インタビュー 日本郵政グループ労働組合(JP労組) 石川幸德委員長

2022.09.20

 日本郵政グループの社員23万3514人(7月24日時点)が加入する日本郵政グループ労働組合(JP労組)が、全国郵便局長会(末武晃会長)との対話を開始した。石川幸德委員長は「郵便局維持のために採算に乗せるには知恵を出し合うしかない」と明かす。「郵便局をプラットフォームとして開放し、他社、他事業、官公庁等とのコラボレーションによる新たな事業展開を図るべき。会社はもっと現場を信じ、チャレンジすべき」と語る。全特と共通する思いは「先人が作った郵便局ネットワークを生かし、残す」ことだ。

郵便局ネットワーク〝生かす〟知恵を

 ――郵便局ネットワークの将来像をなぜ今、全特と対話されたのですか。
 石川委員長 郵便局はやはり地域と一緒に生きるしかない。地域がなくなって郵便局だけ残るなどあり得ないからだ。局長会とJP労組は日々感じ、考えていることが同じ部分と異なる部分があるが、突き合わせたい。共通の思いは「先人が作った郵便局ネットワークを生かし、残す」ことだ。
 一部報道で局長会が法外な利益を得ているという見方は誤解で、局長職は世襲するほど魅力ある職業ではなくなって、後継ぎも難しい。思いが共通ならば話し合うことで改善点が必ず見つかる。日々の業務には無駄もあり、コストカットとは別の観点から無駄を省けるかもしれない。
 人がいるリアルなネットワークが約2万4000局ある。しかし、2名局でも年間の維持費は数千万円。もはや既存の事業だけでは維持できない。特に地方の郵便局をどう生かすべきか。地方自治のサポートも規模が広がれば採算ベースに届くかもしれないが、なかなか手数料の折り合いがつかない。新規事業は必須だ。
 高齢者の運転免許返納が推奨され、コミュニティーバスも採算が合わない時代。郵便局ネットワークをもっと「プラットフォーム」として開放し、他社、他事業、官公庁等とのコラボレーションによる新たな事業展開を図るべきだ。
 千葉県江見駅局のような無人駅と郵便局との共創や、農業とのコラボで地域に雇用を生み出すなど県や町単位でネットワークを使いたいベンチャーの方々もいる。郵便局の事業とリンクせずとも手数料をいただくやり方もあると思う。喫茶店など、地域の実情によって活用策はさまざまあるだろう。
 都市部の郵便局は商業施設内にも入っているが、もう少し配置を考えた方がよいかもしれない。JP労組も地方の局を残すために、昼休みに窓口を閉めて生み出した時間帯で何かを始める等多くのアイデアを出した。
 局長会の、山間地で局長や社員が一部配達を担う案に賛同する。巡回スーパーも苦労し、JAも地銀も撤退する地方の局維持のために採算に乗せるには、知恵を出し合うしかない。

新ビジネス、チャレンジしかない!

 ――どのような新規ビジネスであれば可能性があると思いますか。
 石川委員長 いろいろあると思う。干し芋事業も相当苦労され実現したと局長会から伺ったが、そうしたことをやっていかない限り、新たな発見などない。一番欠けているのはそこ。会社は失敗する可能性のあるものを全部除外している。もっと現場を信じ、チャレンジすべきだ。株式配当を維持する方策として自社株買いをするだけでは社会のために意味はない。
 どの地方にも第1次産業はある。グループ内の人材を生かし尽くせば、収穫や販売はさまざま手伝え、地域がなくならずにすむ。沖縄支社(久田雅嗣支社長)が地域の団体や企業と連携する「子ども食堂」等の支援を、アナウンサーの方が「郵便局がこんなことまでやっているとは」と感動していた。食品を集め、流通ネットワークに乗せるのは郵便局らしいサポートで社会貢献になる。
 ふるさと納税返礼品も本来はもっと郵便局を使ってもよいはずだが、ほとんどヤマト運輸。ヤマトはシステムから全部請け負う。自治体も「システムも、うちでやります」と言われると、そちらを選ぶ。日本郵便が「最後の出荷だけ使ってください」では勝てない。
 40万人の社員の家族を含めれば100万人いるのだから、「自治体の返礼品に、ゆうパックを使っていただけたら社員と家族に伝達をします」と強い営業を掛けてほしい。切手等もお客さまに「Suicaで払えますか」と言われた際、「使えないんです」では負ける。
 どうすれば売れるか、に知恵を絞らなくてはいけない。例えば、スーパー等で同じ商品を売っていれば価格で負ける。お一人さまや小家族が多い昨今、多くは要らないが、種類が豊富だとニーズがあったりする。
 先日、餃子だけで売ってもスーパーの安売りに勝てないため、餃子に合うワインとのセット販売を見たが、面白いと思った。単品でなく郵便局限定の特産品もセット販売すれば売れるだろう。若く新しい発想が、勝つためには必須だ。

 ――22春闘で決まった一部ベアの背景等を教えてください。
 石川委員長 2018(平成30)年から継続的に取り組んできたのが格差の是正。日本郵便は約半数が「時給制契約社員」で、配達社員も、契約社員と正社員の賃金格差は倍違っても、仕事内容は倍違わない。
 正社員登用制度も08年に創設し、改善を重ねてきたが、22春闘は「地域基幹職」の処遇は後回しにし、時給制契約社員と正社員の2割となった「一般職」の格差是正に絞った。しかし、昨今の物価上昇を鑑みれば23春闘は全体のベアを求めていきたい。人手不足が深刻化する中、「70歳までの雇用機会確保」の努力義務を踏まえた新たな時代の働き方と連動する人事・給与制度の議論もスタートする。

 ――柴慎一参議院議員も誕生されましたが、取り組んでほしい課題は。
 石川委員長 たくさんある。すでに動きだしたものだが、第一種郵便物(定形郵便物)料金が消費税転嫁はしたものの、基本料金は28年間値上げしていない。省令改正で物価上昇に連動して上げる形なども検討いただきたい。
 また、日本郵便の収益が下がる中で、最終的には金融2社の全株処分を目指す改正郵政民営化法も、郵便局維持のために検討が必要。株式保有の一定程度義務付けなども考えなければいけない。
金融のユニバーサルサービスをなくすか否かは疑問がある。年金を郵便局で引き出すお年寄り全員が電子決済できるまではもう数十年かかり、それまではあった方がよい。

 ――〝人への投資〟が重要と指摘されていらっしゃいますが。
 石川委員長 人材でしか勝負できない会社が、人への投資を怠ったことで、じわじわとボディーブローが効いている。非正規社員や一般職を増やしたことで、幹部候補の人材確保が難しくなってきた。
 研修所の数々をなくし、各種研修はじめ人材育成の機会を極端に少なくしたこともしかり、だ。今や多くの企業が人への投資が重要と気付き、人的資本に関する情報開示の論議も起きている。
 JP労組は今年1~2月に本社・支社の組合員を対象に、「エンゲージメント(組織に対する愛着心)に関する予備調査」を実施したが、他企業の半分以下。「会社や、その事業の将来に夢を持っている」社員は18.3%。憂慮すべきことだ。末武全特会長に局長会の皆さんと対話したいと申し上げ、実現できた。現場目線の対話を継続し、郵便局ネットワークの的確な将来像を共に描いていきたい。