続・続 郵便局ネットワークの将来像㉓
日本郵政、日本郵便、奈良市、(一社)Next Commons Lab、Sustainable Innovation Lab、イオンリテール㈱が実証実験中の「(仮称)共助型買物サービス」が注目されている。買い物サービスで最大のネックとなる配送コストを大幅に抑えた新しい形は郵便局の拠点と配送の両ネットワークを活用する。人口減少が加速する山間地や離島の悩みを解決する抜本策になるのだろうか。(写真は月ヶ瀬ワーケーションルームONOONOに食材を取りに来られる方々:奈良市提供)
子育て世代にニーズ!
「地域密着型の隙間サービスを埋める仕組みは今、さまざまなチャレンジが起きている。先陣を切ってモデルを作りたい。大阪・関西万博もパビリオン(博覧館)型だけではなく、関西エリア全体をテーマパークにし、お客さまに周遊いただく形はできないか。2025(令和7)年に世界から来られたお客さまが人口減少下の中山間地での社会実装モデルを見ていただくことを目標にしたい」。2月9日に奈良市役所で行われた記者会見で仲川げん市長は意気込みを語った。
地方創生に先進的に取り組む同市は、ローカル共創イニシアティブの派遣先としてだけでなく、国の制度の「地域活性化起業人」という自治体に特化した人材派遣制度においても日本郵政グループとタッグを組み、人材を受け入れている。移住・定住促進施策も積極的に進めてきた。
月ヶ瀬ワーケーションにはさまざまな楽しい商品も販売されている
会見で仲川市長は「単一の主体では採算が取れないが、行政と企業がサービスを相乗りすることで動線が太くなって付加価値が加わる。持続可能性を担保する秘けつだ。ネット注文商品を個配すると人手もお金もかかる、山の方に運ぶ郵便物の路線はそれほど多くないと思う。郵便は止めるわけにいかないため、買い物サービスをやるがやるまいが、かかるコストは同じ。車両の空きを活用して低コストで新しいサービスができる」ことを強調した。
全国初とされる「(仮称)共助型買物サービス」は顧客が商品を近隣の拠点まで受け取りにいく。3カ所ある拠点のうち1カ所は郵便局。拠点で何げない会話を交わすコミュニケーションは、人間らしさも呼び覚まし、目には見えない地域幸福度(ウェルビーイング)を高める安心感にもつながる。
ただ、郵便集配車両の余積に荷物を載せるやり方は過去にもあった。まとめて〝拠点〟に届ける形もあった。ネット注文も郵便局から行う総務省の実証も行われている。全国初とは、それらを掛け合わせ、総合的に実現する点らしい。
現場感の掘り起こしが肝
会見で仲川市長は「集合型にすれば、コミュニティナースがいてお年寄りに健康指導するなどの形を乗せやすい。地域産品を掘り起こし、売れ筋商品が出てきたらふるさと納税返礼品に使うなど、新ビジネスがどんどん生まれる余地がある。地域資源にも目を向け、光を当て、知恵を絞って前向きなまちづくりをしたい」と意欲を示した。
また、「行政にとって出張所や行政サービスは非常にコストがかかる。住んでいる人が少なければ需要も少ない。一定の資源を投入しなければ行政サービスが維持できない中で、ドイツのシュタットベルケ(独・自治体出資の公社だが、経営は民間企業として実施)のような形で公共サービスを担うことはできないか。民間サービスとも協業しながら混ぜ込み、運営するモデルを作りたい」と展望した。
ローカル共創イニシアティブを企画した日本郵政新規ビジネス室の小林さやか担当部長は「本社の中だけではなかなか事業は生まれないが、今回、想像以上に早いスピードで実現したのは、派遣した光保謙治係長(チャネル企画部 チャネル戦略担当)が現場目線で多くの関係者の方々と密に打ち合わせ、地元局長の方の意見等も伺いながら、サービスのサイズ感などを〝現場感覚〟で汲み上げてくれたことが大きかった」と称える。
「(仮称)共助型買物サービス」の決済はクレジットカードのみ。これまで月ヶ瀬地区にネット注文商品を届けに回っていた広域便以上に顧客の幅を広げるにはイオンの会員登録を大幅に増やせるかも実装に向けた勝負どころとなる。
地元局長も新たなサービスを見守っている。奈良県北和地区連絡会(松森正裕統括局長/奈良下御門)の今井吉則局長(月ヶ瀬)は「プロジェクトを買い物サービスにつなげてくれたことが素晴らしい。月ヶ瀬ワーケーションルームONOONOにお客さまが注文した商品が届く時間帯は16~17時だが、当初、想定されていた高齢者の買い物難民の方々というより、子育て中の女性の方が多いことに驚いている。車を使って町まで出掛けるのも大変な中、ネットで注文し、散歩がてらに取り行けることにニーズがあるのだと思う。若い世代が住みやすい地域をつくることができれば、人口減少に歯止めを掛けることができる」と期待を寄せる。