インタビュー 郵便局物販サービス 荒若仁社長
カタログ通販業界でトップクラスの実績を誇る郵便局物販サービス(荒若仁社長)。EC(電子商取引)の需要が急速に高まる中、ネット販売にも力を入れ、法人営業に向けた体制も強化を図るが、主力は郵便局での販売だ。日本郵便の東海支社長、近畿支社長、東京支社長等を歴任した荒若社長は「郵便局の販売力を発揮してもらうためには、カタログをお薦めするにしても、店頭販売にしても、郵便局の売りやすさということを常に考えていく必要がある」と強調する。
商品開発は「郵便局の売りやすさ」を軸に
――コロナ禍での消費者ニーズの変化について、どのように感じられていますか。
荒若社長 時代は、ネットによるECが主流になっている。わが社でもECの売り上げがどんどん伸びており、昨年11月までで、対前年比140%となった。郵便局のネットショップのほか、dショッピングや既存のECモールにも出品している。
独自の通販サイトを開設するには、運営体制の整備などさまざまな壁があるが、EC分野はまだまだ伸びしろが大きいので力を入れていきたい。
私自身、お中元やお歳暮のときにうちのカタログを使うが、申し込むときはネットからだ。紙媒体では情報がどうしても遅くなってしまい、欲しい商品の在庫があるかどうかも分からない。ネットだと、リアルタイムで情報を刷新していける。
――紙のカタログのニーズも、まだまだ健在だと伺っています。
荒若社長 実は、全体の売り上げでネット系が占める割合は、わずか4%ほど。大半が現物のカタログ販売だ。長期的に見ると、通販業界でもカタログ通販はどんどん減少し、ネット系が主流になっている。そんな中で、弊社のお客さま、つまり郵便局のお客さまは、引き続きカタログをご利用いただいている方もまだ多い。
しかしながら、新型コロナの影響で郵便局の来局者数が減っていることもあり、わが社全体の収益は右肩下がり傾向だ。歯止めを掛けるためにも、どれか一つということではなく、ネット系も主力のカタログ販売も、店頭販売も、あらゆる施策をやっていかなくてはいけない。その一つとして、これまではあまりターゲットになっていなかった法人系への営業拡大も行っていかなければならない。
以前、北海道のある地域で、医療従事者に感謝の品を贈ろうということになり、うちのカタログから好きなものを選んでいただき、大変好評だった。こういった法人系、自治体系に食い込んでいけるような商品の提供とともに、郵便局ネットワークのパイプを活用して、より幅広く展開していくための法人営業系のシンプルな商品・ツールなども考えていけるとよいと思っている。
――郵便局での店頭販売で売り上げを伸ばした商品があるとのことですが。
荒若社長 「つぶらなカボスと仲間たち」シリーズについて、店頭販売では、昨年12月20日現在、累計前年比約6倍の約7億円の売り上げとなった。㈱ジェイエイフーズおおいたが販売元で、郵便局の窓口でも、1本単位で「いかがですか」と売りやすい商品だ。
対面での店頭販売というのは時代と逆行するのかもしれないが、こうした売りやすい、声掛けしやすい商品の店頭販売は、郵便局の強みを一番出せる〝武器〟だと思う。
昨年2月に在庫管理のシステムを導入したことも、店頭での売り上げ拡大の後押しとなった。今後も店頭販売については、何より社員さんが売りやすいもの、声を掛けやすいものを軸に提供していきたいと考えている。
――店頭販売や宣伝の工夫については、いかがでしょうか。
荒若社長 現場の社員さんたちにとって、カタログがあり、商品があっても、「どう声を掛けたらよいか」「どうお客さまに見せたらよいか」という具体的なことをこれまでは示せていなかったように思う。
そのため、日本郵便の物販ビジネス部とプロジェクトを立ち上げ、週1回ほど打ち合わせを行っている。具体的な営業方法を考え、示し、郵便局の現場の声も伺っていく予定だ。
例えば、商品の飾り付けにしても、〝局前に○○を掲示して、局に入ったら△△を飾って、窓口カウンターではお客さまにこのようなお声掛けをしていただきたい〟という一連の流れを分かりやすく提示できるようにしたい。
それで売り上げにつながるのか、つながらないのか。つながらなければ、また考えて作り直して、現場にフィードバックしていく。常に郵便局の現場とキャッチボールできるようなものにしていきたい。
――現場目線に立たれた販売促進ですね。
荒若社長 今まで、物販については局に任せきりだったように思う。販売の上手な人がいる局はいいが、それは限られたところで、たいていの局は具体的にどうやるのか、どう動いたら良いのかよく分からず、そうこうしているうちに販売期間が過ぎてしまうようなこともあったのでは。
社員さんが売りやすい良い商品やツールを考えていくのが我々の役目。その上で、売り方についても、日本郵便の物販ビジネス部と協議し、我々のアイデアも載せていただく体制にしていければと思っている。来年度に向けて物販ビジネス部と連携を一層強化していきたい。
――就任から約半年ですが、社員の方々にどのような思いを伝えられていますか。
荒若社長 通常郵便物がどんどん減ってきており、そこはゆうパックや荷物系でカバーしなければいけない。そんな中で、弊社の物販事業は貢献を続けていかなければならないし、社員たちには、そのことに対して胸を張ってほしい。
実際、弊社社員がバイヤーとしていろいろな商品を引っ張ってきて、カタログを作って販売することはゆうパックの増加に直結する。そういう誇りをもってやってもらいたいということを話している。
社員一人一人が実際にどんな考えを持っているか知りたいと思い、今、全社員との対話を進めている。1人最低30分。普段、部長さんや管理者の方々とはやりとりしても、それ以外の人たちとはなかなか直接話す機会がなく、案件の説明のときぐらいだった。今、60人ぐらいと対話ができた。
中には、仕事以外の話題が中心になってしまったこともあるが(笑)、彼らと話してみて、初めて分かることもある。だから、時間はかかるが全員と対話するまで続けるつもり。社員たちの考えを踏まえた上で、いろんな展開を考えていきたいし、彼らに誇りを持って仕事に臨んでもらいたい。
私自身、「社員ファースト」で取り組んでいきたい。社員一人一人が誇りを持っていけば、この会社は伸びる。