郵便局インフラ×DXで共助型買物サービス
日本郵政、日本郵便、奈良市、(一社)Next Commons Lab、Sustainable Innovation Lab、イオンリテール㈱の6者は2月21日、過疎化が進む市の東部地域で郵便局と配達ネットワーク等、既にあるインフラを生かすことでコストを抑えた新たな「(仮称)共助型買物サービス」を開始した(写真左から、Next Commons Labの林代表理事、仲川奈良市長、小方近畿支社長、イオンリテール近畿カンパニーの川本支社長)。
世界の人口減モデルに、関西万博も視野
国内モデルのみならず、先進国の中で最も早く人口減少が進むといわれる日本として、2025(令和7)年開催の大阪・関西万博で世界に示すソーシャルイノベーション(社会課題解決型の革新事業)ビジネスも目指す全国初の実証事業。日本郵政グループが企業や自治体にグループ社員を派遣し、共同で地域事業の開発に取り組む「ローカル共創イニシアティブ」の具現化第1号となる。
おまとめ配送でコスト減、〝拠点〟は人と会える場に
ローカル共創イニシアティブ第1号
「(仮称)共助型買物サービス」は、日々運行する郵便集配車両の余積や既存配達動線を活用し、複数の注文をまとめて配達することで配送コストを抑え、持続可能なサービスを実現。日本郵政グループが物流網や郵便局を含む地域の拠点からの配送や受取面、イオンリテール㈱はネットスーパーで販売を担い、(一社)人Next Commons Lab、Sustainable Innovation Labは「Local Coop 月ヶ瀬プロジェクト」の共助につながるコミュニケーションの設計、運営を担う。実証期間は3月22日までの約1カ月間だが、実証に先立ち、2月9日に奈良市役所で記者会見が行われた。
(写真提供:奈良市)
奈良市の人口は約35万人だが、うち1万人が面積の6割を占める中山間地住まいで、実証実験中の月ヶ瀬地区も高齢化率約44%。(仮称)共助型買物サービスでは、買い物難民の地域課題解消と同時に郵便局を含む商品受取先の〝拠点〟を地域コミュニティーの場として地域産品販売や、健康維持のフィットネス教室等で人との触れ合いを創出する。
住民が車を使わずに拠点まで購入品を取りに行くことでCO2削減と健康維持にも貢献。実証の結果や利用した方々の意見等を踏まえ、事業化を判断し、可能な場合は改善の上で早期実装を目指す。
満杯になった買物袋を下げながら会話も弾む(写真提供:奈良市)
仕組みは、イオンネットスーパー上の約3万点の商品から選択し、ネットで16時までに注文してクレジット決済が完了すれば、翌日、指定場所・指定時間に配達される。注文は毎日受け付けるが、配送は月曜休みとする。
出荷は、イオンリテール奈良店から朝11時に出発し、11時半ごろ奈良中央局に到着。奈良中央局を①12時発、波多野局を経由して月ヶ瀬ワーケーションルームONOONOに13時20分ごろ着(住民利用時間帯は16~17時)②15時15分発、旧柳生中学校に16時ごろ着(同16~17時)③12時発、東里地区の須川局に12時半ごろ着(同13~17時)――の3路線で3カ所に配達される。
①③は土曜含めて週5日、②は月土を除く4日。実証期間は商品代を除く利用料は無料となる。
奈良市 仲川げん市長
中山間地の課題は移動に伴うものが多い。ネット通販も生活に密着した形でなければ高齢者の方々に利用いただけない。郵便局が持つ既存の配達チャネルを使うことで、新たな予算をかけずに公共インフラの配達ネットワークを生かせる。サロン型の拠点から地域の方々にとっての新たな価値を生み出したい。
(一社)人Next Commons Lab 林篤志代表理事(Sustainable Innovation Lab共同代表)
人口減少が先行する地方は民間が入っていけずに市場が成立しにくく、皆、撤退。残るのは郵便局ぐらい。暮らし続けるにはインフラやサービスを工夫して維持しなければならない。買い物を通じて人と顔を合わせ、話せる機会が増える。全国展開を目指したい。
日本郵便 小方憲治近畿支社長
まとめた配達で人の集まる場所を生み、地域コミュニティー強化につなげる〝共助〟の仕組みで地域の持続性に貢献したい。
日本郵政グループの「ローカル共創イニシアティブ」第1号として、ネットワーク等の資源を生かし、共創プラットフォームとして自治体や企業の方々と社会課題解決型の新規事業に取り組みたい。
イオンリテール㈱近畿カンパニー 川本昌彦支社長
イオンリテール㈱は月ヶ瀬地区に週2回広域便を走行させてきたが、申込件数は少なく、会員を増やそうと努めている。広域便は生鮮食品を運べないが、今回は通常のチャーター便と同様に生鮮食品や冷凍食品も当社独自の梱包材で3万品目から選んでいただける。日本郵便様の配送ルート活用に感謝している。
(以下、記者団からの質問)
――どのような条件をクリアすれば実装できそうですか。
小方支社長 ニーズの確認と同時にオペレーション負荷がどれぐらいかかるか、は動いていないため分からない。途中荷物を下ろす多少の手間はあるが、複数の方の荷物を1カ所に持っていくことで個別配送よりコストを削減し、利益を生み出せる。
利用されたお客さまのご意見やコスト削減の程度、サービスに伴うオペレーション負荷を総合的に勘案して決定する。今動いているトラックの余積に載せるが、一つの便に段ボールサイズのコンテナ6個ほど毎日フルに注文いただけると、ペイできる見通しだ。
――補助金や税金の投入は。採算性を見込んだ利益を。
仲川市長 国の特別交付税で採用している地域おこし協力隊の人が業務的に関わる部分はあるが、直接的な税の投入はない。今までネットスーパーを使っていない方に新たに利用いただけるビジネスモデルが成り立つ可能性がある。
川本イオン支社長 利用人数が目標件数に届けば続けていける。ネット注文のやり方を1人でも多くの方にご理解いただき、増やさなければならない。会員登録等の説明機会を作る。現状の500人ほどを1500人まで目指したい。
――なぜ最初に奈良市での実証になったのですか。
林氏 人口増を前提で設計された今の日本の仕組みを人口減前提に再設計しなければならないと、奈良市が先陣を切って月ヶ瀬をフィールドにモデルづくりをしようとコミットした。
日本郵政が「ローカル共創イニシアティブ」のもと、社員の方が出向され、郵便局リソースを使った事業の発案にイオングループに共創いただいた経緯だ。
仲川市長 2025(令和7)年の大阪・関西万博でソーシャルイノベーションをどう世界に示していけるか。人口減少社会のビジネスモデルは日本だけではなく、日本の後に高齢化と人口減少を迎えるアジアの国々も同じ悩みを抱えている。
試行錯誤の中で、「消滅可能性自治体」を10年前に記した増田寛也氏が日本郵政の社長をされて、「ローカル共創イニシアティブ」も始まり、市に出向いただいた光保謙治さんとも一緒に進めてきた。共通の問題意識を持った人たちが寄り合い、共創型事業をやってみようと実現に至った。
――販売を担う協業事業者にイオン様を選んだ理由は。(郵湧新報)
小方支社長 イオングループと日本郵政グループは、2006(平成18)年から包括業務提携を結ぶ関係にあり、物流や出店等でさまざま連携してきた。加えてイオンリテール様がネットスーパーの基盤を持っていたため、一緒に進めさせていただいた。