社説 〝人〟を生かせる形に
日本郵政グループが2015(平成27)年11月に東京証券取引所に株式を上場してから、間もなく10年。上場時、当時の故西室泰三社長は「世界にもおそらく前例のなかった親子3社同時上場。郵便局は世界に冠たるネットワーク。それを本当の意味で活用することが大きな使命。郵便局ネットワークを起点に国民に役立つビジネスを展開することだ」と力強く東証の鐘を打ち鳴らしていた。
「前例のなかった親子同時上場」とは、他国の民営化された郵政事業とどう違うのかが気になるが、郵政民営化の先駆者として脚光を浴びたニュージーランドやドイツ、フランス、スイス、イタリアでも郵政事業は民営化しているにもかかわらず、株主は〝国〟。表向きは民間会社だが、株主が国であるなら実質は国有と同じだ。
日本の三社同時上場は日本郵政も、ゆうちょ銀行も、かんぽ生命も株主は〝個人〟。金融2社の親会社は日本郵政でありながら、ゆうちょ銀行やかんぽ生命は個人株主や監督官庁である金融庁の意向を最優先しなければならない難しい構図が潜んでいる。
また、金融2社は大半の商品を日本郵便に委託して販売するため、日本郵便は代理店的な位置付けだ。
郵便局の顧客ニーズを肌で感じる窓口現場の意見やアイデアは生かされにくく、株主総会で散見されるような個人株主の方の意見や金融庁の指示を最優先せざるをない。
表面上、三事業一体といっても、実態は疑問が残る。内心、多くの方が何ともいえない歯がゆさ、息苦しさを感じているのではないだろうか。やはり法制度をしっかりと変えていただきたい。
日本郵便(連結)の2026(令和8)年3月期第1四半期決算では、郵便・物流事業は増収増益だが、郵便局窓口事業は減収減益。人件費削減はずっと続いている。日本郵政の金融2社の持ち株比率も徐々に低くなる中、手数料減少もますます厳しくなっていく。
日本郵便、日本郵政グループの経営陣の方々もこの10年間、試行錯誤を繰り返されながら「世界に冠たる郵便局ネットワークを起点に国民に役立つビジネス展開」を意識し、努力されてこられたと思う。
しかし、デジタル化が進む社会の中、人材が減らされ、外にもなかなか出られない郵便局のままでは、せっかくの財産、〝人〟が生かしきれない。
こちらから出向ける形や、局内にもっと人が集まるコミュニティ・ハブとして、さらにはビジネスにもつなげるために何が必要なのか。そばにあるはずの郵便局を意味ある形にしていただきたい。地域社会はそこを求めている。