簡易保険チラシ「保険料の割引」 一橋大学 米山高生名誉教授 ⑫=完
2025.08.14
戦前の簡易保険の掛け金は月払いであった。当時の民保が年払いを原則としていたこととは対照的だった。簡易保険が小口の庶民向け貯蓄保険で出発したことから、月払いは当然のことだった。
郵便局ネットワーク利用のメリット
ところで、英国には郵便局保険に先立って、インダストリアル・ライフ・アシュアランス(industrial life assurance)という労働者向け生命保険が発達していたが、それらは月掛保険だった。普通生命保険(ordinary life assurance)を販売していた英国民間生保は、月掛けに要する集金コストがかさむのを理由に、インダストリアル・ライフ・アシュアランスには参入しなかった。
例外的に参入したプルデンシャルという民間生保が、効率的な集金・募集チャネルを構築し、後には他の民間普通生保を凌駕するほどまでに発展した。
小口生命保険の普及のためには、効率的な集金・募集チャネルの構築が鍵である。簡易保険は、構築されていた郵便局ネットワークを利用することができるというメリットがあった。そうはいっても、月掛保険に伴うコストを節約することは重要な経営課題であった。
このチラシにある「前納制度」および「団体制度」による保険料の割引は、月払いに伴うコストを削減するための制度である。他の保険会社で行われていた掛け金の一時払いと簡保の前納との違いは、前者は保険期間中に契約の変動が起きても保険料を返還しないのに対して、後者の場合は、一年の途中で契約に変動が生じた場合、それ以降の前納された保険料を返還するという点で異なるものである。