続・続 郵便局ネットワークの将来像⑭

2022.07.01

 お菓子やカップラーメンなどを販売する郵便局が岐阜県飛騨市内にある。スギ薬局と共創し、可能になったと報じられたが、どのような経緯で実現したのだろうか。昨年、ファミリーマートとの共創で茨城県内にある2名局の柴崎局(黒田裕士局長)内に陳列棚と冷蔵商品用ショーケースが設置される事例もあったが、その形とも異なり、自治体も大きく絡む全国初のスキーム。
 現地に伺うと、うわさの東茂住局(岡田博英局長)はさながら〝サロン〟!? お茶を飲みながら一息ついておしゃべりしたくなる心と体の「健康コミュニティー」だった。

過疎地でニーズ、食品等の局内販売

 飛騨地区連絡会の櫻田正徳統括局長(荘川)は「数年前、飛騨市の都竹淳也市長とランチミーティングの機会を持った際に、『東茂住地区にはお店がなくなる。高齢の方が多く車も危険で、買い物難民になる。郵便局でコンビニのようなことはできないか』と切実な思いを話された。お言葉を受けて試行錯誤を繰り返した」と振り返る。


 長野県泰阜村の包括事務受託を温田局(丹羽亮浩局長)が開始した2019(令和元)年。櫻田統括局長の「飛騨の局でも何かできないだろうか」との呼び掛けに、元集配局で局内スペースに余力のある東茂住局の岡田局長が手を挙げた。局には市が貸与する住民票交付などに使えるキオスク端末もある。
 東茂住地区内の3集落には計24世帯が住まわれるが、店舗は全て撤退。地区内にはスーパーもコンビニも何もない。唯一、局から4.5㌔㍍離れた場所に飲み物の自販機が一つ。高齢の方が気軽に歩いていける距離とはいえず、坂も多いため、自転車も危険を伴う。ATMも、もはや郵便局にしかない状況だ。
岡田局長㊨と洞口部会長

 実現を目指して、遠方のスーパーの店長や移動販売業者に交渉に歩いたものの現実は壁だらけ。岡田局長は「『無理かな』と諦めかけた頃に、櫻田統括と東海支社長、地方創生室長、地方創生担当部長(当時は課長)とスギ薬局の社長と交渉し、『やってみよう』となったことで風穴が開いた。全国の中でも、ここまでやるシステムは初めてらしい。櫻田統括や私の思いを支社の早川洋司担当部長が市と、物販担当課長が本社と調整された。現場が思いを描くだけでは不可能だった」と感謝を込める。

身も、心も、〝郵便局サロン〟で健康に

 昨年4月、東茂住局内の空きスペースに20人ほど座れる机やいす、コーヒーメーカー等が置かれ、そのサロン横の陳列棚に日用品や生鮮食品以外の食料品等が並べられた。商品を窓口に持っていくと、スーパーのレジのように社員がバーコードで決済する。

 1年間の売れ行きを見ると、いわゆる日用品よりも食料品のニーズが高い。毎日のように局に散歩がてらに寄る地域住民の方の姿もあれば、局近隣の東大や東北大など五つの宇宙線研究所に通う70名超の研究員も常時行き来し、「郵便局がコンビニのようでありがたいな」と笑顔で買い物に来るなど、店頭販売は地域での評価が高い。

 飛騨吉城部会の洞口博明部会長は「サロンが楽しみで来客する方も増えた。市も『高齢者の方が家でこもるのでなく、外へ出て話し合いできる場があるのはとても助かる』とおっしゃる。女性は井戸端会議が得意だが、男性の高齢者の方は外に出て話をすることが少ない。サロンでの囲碁サークルは男性が多く、市からも喜ばれている」と語る。

 昨年10月25日、市はサロンに「マイナンバーカード作成出張受付窓口」を開設。同時に保健師が〝血管と認知症〟の紙芝居を行い、局内は活気にあふれた。4月からは社員による折り紙教室も開催。市は局にラジオ体操動画等に活用できるテレビやDVD装置も貸与している。

 スギ薬局と郵便局の共創はさらに進化し、今年2月から「おもてなし便」と呼ばれる買い物サービスも始まった。東茂住局に置かれる約500品掲載のカタログから選んだ商品を局内に設置される市の端末を活用し、FAXでスギ薬局に申し込むとスギ薬局高山西店が梱包し、店舗付近の高山局が集荷に出向き、東茂住局に定期的に配送。その際のゆうパック料金を市が支援する仕組みだ。

地域の砦の覚悟持ち

 岡田局長は「櫻田統括からは『継続していく覚悟を持ってやっていこう』と、早川部長からは『現場の人がどうしたいかを具現化するために懸命に動いているんだよ』と局長としての本気度を確認いただき、励まされた。以前、市の福祉の部長さんの『郵便局は最後の砦』との言葉に『応えなければ』との思いがよみがえった」と話す。洞口部会長は「飛騨市は〝おもてなし便〟を東茂住局だけでなく取扱局を広げたい思いだ。まず部会で1局2局と増やしていきたい」と強調する。

 櫻田統括局長は「東茂住局のサロンや商品販売で、来客されるお客さまが増えていけば、陳列商品そのものが大きな収益増にならないとしても他のさまざまな商品やサービスにつなげていける。だから、郵便局に行けばドリンクやお菓子、カップラーメンが買えると知っていただくだけでもすごい成果だと思う。研究所の方々にももっと利用いただけるようにしていきたい」と意欲を示す。
 東海支社と飛騨市の包括連携協定は昨年3月に締結。市は山間地の住民を守るさまざまな手を打ち、6月1日からは東海支社(中井克紀支社長)と連携し、スマートスピーカーを活用した高齢者の見守りサービス実証事業も開始した。

東海支社地方創生室 早川担当部長
肝は個別仕入れ方式

 この買い物サービスの肝は、〝仕入れの仕方〟にある。食料品販売の難しさは消費期限にある。残り1週間しかないものは売れないため、少量多品種はなかなか実現できない。
 このため、通常の物販ビジネスは、一つの商品を大量に仕入れて消化仕入れで後払いが通例。例えば、ペットボトルであれば12本入り、24本入り等、箱単位の仕入れを基本とする。だが、東茂住局の商品は1個1個仕入れる。
 山間へき地で大量に用意しても売れないため、ロスを増やさないようにスギ薬局店舗の陳列商品を個別にピックアップして仕入れるやり方を、スギ薬局様が承認してくださったことが大きかった。
 中山間地の郵便局の存在価値を高めるために、スギ薬局方式は新しいモデルケースになりつつあると受け止めている。多くの方々の尽力で実現できたが、カタログ商品を持続させることが他局の横展開につながる。