郵便局が診療所に 地域医療の未来形 リアル×デジタル
実装として全国初の「郵便局スペースを活用するオンライン診療」が7月16日、山口県周南市和田地区(人口約1000人の中山間地)の高瀬局(福谷直美局長)に「和田巡回診療所」と看板が掲げられ、スタートした。山口県の離島、柳井市平郡島と岩国市柱島等でも始まるもようで、離島や山間地に広がっていきそうだ。周南市からの委託を受け、「月1対面診療×週1オンライン診療・服薬指導」の仕組みは、足しげく県や各市、医師会、薬剤師の団体等に依頼や相談を重ねた地元、山口県周西地区連絡会の福田信一郎統括局長(徳山櫛浜)や自見はなこ地方創生大臣に郵便局のオンライン診療を要請し、同じ思いでさまざまに動いた全国郵便局長会の末武晃会長(萩越ヶ浜)らの水面下の努力があった。長谷川英晴参議院議員も国会質問等で後押しを重ねた。
自治体等の強固な理解と協力で実現
(左)末武全特会長(右から2人目) (右)福谷局長㊥らが看板設置
「和田巡回診療開始セレモニー」で山口県立総合医療センターの原田昌範へき地医療支援センター長は「自治医大卒業後、へき地医療に従事し続ける中、離島やへき地のどこに派遣されても郵便局があり、お世話になった。医師の仲間は全国にいる。同様に郵便局も全国に約2万超あると聞く。地域医療を担う医師と郵便局が連携することで、多くの方が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる仕組みが全国に広がることを願っている」と語った。
〝人生〟に寄り添う いつでもそばに
新しい郵便局の役目 相談等もOK
(左から)砂支社長、藤井市長、原田センター長
(左から)國吉健康福祉部長、吉田薬剤師会会長、福原社協会長
周南市は8年前に和田地区が無医地区となって以来、さまざまな医療体制を検討してきたが、診療所の場所や医師の確保など解決すべき課題が多く、難航。「郵便局スペースを活用するオンライン診療」は自治体をはじめ、多くの関係者の願いをもとに協力を得られたこと、厚生労働省等による段階的な制度の見直しも後押しする中で約2年かけて実現した。
高瀬局内の和田巡回診療所は毎月第3火曜に対面診療、対面での初診を必須条件に、それ以外の火曜は予約制でオンライン診療を行う。診療終了後、オンラインで処方箋薬局を回線で接続し、薬剤師によるオンライン服薬指導を経て、患者宅に薬を配送。診療代と薬代は診療後に送付する納付書で金融機関(郵便局)に支払う仕組みだ。1室は診療のない日は相続等の相談ブースとしても活用する。
セレモニー冒頭、周南市の藤井律子市長は「日本郵便から提案いただけたことで各方面と協議を重ねた結果、郵便局スペースを活用した『巡回診療とオンライン診療』を同時に開始できたことに感謝申し上げたい。オンライン診療で通院の負担を軽減し、対面診療では健康診断や予防接種も受けられる。健康で安心した生活を多くの方々に利用いただきたい」と喜びを見せた。
中国支社の砂孝治支社長は「医療資源が限られた地域で医療提供体制構築に寄与し、地域住民の方の暮らしを支える素晴らしい取り組みを市と行えることに感謝申し上げたい。日本郵便は、今年度の経営理念を新たに『一人ひとりの人生に寄り添う。すべての人の心をあたためる。』と掲げた。郵便局はいつでもそばにあって相談できる存在としてまい進する」と意欲を示した。
山口県健康福祉部の國吉宏和部長は「保健医療は周産期から人生の最終段階までの全ての過程に関わる。郵便局でのオンラインによる診療と服薬指導は、住み慣れた地域で安心し、健康で暮らすために限られた医療資源でも効率的で持続可能な仕組みとして期待でき、他地域にも参考になる」と指摘した。
山口県薬剤師会の吉田力久会長は「郵便局のプライバシーに配慮したスペースでのオンラインでの診療と服薬指導は患者、医師、薬剤師に限られた時間と医療資源の有効活用。多くの高齢者が不安に感じる通信機器の利用方法、セキュリティー確保も郵便局に人がいてくれることで解決」と強調。
和田地区社会福祉協議会の福原哲郎会長は「ユニバーサルサービスを手がける郵便局が医療まで手がける全国初の取り組み。全国に広がり、地域医療の進むべき答えになればありがたい。無医地区に医療機関ができることは生きづらさ、生活しづらさが解消される。それが〝福祉〟。成功させたい」と語った。