続・続 郵便局ネットワークの将来像6
人口減少で地域を担う人手不足などの課題に直面する高知県日高村が、今春からデータやデジタルを活用して新しいまちづくりを進める「スマートシティ」への動きを加速している。防災や健康、地域通貨など公的サービスの質向上や地域コミュニケーション活性化に向けた「村まるごとデジタル化事業」で、スマホアプリの利用を促進。2021(令和3)年度内にも住民のスマホ普及率100%を目指している。村は㈱チェンジや携帯会社との協定締結のもとで事業を進めているが、実は水面下で郵便局が支えている。
スマ友ステーションは郵便局で 共助の鍵は相談しやすい人間関係
村と2社は今年5月の協定締結から動き始めたが、スマホ申込手続きができる代理店に使える場所がなかった。
当初、代理店を作ろうとする動きもあったが、日高村企画課の安岡周総さんは国道を挟んで村役場の目の前にある日高局の谷脇久美局長に「通常業務の範囲内で構わないので、住民の方から『スマホの使い方わからんが』と相談があったときに対応してもらえないか」と打診。谷脇局長が「できますよ」と応じたため、郵便局は「スマ友ステーション」として、局前にステッカーを掲げ、〝スマホ駆け込み110番〟を受け持つことになった。
安岡さんは「以前に、アリババグループの副社長に質問する機会に恵まれ、『DX化の前提条件とは』と伺ったところ、『フーマーショップ(アリババが出資し、世界一DXが進んでいるといわれるスーパーマーケット)のアプリケーションをダウンロードしてもらうのが前提条件』とのことだった。
つまり、自社アプリのタッチポイントを作らなければ、アプリが使われず、意味を成さない。日本を見渡すと、人口の3割がオンラインに接続するポイントがない。いくらスマートシティ構想を練って形だけ作っても、住民の3割の方が使えない。都市部は3割平均でも、高齢者が多い地方では4割使えない」と嘆く。
「使えない方々を取り残すのか。若い人たちだけでよい、というのでは包摂でもSDGs(持続可能な開発目標)でもない。前提条件整えるために重要なことは、スマホ普及だけでなく、日常で使い方を相談できる場を設ける必要があった。『郵便局に行くから、ついでに聞いてみようか』ができると良い」と語る。
否応なく進む人口減少時代。行政力も右肩で下がり、公助で支える共助力も下がる中で、共助力を強めるには地域の方々の社会参加が必要になる。「役場が声を掛けるだけではできず、住民の方の人間関係の中で『この人だったら相談しても大丈夫』とお墨付きを与えることで、公助力が向上できないか考えた。スマ友ステーションは〝共助ステーション〟としたかったが、堅いため、スマホと友達になろうと表向きに〝スマ友〟としたが、地域の皆を一緒に支えてくれませんか、と実は〝共助〟の提案だ」と安岡さん。
郵便局に期待されるものは何だろうか――。
安岡さんは「無理やり地域の中心者になろうとすると自然体でないため、現場の方々にも負担が掛かり、持続可能性がなくなると思う。スマ友ステーションも結局はアナログでリアル。郵便局はブランドがあるため、他の事業者よりも優位性があるのかもしれないが、郵便局だからというより、この人だから何かをお願いしても大丈夫と泥くさい人間関係のもと、まちづくりも進んでいる。局長さんは地域住民の皆さんが相談しやすい身近な存在だ」と見ている。
お子さんが3人いらっしゃるという安岡さんは、募集問題等を経た後でも郵便局長といろいろな話をする中で、子ども全員分、かんぽに加入した。
日高局の谷脇局長は「日高村は村役場の方が手厚く住民を見守り、社会福祉協議会も手助けされているが、それでも把握できないこともあるので、小さなことでも連携を取り、報告し合っている」と話す。
ふるさと納税返礼品ゆうパックで一括契約
昨年、日高村は四国支社(安達章支社長)と包括連携協定を締結。その一環として今年4月から、ふるさと納税返礼品の配送を郵便局と一括契約した。年間1億円超の寄付金の件数は約1万件だが、返礼品配送は全てゆうパック。ゆうパックはスマホから申し込めば180円の割引もあるが、そうした情報も局だけではないスマ友ステーションにチラシを置き、配布可能なときに郵便局も地域に配っている。
「郵便局側も、配送を効率化し、CO₂を減らし、人手不足を解消するためにも再配達を減らしつつ、自分のところで作るアプリケーションを普及させたい思いもあるだろう。スマ友ステーションは郵便局だけを頼りにしているのではないが、デジタルとリアルをうまく掛け合わせて住み良い村づくりのためにはさまざまな組織が協力し合い、住民の〝ICT感度を上げる〟ことがまずは先決だ」と安岡さんは強調する。