに帰属させる)、政府も「貯蓄から投資へ」と打ち出し、旗を振ってきたが、国民の意識はさほど変わらないまま時代が流れた。
 しかし、ここ1~2年で変化し、投資信託は信託報酬が安いものがつみたてNISAやiDeCoを活用されながら急速に伸びている。若者はネットから入る傾向にあるため、対面販売はハードルもあるが、チャンスがないわけではない。これから窓口で売る金融商品は〝売りやすい〟もの主体に切り替えていくべきだ。
 かんぽ生命が4月から販売する新商品は、競争力がある第三分野。コンサルタント中心に売っていくが、窓口でも販売できる。日本郵便とゆうちょ銀行、かんぽ生命、アフラック様との関係は良好で、月1回程意識合わせしている。
 金融営業は過渡期にあるが、金融庁の主張する「フィデューシャリー・デューティー」、いわゆる「お客さま本位」ができているかの判断は結局、商品が売れることで説明されると思っている。
 その意味で、貯金は増えているのだから、信頼を完全に失ったわけではない。自信を持ってお声掛けいただきたい。コンサルタントが行きづらい地域は、窓口の局周活動もできる範囲で検討する。

 ――人材育成はどのように取り組まれていらっしゃいますか。
 豊田支社長 2015(平成27)年11月の日本郵政グループ上場時に「一番の強みは何か」との質問に、経営陣は「顧客基盤」と答えていた。ゆうちょ口座数は約1億2000万口座、かんぽ契約数は昨年3月末時に約2300万契約、日本郵便のゆうパックとゆうパケットの取扱量は合計約10億個等々。それらをリピートしてもらえるよう「顧客基盤」をつなぎ止めてきたのは社員の真面目で誠実な社風にほかならない。
 お客さまがお金持ちだろうがなかろうが区別して扱われず誠実に応対する姿勢は、ユニバーサルサービスを担っている郵便局の持ち味だ。
 ある雑誌に、AIが発達しても看護師の方しかできないこととして、顔を見てほほ笑むことや患者さんの背中をさすることなどに大きな価値があると書いてあった。こうした〝リアル〟な価値は郵便局にも通ずる。
 もちろん、さまざまな研修にも取り組んでいるが、社風は研修で培われるものもあれば、日頃の業務で培われる部分もある。競争力を支えている文化を浸透させ、維持することも長期の人材育成と考えている。

 ――郵便局ネットワークの価値を高めるにはどうすればよいとお考えですか。
 豊田支社長 郵便局の仕事は究極的には人助け以外の何ものでもないように思うこともある。ずっと昔から人助け、社会貢献を組織全体でやってきた企業性を持っている。それは素晴らしいことで誇りにすべきだが、もしも郵便・貯金・保険のお客さまが一人も来なくなってしまえば、健全経営が維持できず、社会貢献もできなくなる。
 コンビニも公共料金支払い等いろいろなサービスを提供している。全て黒字ではないと思うが、足を運べば何でもできる店舗を作り、集客につなげている。郵便局も同様にあくまで健全経営を目指していくべきだろう。
 郵政事業は151年の歴史の過程で艱難辛苦に見舞われながら、それを乗り越えて今に至っている。乗り越えてきた力の源泉は、局長や社員の善良で真面目な資質。善良さを維持し、顧客のために役立っていけば今後も乗り切っていける。
 ゼロ金利でも貯金が増えているのは非常にありがたく、我々も、局長さんも、郵便局も信頼を失っていない証拠だ。今こそ本業を同じ思いで頑張った上で強固な〝共創プラットフォーム〟を皆さんと共に築き上げていきたい。