続・続 郵便局ネットワークの将来像㊴

2024.12.11

 郵便局の自治体事務を真に〝丸ごと〟受託できるようにと、自治体からの要望が出されている。郵政民営化委員会(山内弘隆委員長)は10月8・9の両日、長野県泰阜村を視察した。一行は、5年前に郵便局に自治体業務を包括委託した村役場、受託局の温田局(中島淳子局長)、門島簡易局(鈴川航局長)を訪れ、現状と課題を聴き取られた。(写真は全て温田局。郵政民営化委員会資料から)

政府 受託制度見直し検討へ

 昭和初めの最盛期には5000人余りだった人口が、今年11月1日時点で1432人と人口減少が著しく進む泰阜村は、2019(令和元)年7月から、全国で初めて行政事務を郵便局に包括委託した自治体として注目されてきた。

 当初、村の25業務を取り扱うことになった温田局は、無人駅のJR東海飯田線温田駅から徒歩約3分のほのぼのとした自然に囲まれた地にある。農協や宅配業者の拠点も撤退し、コンビニもない村は郵便局に事務を委託して支所を廃止し、人員やコストを減らした。
 民営化された郵便局にとって最も肝心なことは事務手数料だ。ボランティアでは郵便局ネットワークを守ることはできない。温田局の場合、当初年間200万円で交渉が実った。
 自治体が一つの支所を維持するコストは19年時点で人員1名の場合、年間400~600万円とされ、郵便局に委託すれば、はるかに安い金額で行政事務が維持できる。ただ、温田局では当初の年間の確定額から1案件ごとに算出する手数料体系に途中から変更された。

 温田局には住民サービスのためにキオスク端末(写真上)も設置され、マイナンバーカード関連業務も取り扱い、住民の方々の評判も上々。
 温田局の中島局長は「車で20分かかる村役場まで行かなくても、とりあえずできる点で住民の方々には喜ばれている印象を受ける。毎日必ず行政事務を希望するお客さまはいらっしゃって、郵便局の本業と半分程度。証明書の交付やごみ袋の販売、さまざま提出しなければいけない書類を郵便局に提出に来られる。申請書とは別に調査報告書等の提出物もお持ちになられる。コロナ時期は予防接種券も交付し、全体的には補助金申請用紙の交付等が多い」と話す。
 温田局の住民の方の自治体業務の利用は年間千数百件に上るそうだ。
長野県南信南部地区連絡会の栁田二郎統括局長(大島)は「郵便局のできる業務は増え、利便性も高まることで、この地に住み続けたいと思っていただける」と語る。
 5年前に温田局長を勤めていた丹羽亮浩局長(現在は天竜峡局長)は「包括事務受託が始まる以前と以後を比べると、受託後の方がお客さまは増え、過疎化に少しでも歯止めをかけられると思えた。受託当初はできなかったが途中で地方分権法等の改正も行われ、代理人請求や転出届も郵便局で取り扱えられるようになり、納税証明書や所得証明書等の手続きに、ご本人だけでなくご家族の方も来られるようになった」と振り返る。
 ただ、転出届はできるようになったものの転入届はできず、温田局では転入届の手続きを希望する来客があった場合、村役場の職員の方が郵便局まで車で20分ほどかけて局まで出向く。来客者を待たせてしまうことや村役場に申し訳ないとの思いから、局窓口では「村役場に行かれるよう、お願いします」と来局者に言わざるを得ないことが多い実態も視察では分かったようだ。

包括的から〝丸ごと〟に

 温田局から始まった郵便局による自治体の包括事務受託。丸5年が経過する中、全国各地で徐々に増え、現在、実際に郵便局に包括事務を委託する自治体は全国で約40自治体。人口減少が急速に進む中、人手や資金不足で悩む自治体数に比例して全国に広がった方が地域を守り、地方創生につながる。
 自治体事務のうち、マイナンバーカード関連業務委託も郵便局側に手数料が入ってくるが、自治体はその資金のために22年度は総務省の補正予算の補助金で賄え、23年度からは特別交付税措置があったが、3年間で終了する。視察では、その後の特別交付税措置の継続も村から要望があったようだ。
 郵便局による自治体業務をほぼ包括から〝丸ごと〟受託を可能とする制度見直しや、特別交付税措置等々、持続可能な郵便局ネットワークの仕組みを政府が検討する可能性が出てきた。

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