インタビュー 大野誠司 前橋市副市長

2022.03.03

 マイナンバーカードの申請支援に協力する郵便局は徐々に全国に広がってきたが、最も早く2017(平成29)年にスタートしたのは群馬県前橋市内全46局。大野誠司副市長は「市と市内全局は2013(平成25)年から定期的に連絡会を開催し、私が前回着任した16年には連携協定も締結。今や連携施策は10以上ある。総務省の『郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会』の構成員に山本龍市長が選任されたのも、地元局長の皆さんが市と良い関係を積み上げてきた結果と思う」と指摘。市は今、「まえばしID」を軸に、人に寄り添える地域回帰を目指す上で、郵便局とのさらなる連携深化を模索している。

郵便局とさらなる連携深化を

 ――山本市長は検討会で郵便局データ活用の可能性を提言される中、「移住・定住」「災害時の安否確認」に言及されていました。
 大野副市長 住民登録があっても、そこに住んでいるとは限らない。不明者の特定は非常に困難なことが、昨年に静岡県熱海市で起きた土砂災害での教訓だった。前橋市も生活保護支援や徴税業務、空き家対策等々さまざまな業務を行っているが、市が有する住民登録のデータ以上に、日々各戸へ配達する郵便局は居住状況を把握していると思う。
 検討会に向けて、郵便局の持つデータを市の活性化にどのように使えそうか、政策推進課を中心に庁内で議論した。空き家対策は、通行人に害を及ぼしかねない危険家屋と有効活用な空き家の2種類ある。後者の例えば古民家等は移住したい人にとっては魅力的で、借りたい人とマッチングできれば地域活性化につながる。
 前橋では、市が持つデータと民間のビッグデータを掛け合わせて研究も行っているが、本当に空き家か否かの判断には現地確認が必要で、推定精度の向上が現地確認の作業量削減につながる。「その家に郵便配達しているか、していないか」だけでも教えてもらえれば、より正確な推定ができる。

熱心に耳を傾ける山本市長(中央)

 ――前橋市はスーパーシティのみならず、スローシティも提唱されています。
 大野副市長 市民に寄り添うメッセージとして「スーパーシティ×スローシティ」を掲げた。国際的にスローシティを推進するチッタスロー協会に加入しているのは、国内では宮城県気仙沼市と前橋市のみ。デジタル活用により、人々に余裕が生まれ、スローシティが大事にしている多様な暮らしを実現する。多様な人がつながりながら、一生学び育ち、新たな価値とめぶくまち、それが「前橋めぶくグラウンド構想」。
 マイナンバーカード(以下、「マイナカード」)は、行政の基礎となる住民基本台帳の4情報(氏名/住所/性別/生年月日)に合わせて、本人を電子的に証明できる電子証明書を搭載したカード媒体。
 マイナカードは厳格な認証が求められる行政手続きを中心に活用されているが、スマホや生態認証と組み合わせて、より利便性が高く民間のサービスでも利用可能、スマホでも活用しやすい「まえばしID」を作ることで、人を中心とする個別最適化された社会構築を目指している。
 例えば、次世代を担う子どもたちの学育であれば、飛び級や逆に中学3年生が中学1年の苦手教科を学び直すなど、修得状況に応じた学ぶ機会の提供ができたり、交通分野であれば、自動運転やシェアサイクル、MaaSなどのデジタル技術と連携して、スマホをかざせば「〇〇さんですね。市民割引で乗れます」とか、自動運転バスも顔認証で乗れるなど公共交通の利便性が高まることで「車依存社会の〝縛り〟からの転換」を図ることができたり、さまざまな個別最適化されたサービスが実現できると考えている。
 マイナカードを持ち歩かなくても、スマホで活用できれば、飛躍的に利便性が向上する。国もマイナカード普及を積極的に進めているが、基礎自治体としては利用者目線の活用の提案をしたい。便利だと実感してもらった上で、その背景のさまざまな業務の「社会的コスト」も大幅に減らすことができると考えている。

前橋市は医療分野にマイナンバーカードをさらに生かすことも検討している

 ――郵便局はどのように関われるのですか。
 大野副市長 「まえばしID」はマイナカードを取得いただいた上で、IDを使うための設定をしなければならないので、IDを設定する拠点が市内に広くあることが大事。市内郵便局にもID設定の窓口にもなってもらいたいというのが一つ。
 また、山本市長は、スーパーシティ提案における規制緩和によって、郵便局でマイナカードの申請受付ができないかと構想している。マイナカードの申請方法には、事前に電子的に申請をし、市役所に受け取りに来た際に本人確認して渡す「受け取り時来庁方式」と、市職員が公民館等に出向いてその場で本人確認し、カードができた後に本人限定郵便で自宅に郵送する「申請時来庁方式(出張申請方式)」がある。
 山本市長が構想するのは後者。規制緩和によって、申請受付業務を郵便局に委託して市職員と同等の本人確認ができれば、市民は最寄りの郵便局で申請でき、本人限定郵便でマイナカードを受け取れるようになる。申請窓口が広がり、マイナカード普及は飛躍的に進む。
 「まえばしID」の設定も最寄りの郵便局でできれば、市民は助かり、市としてもスーパーシティに関わる一体的な業務も郵便局に委託できる可能性は広がる。

デジタルで進む〝地域回帰〟

 ――高齢化やコロナで医療との連携も気になります。
 大野副市長 医療・健康・福祉の分野では、一人一人の健康データの蓄積を通じて、未病と呼ばれる段階での生活指導が受けられるようになることも期待できる。例えば、郵便局が、健康データの入り口となって血圧を測り、健康データとAIで健康アドバイスを受けることができる拠点になることもできると思う。市民の方々に近い郵便局を社会のデジタル化の入り口と捉えることもできるのではないか。
 「スーパーシティ×スローシティ」では、事務作業や面倒な仕事をコンピューターに任せ、余裕を生み出すことで質感のある付加価値の高い仕事や家族との時間、さまざまな活動に振り向けられる。行政でも、市職員がこれまで事務作業に充てていた時間を市民に寄り添うために使えるようになる。
今は市役所本庁に職員が多く配置されているが、むしろ地域の拠点への配置に重点を置き、地域に根付いた活動をする〝地域回帰〟を進めて、寄り添う行政を実現していくことが必要だと思う。
 市役所の拠点の数は限られているが、市内に46局ある郵便局は、質感のあるサービスや地域活動の〝拠点〟になれる。地域活性化や市民の利便性向上の一端を担う「地域の拠点」としての郵便局に、さらに注目が集まるのではないか。