将来展望 ゆうちょ銀行 池田典人社長
池田社長 2015(平成27)年に上場し、民間銀行として、ゆうちょ銀行の立ち位置にとって適切なビジネスモデルを模索して6年。当行の収益の最大の源泉は資金収支等だが、ここでは役務取引等利益と営業経費の二つに着目していただきたい。
逆風下の種まきが花や実に
17~21年度において、役務取引等利益は堅調に推移し、営業経費についても着実に削減を図ってきた。役務取引等利益と営業経費をあわせ、5年間で1000億円超の改善。リテールビジネスに対する経営努力が順調に収益に反映されてきている。
18~20年度の前中期経営計画の3年間は、逆風の経営環境の中で民営化の基盤整備として種まきを行ってきたが、いくつかが21~25年度の今中計期間に実を結び始め、22年3月期連結決算の親会社株主純利益は3550億円と、上場来の最高益となった。
今、さらなる種をまいている。ビジネス区分を「第1のエンジン」(リテールビジネス)、「第2のエンジン」(マーケットビジネス)、「第3のエンジン」(新たなビジネスへの挑戦)に分けている。次期中計に向けて三つのエンジンを軸にサステナブルな収益基盤を構築したい。
第2のエンジン
「第2のエンジン」は収益の大半を占めるマーケットビジネス。07年のゆうちょ銀行発足時は、運用のほとんどが日本国債だった。16年2月に公表されたマイナス金利政策をはじめ、日本銀行の金融緩和政策により低金利環境が定着する中、収益向上のために何をすべきかが大きなテーマになった。
ダイナミックに転換しようと、国債から外債、リスク性資産へのシフトを加速し、国際分散投資にかじを切った。運用対象を多様化し、「戦略投資領域」のプライベートエクイティ(外国の非上場株)や不動産ファンドへ前中計の3年間で約10兆円シフトした。今中計の最終年度には、リスク性資産残高を20兆円増やし、110兆円とする計画だ。
戦略投資領域への投資は、運用環境が厳しかった前中計期間中に着実に投資を積み上げ、種まきを行ってきた。現在、そうした種が花開き、収益に貢献してきている。
逆境を乗り越えた要因として重要だったのは専門人材の補強。約380名と上場時から約200名増え、専門職が88名、うち社内登用29名。笠間貴之専務執行役をトップに役員11名の辣腕を投資商品の分野ごとに配置し、8部1室体制までに拡大した。
オルタナティブ投資を含め、各部署で投資商品ごとの戦術や成果型報酬の取り入れなども通じ、低金利環境を乗り越えていった。外部採用は継続するが、〝肝は社内〟。体験を持って仕事してもらうことが人材育成の基本だ。
第1のエンジン
上場来、ゆうちょ銀行は投資信託販売や決済商品の強化に取り組んできた。前の中計期間中にはファミリーマートなどへの小型ATM設置、ゆうちょPayや通帳アプリなどデジタル技術を活用した新サービスを始めた。
直近は投資一任サービス「ゆうちょファンドラップ」を5月9日から、mijicaに替わる新たなブランドデビットカードとして、「ゆうちょデビットカード」の発行を5月6日からスタートした。
これら新サービスの導入により、中長期的な役務収益の拡大を図りたい。デジタルサービスは通帳アプリ機能をさらに拡充。登録口座数は順調に拡大し、3月末時点で481万口座。中計の最終年度、25年度末には1000万口座を目指す。
また、今年度中には家計簿・家計相談アプリをリリース。アプリを起点に、多くの事業者とオープンに連携し、お客さまに多様なサービスが提供できる共創プラットフォームを構築する。特筆することは「統合顧客データベースの構築」。例えば、つみたてNISAや口座貸越などのサービスで活用していきたい。
デジタルサービスに不慣れなお客さまは、リアルチャネルで身近なサポートを実施することで、全てのお客さまがデジタルサービスを利用できるようにする。リアルとデジタルの相互補完によって、ゆうちょにしかできない新たなリテールビジネスを展開していきたい。
信頼性とお客さま本位が今後の発展の基礎で、リテールビジネスの肝。そのために前中計期間中に「サービス向上委員会」を設置した。①商品・サービスの適切性②窓口サービスのデジタル化③風土改革――をテーマに、お客さまを原点とするビジネス戦略を進めている。
第3のエンジン
さまざまな分野での地域金融機関との連携やファンド等への投資、ファンド会社への若手社員の出向など、前中計期間から地ならしをしてきた施策を集合・総和したビジネスという意味で「Σ(シグマ)ビジネス」)と仮称した。
国内の貸出業務はすでに過当競争。参入に経営の合理性は見いだせない。このため、プライベートエクイティなどへのLP投資による資金供給に注力してきた。また、かんぽ生命と立ち上げた子会社のJPインベストメントを通じ、GP業務を実施してきた。
これまでの取り組みを土台として、国内GP業務を本格化し、その先の展開として地域産業の発展やベンチャー企業などのビジネス展開に焦点を当てたい。投資先企業から、地域活性化につながる新ビジネス、商材を探す。幸いなことに昨年11月、改正銀行法が施行され、地域活性化につながるビジネスに参入できるようになった。国内企業の成長を後押ししたい。(以下、記者団の質問)
共創で地域活性化の新ビジネスを
――GP業務で想定するファンドサイズは。大企業も含むのですか。
池田社長 200億円前後のレベル感。大企業は想定していない。金額を大きくすることでファンドプレーヤーがはみ出てしまうと産業育成にならないし、超長期で持っていかなければ産業は生きていけない。一つ一つ積み重ね、地道に日本の中堅・中小企業を応援する観点で進めたい。
――地域金融機関も人材紹介や地域商社づくりをしていますが、役割分担は。
池田社長 地域金融機関とは、あらゆる分野で連携実績がある。協働でのファンド出資に加え、我々の郵便局・ATMネットワークをぜひ活用していただくべく、ATM提携も実施。銀行、信金、信組の方々とは、あらゆるところで一緒になってやっていこうとのいう考え方であり、お互いに困ったことがあれば協力していく。
――地域産業の発展に向けた新ビジネスの商材を探すために、地域に根差す郵便局との連携は。窓口での投資信託販売も本格的に始まりましたが、今後の展望や期待感を。(郵湧新報)
池田社長 衣川社長とも話している。さまざま経営のテーマがあるため、路線に乗った新ビジネスから郵便局に入っていただきたい。郵便局の窓口の方々と話し、情報もいただきたい。郵便局の情報は実に大事だ。
ゆうちょファンドラップについては、まず直営店からスタートしたい。新たに始めるサービスであるため、データの蓄積がないファンドラップは、お客さまのご意向に沿った商品を作っていくというのが基本的な発想。従って、ゆうちょファンドラップについては、まずは直営店からスタートすることで進めている。
郵便局にお願いしたいたいのは、つみたてNISA。つみたてNISAに関しては、日本一のグループになれる、郵便局にお願いするしかない、と思っている。郵便局の皆さまにもお客さまに最適な商品を提案できるよう精いっぱいお声掛けいただけるとありがたい。