インタビュー 紀井哲 四国支社長
今年4月に就任した紀井哲四国支社長は、四国を代表する企業・各種団体等から成る「四国家サポーターズクラブ(SC)」の共同代表を務め、四国の地域活性化へ力強く旗を振る。紀井支社長は「ただ親しみやすいというだけではなく、プロフェッショナルとして必要な知識やスキルを磨き、お客さまに頼られる存在になるよう、日々成長していかなくてはいけない」と強調。また、「会社の目的は、お客さまや社員を喜ばせること。お客さまを喜ばせるために必要なサービスを継続するためにどのように稼いでいくか、という発想が必要なのではないだろうか」と問いかける。
お客さまと社員を喜ばせるプロに
――4月から赴任されてのご感想は。
紀井支社長 さまざまな課題が噴出し、通常モードでなく危機モードの中での着任となったが、支社や郵便局の多くの社員が、課題に対して誠実に向き合い、非常に丁寧に対応してくれている。支社と単マネ局、エリマネ局の関係が非常に良好で、文字通り、三位一体の関係で連携できており、大変ありがたいことだと思っている。
先日、エリマネ局の会議に出席した際も、点呼問題を切り口に皆で組織運営の在り方を活発に議論できた。郵便業務を行っていない非統合局にとっても、点呼問題は対岸の火事ではなく、事業の危機に対してどう考えるべきか、守るべきルールや方針を徹底できないのはどこに真因があるのかという観点で、わが事として意見が上がった。
確かに、点呼問題をはじめとして現在起こっている課題の多くは、内部統制の実効性という、各業務の垣根を越えた、会社全体に通底する、より広いテーマを含んでいる。これは時間をかけて問い続けていくべき大事な問題だと思う。
――地方創生についての思いをお聞かせください。
紀井支社長 四国は、地域全体が人口減少と経済縮小に直面しており、多くの方々が危機感を持っている。四国家SCの共同代表には、四国電力とJR四国という地域のリーダー格の2社に務めていただいているが、両社をはじめ会員企業はどこも、この危機に対し、企業が〝社会の公器〟としての役割をどう果たせるかという問題意識が強く、官から民となった私たちも大変刺激を受けている。
地域振興では、担い手になる人をどうつくっていくかが一番大事だと思う。派手な打ち上げ花火を上げて終わりではなく、地道に継続していく「人」を育てていかないといけない。
先日、愛媛県西予市で開催された全国「かまぼこ板の絵」展覧会の表彰式に参加し、日本郵便賞の表彰をさせていただいた。今年は第30回という節目ということもあり、展覧会設立時の担当者(その後、館長)の方のお話を聞く機会に恵まれた。
会場の市立美術館「ギャラリーしろかわ」は、1993(平成5)年の設立だが、2年目から入館者が激減し、「過疎の町には分不相応」と厳しい批判にさらされたという。そのような中で予算ゼロ、担当者1名から孤軍奮闘し、展覧会開催にこぎつけた話は大変痛快かつ感動的であった。
結局、地域を興していくのは他力本願では駄目で、徒手空拳でも、自ら動き、形をつくり上げていく情熱が必要だと思う。「出世払いで」と各方面を回ったそうだが、それに応えた組織の一つが四国郵政局(当時)であったことにも誇りを感じる。四国家SCの活動などを通じて、持続可能な地域活性化を目指し、人づくりへの支援を続けていきたい。
支社・単マネ・エリマネ〝三位一体〟で
――郵便局ネットワークへの期待は大きいですね。
紀井支社長 先般もテレビ高知、あいテレビと「災害時における防災・減災ネットワークに関する協定」を締結した。四国家SCの活動では、毎年、四国遍路の総点検と世界遺産登録に向けた機運を醸成する「一日一斉おもてなし遍路道ウォーク」に参加している。今年は日本郵政グループ1870名を含む約1万人が参加し、全区間約1200㌔を点検したほか、参加者に飲食料等を提供するお接待も実施した。
当地の企業や自治体と会合等で話していると、四国全体で〝輪〟をつくる際、ミッシングリンク(つながりが欠けている状態)を埋められるのは、当社を置いて他にはないとよく言われる。実際にも多くの集落において、事業所の撤退が相次ぐ中、郵便局が「最後の砦」となっているケースは多い。
お人よしと言われるかもしれないが、社員にとっても、社会の役に立てることは自らの職業に対する誇りを醸成することにもつながる。
――地方公共団体との共創の状況については。
紀井支社長 四国全体で8割程度の地公体と包括連携協定を締結した。これらは各地の局長の皆さまが日頃から地域貢献活動に汗をかいていただき、各地公体からの信頼を得てきたことの証しでもあり、感謝しかない。
地公体との連携の内容はさまざまであるが、オンライン診療などさまざまな先駆的な施策を進めている愛媛県宇和島市のような例もあり、こうした取り組みをいかに広げ、継続的なものにしていけるか、ということだと思う。
――朝ドラ「あんぱん」が放送中で、四国が活気づいていますね。
紀井支社長 高知県出身で「アンパンマン」を生み出したやなせたかしさん夫妻をモデルに描かれており、私も大好きで見ている。番組のオリジナルフレーム切手も7月15日から好評販売中だ。
ドラマの中で、「人生は喜ばせごっこや」という印象的なセリフがあった。史実では、伯父さんではなく、やなせたかしさん自身の座右の銘ということだそうだ。郵便局も、ゆうちょもかんぽも、お客さまや社員をどう喜ばせるか、を第一に考え、ここさえぶれなければ、素晴らしい会社になるのではないだろうか。
――郵政事業の将来像への想いを。
紀井支社長 何のために働くのか、と問われた時に、「収益のためです」と答える人がいる。それはそれで間違っていないかもしれないが、少し一面的な考えのように思える。会社の目的として一番に何を目指すか、ということでいえば、やはり、お客さまや社員の皆さんを喜ばせることであって、ただし、喜ばせ続けるために、収益を上げなくてはならない、という順番なのではないだろうか。
ただし、これからもお客さまに喜んでいただくためには、我々は、郵便・物流や金融のプロフェッショナルとして、知識やスキルを磨き、一段も二段もレベルアップしていかなければならないと思う。
当社は、「お客さまから選ばれる郵便局」をスローガンに掲げているが、このためには、ただ親切な応対ができる、親しみやすい人というだけではなく、知識を駆使し、お客さまに最善の提案ができないといけない。お客さまの目も肥えてきており、頼られる存在になるためには、社会や業界の動向にも目を配り、目線を高くし、日々成長していかなくてはならないと思う。