インタビュー 柘植芳文前参議院議員

2025.11.05

 激動の時代に全国郵便局長会の会長を務めた後、12年間、参議院議員としてゆうちょ銀行限度額倍増や郵便局ネットワーク維持の交付金制度実現、叙勲制度の復活、総務大臣表彰の復活等々多くの実績を重ねた柘植芳文前議員。総務副大臣、外務副大臣も歴任した柘植前議員は後任のいんどう周作参議院議員に道を拓いた今も、郵政事業への熱い思いは尽きない。郵便局長とは何を力点に人生を全うすべき職業なのか。「真っ白いキャンバスに絵を描き、夢を持って、自らがどのような〝地域〟を創りたいか、そのために何をすべきかを考えて実行いただきたい」と語る。

地域を描き、創る。それが局長人生だ。

 ――継続審議となった郵政関連法の改正をどうご覧になっていらっしゃいますか。
 柘植前議員 今秋の臨時国会冒頭に再提出して成立できる方向に持っていかなければなかなか厳しいと思う。しっかりと関係者が動いていただかなければ、さまざまな政治課題に埋没し、審議の俎上に上がらなくなる。
 自民・公明・国民民主の共同提案のため、3党の賛同が得られれば衆議院は通るが、郵政法案は政局にすべきでなく、全ての政党に賛同願うべく議員立法の成立が望ましい。
 日本郵便の収益の9割は今も金融2社の委託手数料で賄われており、現行の改正郵政民営化法も金融2社の株式を100%売却すると法律に明記されている。
 売却後の郵便局ネッワーク維持をどのようにするかの確たるロードマップが見えてこない、もちろん金融2社との再契約もできるが、その際にゆうちょ銀行やかんぽ生命が、もうからない過疎地の郵便局と代理店契約を結ぶとは考えにくく、7割の局が維持できなくなる。
 そのことを回避するためには早期に手数料に依存する経営体制から脱却し、日本郵便が自らの力でせめて4割ぐらいは手数料収入に頼らない収益源を構築しなければいけない。
 今回の改正法案は「公共サービス」という新たな定義をつくって郵便局の「第四事業」として、地域貢献的なサービスをボランティアでなくビジネスとして提供でき、また、地域力の向上につながるようにすること検討項目として挙げられている。
 日本郵便は大きなポテンシャルを有しているので、早くその道を切り開いてほしい。

 ――各国の郵政民営化状況と比較して、どう違うのですか。
 柘植前議員 外務副大臣も経験させていただき、諸外国の郵政事業もつぶさに見ることができたことは大きな財産。世界中どこの国もすでに郵政事業を民営化している。
 ただ、根本的に異なるのは諸外国の株主は〝国〟。日本は日本郵政もゆうちょ銀行もかんぽ生命も株式を市場に売り出し、〝個人〟が株主。諸外国は間接的には国有だ。
 日本は日本郵政が親会社としてガバナンスを効かせなければならないが、金融2社は株主が個人であるため利益相反が生じることにより、口を出せない。親子上場は厳しい運用条件でもある。
 金融2社は他金融との競争の中で収益を上げなければならない。一方、日本郵便は公益性の高い事業を求められ、監督官庁も違い、三事業の一体化を図ることに支障を来している。
 フランスのラ・ポストは旧郵政省と同様にラ・ポストの傘下に金融があり、日本もその形態を検討することを今回の改正法案の補則に「3社体制を見据えた経営体制」と、「上乗せ規制撤廃」とともに明記されている。根の深い構造的な問題は、現場の仕事に携わらないと実感できない。

 ――会社に期待する経営改革は。
 柘植前議員 全国約2万4000局は大きな資産。都市部の一等地に昔建てられた大規模局の2階や3階は郵便が減り、地域区分局に業務が集約されたことで比較的空いている。
 また、単マネ局は17~18窓口を三事業で独占している局が多いが、窓口を民間企業に店舗として提供し、収益と集客量を図ることも検討してもよいと考える。また、単マネ局の空きスペースをスポーツジム等に提供するなど、もっと弾力的、多角的な運用を図るべきと考える。
 民営化前は、集配特定局の外務員が小さなエリア内で郵便を配達し、地域を回っていた。住民の方が外務員に何か頼みたい時は「赤いハンカチ」を軒下に出しておけば、配達時に「何かありましたか」と声を掛けてもらえる。
 「郵便局のみまもりサービス」の原点でもある「赤いハンカチ」の施策は地域から熱い信頼と共感を得ていた。しかしながら、5~6人の外務員がいた集配特定局が郵便の合理化により無集配局となり、今や2名局となり、窓口しかない。
 現在、国会に提出している法改正により公共サービス等をやろうとしても、足がなければ難しい。今は中山間地では30~40㌔も離れた局から配達に出向いているが、配達だけで精いっぱいで地域とのつながりがつくれない。
 例えば、高齢者の方がお孫さんに何か送りたい時、郵便局までも行くのが難しい場合は電話一本で「取りに行きます」、年金支給日にタクシーに乗って局に行くのが大変な場合は、通帳を借りてお届けするなど、地域の方々の「足」にもなる郵便局の形を早く復活いただきたい。

 ――日本社会の危機に対し、どのように郵便局を活用すべきとお考えですか。
 柘植前議員 地方でも都市部でも高齢化が進み、ご高齢者は全般的にデジタルに弱く、こうしたことで生じる格差に国は目を向けなければいけないと思う。
 郵便局長は地域の皆さんからの信頼により、さまざまなことを相談されることも多いが、防災士はもとより、介護士の資格等々、さまざまな資格者も多い。郵便局長の能力をフル活用し、地域の皆さんの相談に応じられる仕組みを構築すべきである。
 コンビニ店員の方や地域金融に相談できない生活全般の相談を、郵便局長が担える仕組みを早急につくるべきと考える。
 平成の大合併で広い範囲を受け持つ自治体が増え、そのことにより財政の圧迫等が生じ、近隣の役場がなくなり、戸籍謄本や住民票を取りに行くためには二つ、三つの山を越えなければ行けない方が増えた。そうしたことを補うために郵便局の活用が強く自治体、国から要請され、丸ごと役所代わりになれるとよいと強く期待されている。
 局長が町役場の職員も兼ねて半日は局長、半日は役場職員として兼務できるようなことも真剣に検討される時期に来ていると考える。

 ――郵便局長の方々にお伝えしたいことはありますか。
 柘植先生 地域のお客さまは郵便局という建物ではなく、郵便局長という人を慕い、そこに信頼を寄せ、郵便局に熱い支援をいただいていることを強く自覚し、郵便局長は言われるがままの組織の1ピースであってはなりません。
 自らの考えで真っ白いキャンバスに地域への思いを描き、夢を持って、自らがどのような地域を創りたいか、そのために何をすべきかを真剣に考えて行動していただきたい。郵便局長は地域の柱であり、壊れかけた地域社会の創生者であります。勇気と希望を持って仲間を信頼し、明日の郵政事業を創り上げましょう。