局舎と人で地域医療貢献へ

2023.12.20

 総務省「郵便局等の公的地域基盤連携推進事業」として、石川県七尾市の南大吞局(池岡直樹局長)でオンライン診療がいよいよ始まった(本紙11月号既報)。物理的な〝局舎〟と〝人〟がいる郵便局の強みをどこまで地域医療に生かせるかを検証し、全国の離島やへき地に広げていく方針だ。

〝健康維持〟も郵便局で

 郵便局ネットワークと自治体等の公的地域基盤が連携し、デジタルを活用しながら解決モデルを創出する全国初の実証事業は、今年5月に厚生労働省の新制度により郵便局でもオンライン診療が受けられるようになったことを踏まえ、実現。

社員の方が患者さんを診療ブースに案内

 急患や初診は受け付けず、慢性疾患患者を対象に個室ブースで画面を通し、診療で薬の処方を受けた患者のうち、希望者はオンラインで㈱アルプ薬局七尾万行店の服薬指導も受けられる。薬は翌日、患者宅までゆうパック等で配送。手数料の負担の在り方含めて、課題と効果を来年2月16日まで検証する。

 NTTデータ経営研究所医療情報技師の朝長大氏(写真上)は「新制度で郵便局と公民館がオンライン診療をできるようになったが、公民館には誰もいないこともある。郵便局には地域から信頼される人がいる。へき地のご高齢者は現金決済を求める方が多いが、局窓口で支払いできる」と強調。

 総務省北陸総合通信局の菱田光洋局長(写真上)は「北陸3県も医療機関がない地域が増えた。プライバシーが確保されたブースで局員の方がサポート。他地域に広がってほしい」と期待を込めた。
 石川県健康福祉部の柚森直弘部長が「無医地区と準無医村地区が能登中心に15地区。郵便局の医療分野での新たな取り組みに期待」と馳浩知事の祝辞を、七尾市健康福祉部の谷一勝信部長は「高齢の方が住み慣れた地で安心して暮らせる包括ケアシステム構築と支援体制が必要」と茶谷義隆市長の祝辞を代読した。
 オンラインで出席した日本医師会の佐原博之常任理事(さはらファミリークリニック院長)は「高齢の方や慢性疾患の方は最低月1度程度の状態確認が必要。郵便局で対面診療の補完を隔月程度できることで、へき地や離島の方々の命と健康を守れる」と強調した。

 北陸支社の加納聡支社長(写真上)は「実証開始の意義は、健康維持の関所的役目を郵便局が果たし、金融決済も薬の配送も郵便局で完結できる点。住民の方々に来局いただける。皆で全国モデルを目指したい」と意欲を示した。自見はなこ地方創生大臣から「医療機関が少ない地域の新しい貴重なモデル」とのレタックスが寄せられた。

 実証協力医療機関のねがみみらいクリニックの根上昌子院長(写真上)はオンライン記者会見で「オンライン診療は聴診器や触診ができず、疾患の変化が分かりにくいため、患者の方は日頃から血圧を測り、診察時に教えてほしい。対面とオンライン診療を交互に行うには予約が必要で、郵便局とクリニックとのコミュニケーションが重要。ここは雪が多く、バスの本数も少ない。ご高齢の方は来院が大変。へき地や離島での郵便局のオンライン診療は非常に役立つ」と述べた。

 石川県能登地区連絡会の立川尚人副統括局長(和倉温泉)は立会会見で、「社員は患者の方をブースに案内し、受診中は外にいる。機器操作が不明な時には『呼び出しボタン』を押していただき、サポートする。患者の方がいつ来られるか明確なため、郵便局も対応しやすい」と説明した。

 南大吞局の池岡局長は「一番尽力されたのは佐原先生だ。佐原先生。で5~6年前からオンライン診療ができれば、と話していた。過疎化が進み、人が住めなくなると思い、兼業届を出し、農水省補助を受けて旧局舎をコミュニティーカフェに改築して、無報酬で業務の傍ら携わっている。郵便局を起点に安心して住める地域が増えてほしい」と語った。

南大吞局の隣にある旧局舎を改築したコミュニティカフェ