ザ・不撓不屈(中) いんどう周作
――なぜ、政治の道を選ばれたのですか。
いんどう相談役 例えば郵便局を拠点として地域のサービスを集約する政策を打ち出した場合、農協や市町村の支所が閉鎖された地域であれば「郵便局にぜひ託したい」となるが、維持できている地域は「なぜ郵便局?」と言われる可能性がある。
その時に「大きな視野に立って将来を見通し、生産年齢人口が減少する中で地域を守るためにやっていきましょう」と言えるのが政治。総務省で郵政行政の立場から「郵便局でやりましょう」と言っても、総務省対農水省、総務省対国交省など、対等の構図の中では縦割りでうまくいかないこともある。
郵便局の現場ニーズに照準を
政治は全体を俯瞰して見ていくことができる。日本社会を守るために、これからの郵便局の姿を創造していけるのが政治力だ。
常日頃、地域活動をされている約2万4000局の郵便局で働く局長・社員の方々は、各地域のことを一番よく理解し、困りごともご存じだ。
前島密翁の時代から引き継いでこられた「郵便局は地域のためにある」とのDNAを活かす仕組みとしていくためにも、審議中の郵政関連法案は重要だが、これは一里塚であり、その先のさまざまな法整備につなぐ役目を果たしたい。だから地域活動は堂々と続けていただきたい。
――郵政関連法案についてどう思われますか。
いんどう相談役 地域のニーズを的確に収集し、課題を解決していくための資金がしっかりと投入される仕組みが現状できているのであれば今のままでもよいが、将来に向けた恒常的な仕組みも求められてくるだろう。
グループ体制の在り方は今後の検討とされているとのことだが、これまでは経営者側の視点が優先されているようにも見える。
例えば、全国各地の郵便局を回らせていただく中で、デジタル庁も経験した私からすれば、単マネ局もエリマネ局も本質的なDXはほとんど進んでいないように見える。
郵便局にタブレットを設置すればデジタル化できたと考えるとしたら、そうではない。タブレット研修を受けてください、だけでは働き手から見て、仕事時間をむしろ増やす。
タブレット導入は主にユーザー側のDX。ユーザーと働き手の両方にメリットが生まれるよう、業務の流れ全体を捉えてデジタル化する「end-to-end」の取り組みが必須だ。
郵便局のバックオフィスもAI導入をもっと進め、大局的に業務の流れをスムーズにするための投資にもっと力を入れるべき。当初は資金がかかって赤字に陥ったように見えるが、4~5年たてば黒字化できる。
総務省時代にアイリスオーヤマの大山健太郎会長とお話しする機会があった。上場をせずにユーザーイン(生活者のニーズや不満を察知し、ニーズを満たす商品やサービスを開発する経営手法)を貫いておられるが、郵便局ビジネスはそうした生活者目線が極めて合致すると思う。ましてやデジタル社会は、個人個人の嗜好性が多様化し、きめ細やかにニーズに照準を合わせなければ売れない。
郵便局長や社員の方が、その地域で生活する中でこそ、「あったらいいよね」のニーズを吸い上げた上で議論し、アイデアを出し合い、「これならいける」と皆が納得できる商品・サービスにつなげるべきだが、少なくともグループ各社が現場ニーズを吸収できる体制が確立しているとは言い難い。
デジタル庁時代には、デジタル推進委員という仕組みづくりに携わったが、例えば高齢の方々がスマホを思う存分使いこなせていないことも生活者視点の一つだ。使い方を教えて、生活をより便利に感じてもらうデジタル推進委員の役割を郵便局が担う取り組みも各地で始まっている。社会のデジタル化が進む中、郵便局はデジタルに弱い人にとっての拠点にもなれる。
――経営の軸足を株主から生活者に移すということですか。
いんどう相談役 生活者目線でビジネスになるものを探り出し、できるものに投資し、できないものは生活を守るために国や自治体が補助する。フランスでは、郵政公社の「ラ・ポスト」が国と契約し、拠点料を一部受け取る仕組みがある。
これからの日本も農協、漁協、ガソリンスタンド、診療所等々、生活に必要な地域のあらゆる産業や公的サービスを維持するために、皆で協同して一緒にやろうと、郵便局を拠点に従来の縦割りを超えて横につなげていくことが重要。そこにはデータ連携も不可欠だ。(続く)