ゆうちょシンポジウム Σで咲かそう地方創生ビジネス
ゆうちょ銀行が今年度から本格始動するΣビジネス。不思議に命名されたビジネスは、どのような可能性を秘めたものだろうか。Σとは総和。与えられた数字の全ての加算の意だ。5月29日の「ゆうちょシンポジウム」で笠間貴之社長は「社会と地域のための共創プラットフォームの実現」と目的を強調した。相対融資ができないゆうちょ銀行が地域金融機関等と連携し、地方創生のために地域課題解決を目指すスタートアップ企業、中堅・中小企業等をエクイティ性資金等で支援。「地域のスタートアップ・エコシステム」を創出する自治体等との連携も視野に入れる。目的が地方創生ならば、郵便局ネットワークとの親和性も深い。ゆうちょ銀行は主体的に取り組むために5月、100%子会社の「ゆうちょキャピタルパートナーズ」(水上圭社長)を新設。それぞれの地方の素晴らしさを加算し、地域から日本を元気にする共創ビジネスが、いよいよ本格的に走り出した。(写真左から奧野社長、笠間社長、水上社長)
ゆうちょ銀行 笠間貴之社長
「リテールビジネス」「マーケットビジネス」「Σビジネス」の三つのビジネス戦略は、邦銀随一のお客さま基盤、本邦最大級の安定的な資金基盤、全国津々浦々のネットワークという強みを最大限に生かしたオンリーワンの戦略だ。
ゆうちょらしいGP業務(ファンド運営を担う無限責任組合員)を通じた社会と地域の未来を創る法人ビジネスの「Σビジネス」は今年度から、①地域金融機関等と共創②全国津々浦々のネットワークを有効に活用し、企業規模にかかわらず、きめ細かく資金ニーズを発掘③中長期目線で資本性資金を供給④投資先の成長課題解決に向けて伴走支援――の4点を軸に本格始動させる。
ゆうちょらしいGP業務を進める中核企業として、「ゆうちょキャピタルパートナーズ」を100%出資子会社として新設した。同社を中核にパートナー企業と連携することで、「社会と地域の発展のための共創プラットフォーム」を実現する。
全国津々浦々にネットワークを保有する強みを生かし、投資先候補となる企業を発掘するソーシング業務、投資先企業等が保有する商材のマーケティング支援業務も本格始動。さまざまなパートナーの方々と連携し、事業承継、事業再生投資、ベンチャー投資、ESG投資などに幅広く取り組む。
ゆうちょキャピタルパートナーズ 水上圭社長
当社はΣビジネスのGP業務の中核として地域の皆さまのさまざまな資金ニーズに対し、エクイティ投資(株式の取得により企業に投資)を行う投資会社。パートナー事業者の方々と協働で投資ビークル(投資家からの資金をもとにエクイティ投資を行う組織体)を複数設立し、地域金融機関と連携し、投資を行う。
事業承継などに課題を抱える企業へのバイアウト投資(買収後に経営陣の派遣等で企業価値を高め、買収金額より高値で売却し、利益を得る手法)、べンチャー投資、ESG関連投資――の三つが投資内容。
当社は①全国津々浦々のネットワークを活用②ゆうちょ銀行の資金を活用し、地域経済活性化や持続可能社会の実現と、経済的リターンの両立③地域金融の皆さまと共創する投資会社。中長期的に全国津々浦々の事業者の方々に、1兆円規模の投資と投資後の支援を行う。
Spiral Capital 奥野友和社長
当社のミッションは二つ。一つは「ユニコーン(設立10年以内の非上場のベンチャー企業で評価額が約10億㌦以上)の創出」。優れたスタートアップを発掘、育成し、ユニコーンを創出。もう一つが大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)のサポート。これらを通じ、日本経済の変革を推進する。
投資テーマは①地域課題解決の推進を目指すスタートアップ。東京の会社も含む②地域のロールモデルを目指すスタートアップへの投資を推進。今後、地方で活躍するスタートアップへの投資も強化したい。ゆうちょ銀行様との連携が鍵になる。
【質疑応答】
――次期中計の早い時期に純利益5000億円を示された内訳を。
矢野晴巳副社長 多くは「マーケットビジネス」から上げていく。マーケット業務はリスク性資産残高中心から、日本国債中心の円金利資産の収益もバランスよく計上する。
――プライベートエクイティ投資(未上場企業の株式の引き受け)の国内投資の収益が効いてくる時期は。
笠間社長 海外PE投資を2017(平成29)年から行ってきたが、収益貢献してきたのは22年と約5年が経過してからだ。パートナー企業と一緒に創り上げるビジネスになる。
――ΣビジネスのGP業務の投資確約残高を25年度までに4000億円にするために、どのような手を打たれるのか。投資先は何社くらいですか。
青野憲嗣執行役 今後、Σビジネスではさまざまな共同事業者と投資ビークルの組成を進めるが、中核となるゆうちょキャピタルパートナーズを中心に立ち上げていくことで、徐々に残高が積み上がる。投資先数はそれぞれの規模によって異なり、1ファンドは大体10~20社で積み上げるため、何社に投資する目標はなく、まず投資する枠組みのビークルをつくり、整備していく。
――Σビジネスは、地方創生、地域課題解決の推進を目指すスタートアップを応援する投資だと思うが、見通しは。
奥野社長 現在の国内のスタートアップ投資市場を地域別に見た時に、地方に所在するスタートアップの数は多くなく、東京圏のスタートアップが7~8割。スタートアップの所在地を問わず、サービスが地方の活性化につながる地域で活動する中小企業をエンパワーするものならば、地域課題の解決に資するとみなし、東京も投資対象に含める。
青野執行役 地域のスタートアップを創設するためのエコシステムづくりに取り組んでいる自治体等とも一緒になって、「地域のスタートアップ・エコシステム」づくりも展望している。
――(郵湧新報)通帳アプリのプッシュ通知等で局への来客誘致を行うイメージとは。新NISA制度の取り扱い商品を選定する基準は。
笠間社長、矢野副社長 例えば、デジタルに詳しくないお客さまが郵便局窓口にいらっしゃった時に社員の方に「通帳アプリはこうすれば使えますよ」と案内していただく。
ご登録をいただき、同じ局で地域の活性化に資するイベント開催となった時に、そのお客さまにプッシュ通知をし、ご案内する。リアルとデジタルの相互補完で、当行の企業価値向上も図る新しいリテールビジネスの形を目指している。
小藤田実専務執行役 ゆうちょ銀行は店頭でもネットでも購入できる商品として74商品、124ファンドを販売している。コンセプトはシンプルで長期分散、積立が基本。若年層から高齢層まで分かりやすく、どのようなものを購入しているか分かるように取り組んでいる。